第8話 表ヒロミチ伯爵の大和

 姫路市の上空、高度一万メートルの空に巨大な浮遊物体があった。

 だが、その物体は視認することが出来ない。


 それを包み込む様、球状に張り巡らされた『光学力視覚乱偏光サートリシネイムズ・グレイヴ・フィールド』の力だった。

 そのため、姫路市上空に浮かぶこの物体の存在を知る者はごく僅かである。


 浮遊物体の形状は、まさに大陸だった。

 大陸ほどの巨大さこそ無いものの、その形や質は大陸を縮小化したと思える。


 その土地には一つの大きな建造物がたたずんでいる。

 中世ヨーロッパの城の様な形をしており、普通の建造物には見られない神々しさを放っている。

 真っ白な外壁に、処々赤や青の装飾が施されている。

 知る者の間で『パレス』と呼ばれる城であった。


 『パレス』の最上階にある大聖堂では、二人の男女の姿があった。

 大聖堂の奥の祭壇の上に座り、仲睦まじく談笑している。

 そこに、一羽のカラスが天窓から飛び込んできた。


「アツシのカラスだな」


「そうみたいね」


 カラスは、ちょうど二人の上でポンッと爆発し、一枚の紙に変わった。

 男はその紙を受け取り、書いてある文章を読んだ。


「プロジェクト・ナミコが起動したか」


「え?」


 女の方は驚愕の表情に変わる。


「プロジェクト・ナミコって、もしかしてあの松田タクヤの遺産?」


「そうだ。奴が秘密裏に研究していた人体実験の完成型だな」


「それって、どんなプロジェクトだっけ?」


「俺も詳しくは知らん。だが、究極の戦闘能力をもつ人間を造り出すというイカれた研究だった」


「究極の、戦闘能力……どれほどのものでしょうね?」


「目指すは地上最強の生物ってところか。聞く話によれば、卓越した戦闘能力を得る代わりに、精神的な制約を受けていると」


「制約?」


「異常なまでに男を憎むらしい。その憎悪は、常軌を逸しているとも」


「ますます目的な不明ね」


「何をしようとしていたのかさっぱり見当もつかないが……器でない者が過ぎたる力を持てば、碌なことにはならんだろう」


「おもしろい事になりそうじゃない」


「ああ」


 二人の陰は、近すぎる月の光に照らされ、怪しく伸びた。

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