第4話 予定
ここは倉庫街ラージ。海に最も近い街からのアクセスも良く、森に近くて周囲に危険な愚獣 (会話のできない危険な獣を表す。喋れる方は獣人と呼ばれる)もいないことから退職後の移住先として大人気である。そんな平和な雰囲気の漂う街に、ヨロヨロとしたボロ雑巾が2枚。
「クソ…見晴らしのいい平野のど真ん中でBBQなんてするんじゃなかった…」
「めっちゃ愚獣が寄ってきましたね…」
零のリュックの中からも肯定の鳴き声が響く。昨夜、この街まで続く街道の途中でアンリシードの肉を焼いていたら、周りにすごい量の愚獣が寄ってきたのだ。追いやったりしているうちに、2人とも徹夜していたのである。
「まぁいいや。とりあえず緊急の仕事がなかったらゆっくりして、その後魔王についてもっと詳しく喋るわ」
「前の街ではもぐらのせいでゆっくり話せませんでしたからね…」
そう。なんだかんだ仲良さそうな2人だが、描写範囲外だとほっとんど喋っていないのである。当然狩人の仕事内容も旅の目的すらも話し合っていない。アホである。
「ここにも猟友会事務所がないか探すか」
猟友会事務所とは、前の街で零とフェルが出会ったところである。大体の狩人が依頼と酒を求めて訪れる。マッチョが多いためその近辺は謎の威圧感がある。そこを訪れた2人だが、依頼書の貼ってある掲示板を見て胸を撫で下ろす。
「ヨカッタ〜!」
「何も無いですね!」
「あるけど俺たちがやらなきゃいけないやつは無いな!なんか、受ける義務は無いけどさ!困ってるのに放置するってなんか目覚め悪いもんな!ヨカッタ無くて!」
皆さんは経験ないだろうか?目の前で泣き出した人がいた時、かなり迷いに迷って立ち去る経験が。家でなぜか悶々としてしまう経験が。
「あら?」
そんな2人に後ろから猫人が話しかけてきた。
「お二人さんもしかして狩人かしら?ちょうどよかったわ〜ちょっと受けてほしい依頼があって…」
「「他の人に回してくださーい!」」
最後まで言い終わる前に2人は駆け出していた。目指すはホテル!暇そうな狩人は良く道端で話しかけられる。なまじ便利屋のような存在となっているからだ。特に2人は威圧感が足りず、チョロそうなので尚の事。子供を飛び越え老人をかき分けさながらメロスのように走る。何とか目的のホテルにたどり着き、二部屋借りてから零の部屋に集合した。
「「はぁ〜」」
完全に疲れ切っている。フェルはともかく零は慣れているのでは?と思われるかもしれないが、普段の彼は、野宿では新鮮な愚獣の首を飾って威嚇しているので快適度合いが段違いなのである。街では仏頂面で歩いてるのでしっかり威圧感を出ているので話しかける人もなかなかいない(いるにはいるが)。今回はフェルがいたのでやめておいたのだが、その結果が一睡も出来ないという今の状況である。
「どうする?先に予定を話しとく?」
「もうしんどいのは一度に終わらせましょう。今日の午後とかに回すより先に終わらせて1日中寝ましょ」
「そーか?夏休みの宿題と一緒か」
そして零は話すためにベッドから体を起こす。そして床に寝転がるフェルに話し始める
「まず俺が何を討伐するためにこの大陸に来たかは言ったよな?」
「聞きましたけどそういえば零さんって別の大陸から来たんですね?」
「おう。その理由が魔王だな。ここから南に行くと穢土(エド)っていう地域があるんだが、そこに現れてな〜。どうもそこの愚獣を殺し回ってんだってよ」
「えっ?エドの愚獣って強い種族が多くなかったですっけ?」
「ああ。だから獣人もほとんどいない地域だ。そこで暴れまわれるってことは…まぁクソ強いわな。」
「やばいじゃないですか」
「だからこそ俺が行く。」
そう言って親指で自分を指差す。
「そういえば前の街では貴方が最強っていう話でしたけど全体だとどのくらいの強さしてるんですか?」
「ん〜そうだな〜最強ッス」
「…ふ〜ん」
「何その何とも言えない反応!?」
ギャーギャー騒ぎながらも話が進んでいく。
「えっとつまり?魔王を討伐しに南へ行くのと同時に穢土地から漏れ出した愚獣を狩っていくってことですか?」
「そーそー。たぶん他地域の主とかも活性化してると思うんだ。だからお灸をすえよっかなって」
その時、フェルは少し思案してから口を開く。
「そういえば何で魔王発生が分かったんですか?あと現地の狩人は?彼らが倒せばいいのでは?」
「ん?あ〜」
そう言うと零は少し悩む。そして渋々口を開く。
「ほとんど壊滅したよ。そりゃ討伐隊が編成されないなんてことは無いけどさ…」
「え?そんなやばいんですか?ヤバイじゃないですか!貴方ごときじゃ瞬殺ですよ!?」
「ボロクソ言うじゃん」
「だって貴方が真正面から正々堂々と戦うところ見たことないですもん!」
「モグラのときは?」
「金的で終わらせたじゃないですか!確かに目で追えない速さでしたけど、兵器を使わなきゃいけないような相手と戦えるとは思えないんですよ!」
「はいはい。まぁ道中味方を集めながら向かいますわ」
「そーしましょう。ところで、仲間を集めるって言ってますけどこの街には居ないんですか?」
「ああ何人かあたりをつけてるよ。ただ…」
「ただ?」
「とりあえず寝たい…」
「確かに…」
というわけで2人は各々の部屋に備え付けられた、硬めのベットで眠りについた。朝起きたのは36時間後だったという。寝すぎだね
鎖上の楽園 @399
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