第10話 馬の召喚

 水魔法を当てないとまともに戦えないあの岩の塊⋯⋯ゴーレムなのだが。

 そいつ、普通なソウルを落とすだけだった。


 「上質なソウルでも良いのに」


 ステータスカードでカウントされる敵の強さとソウルの質はイコールだ。

 ゴブリンと比べても明らかにゴーレムの方が強くても、ステータスカード的にもソウル的にも同じ強さらしい。


 「それは良いとして、次は強化方法だな」


 どれだけ訓練しても実戦に扱えるレベルに強くならないアンデッド兵。

 根本の問題である身体能力をどうにかする方法を僕は考えている。

 質の高いソウルで召喚するのが手っ取り早いが、それだと今まで召喚した奴らが報われない。

 どうにかして既存のアンデッドを強化する方法はないだろうか?


 「魂⋯⋯ソウルだっけ? それを与えてみたら?」


 「その方法が分からないんだよね」


 隣に銀色に輝く鮮やかな髪がふわりと揺らめいた。

 翼妃が隣に座った。

 静香は新しく水魔法を扱うようになったので武器の杖の調整へ向かい、陽介は付き添っている。


 「ソウルを込めればきっと強化出来ると思うけど⋯⋯方法がなぁ」


 「ユニークスキルなんだから、自分でなんか出来ないの?」


 「ソウルをソウルだけで取り出すってのが出来ないやだよね。無い袖は振れないってやつ?」


 ソウルは自覚出来る。僕の中にしっかりとある。

 しかし、ソウルは召喚くらいでしか使えない。

 現世に出す事も出来ないし、やり方もイメージ出来ない。


 そもそもだ。

 ソウル⋯⋯魂だが、そんなモノをどうやって自覚して操れと言うのだ。

 魔法は理解、想像が必要だ。その二つが欠けている状況。


 「ん〜兵に持たせる武器問題も解決出来そうなんだけどな」


 ソウルは召喚するための媒介⋯⋯と言う認識だったが今では違う。

 ソウルはこの現世に固定化するためのアイテムだ。

 骨の剣をソウルを使って作れば、永続的に使える骨の剣になる。


 その性能は⋯⋯陽介が振るうだけでへし折れるくらいには脆い。

 ゾンビの剣は腐肉なので役立たない。

 スケルトンとゾンビ以外にも召喚出来るアンデッドがいれば良いんだけど、今のままでは無理。試してもこの二種類のうちどっちかになる。


 「この武器の扱いの練習もしたいし⋯⋯やりたい事がいっぱいだ」


 「黎が楽しそうで私は嬉しいな」


 「なんか照れる事言うね」


 流れる気まづい空気。


 「そ、そうだ。新しい上質なソウル。使い道考えた?」


 「えっと⋯⋯やっぱり移動用のアンデッドが欲しいと思って。まだ人型以外はやった事無いから不安だけどね」


 移動用のアンデッドがいれば移動に使う体力を温存出来る。

 ベタだとは思うが、骨の馬を狙って召喚したいと思っている。


 「普通なソウルで練習しようと思ってるけど⋯⋯どうかな?」


 「ん〜黎がそうしたいならそれで良いと思うけど、私の意見を言うならちょっと違うかな」


 「え?」


 確実性が高いと思うけど、違うのか?


 「私を助けてくれようとした時、強い感情によって背中の刃が生えたんでしょ?」


 「そ、そうだね」


 翼妃はあの時の光景を思い出したのか、モゴモゴと口を動かして体操座りで顔を腕で隠すように埋める。

 嫌な事を思い出させてしまったか?

 そうだとしたらかなり申し訳ない。


 「だからさ。私達のために絶対に成功させる。⋯⋯そんな強い感情があった方が良い結果が出るんじゃない?」


 「一発勝負か。結構怖いな」


 「大丈夫だよ。私は失敗するとは思ってないけど、どんな結果でも誰も文句言わないしね」


 にこやかに笑う翼妃に僕は勇気と元気をもらった。


 感情⋯⋯静香が言っていた。

 感情も魔法に影響を及ぼすと。

 なら、翼妃の意見も正しいかもしれない。


 「だったら一発勝負だ。この一つに僕の気持ちを全部込める!」


 だけどしっかりとイメージしたい。

 だから僕は翼妃からスマホを借りて馬の動画を眺める。

 紙とペンを買って来てもらい、馬を描いていく。


 「⋯⋯それって意味あるの?」


 「分かんない。だけど、全部を込めるって言ったからね。出来る事はやりきりたいんだ」


 「そう。私、黎のそう言うとこ好きだな」


 「ッ!」


 「あ、あれね! 友達の好きなところって言う、アレ!」


 「あ、ああ。も、もち、もちろん分かってるよ!」


 一体僕達は何を言い合っているのか。

 疑問に思いながら僕は準備を終えたと確信する。


 翼妃の用意してくれたおにぎりを食べ終えてから、僕は頭の中で馬のイメージを固める。

 ゾンビかスケルトンか⋯⋯機動力に優れて欲しいからスケルトンをベースにしよう。


 「上質なソウルを使えば使い物になる頑丈さはあるはずだ」


 蜘蛛の足が実際そのような感じだ。

 上質なソウルを使って召喚を行使する。


 移動を楽にして長期探索を可能とする相棒。

 多大な荷物を運ぶ時にも役立つ⋯⋯勇猛な馬が良い。

 皆とこれからも探索出来て、一緒にいられるようなそんな仲間が欲しい。


 「来い!」


 「頑張れ!」


 魔法陣が僕の目の前を中心に広がり、にゅるりと馬の形をした骨が出現した。

 完全に体を出して、魔法陣が消える。

 同時に前足を上げて動かし何かのアピールをする。


 鳴き声は出なかったが、きっと『ひひーん』と言っている。

 召喚されたスケルトンホースは僕に擦り寄るように歩んで来る。

 骨が硬い地面をカラッカラッと歩く姿には感動さえ覚える。

 一度、僕の頬に頬擦りした後に翼妃の方へ向かった。


 「え?」


 「ん?」


 スケルトンホースは縦長の顔を翼妃の胸に押し当てるように倒れ込む。

 ポヨンと揺れる光景を僕は瞼の裏に焼き付けてしまった。悪気は無い。馬を目で追ったらたまたま視界に入っただけだ。


 「⋯⋯って何してんの!」


 「ありゃりゃ。甘えん坊だね」


 「甘えん坊なのか? 邪悪なるオスの気配を感じるぞ」


 光なき目の穴が空いた部分を僕へチラリと向けた後、翼妃へもたれ掛かる。


 「あはは。なんかひんやりしてる」


 「嫌だったら吹き飛ばして良いからね?」


 「えー可哀想だからそんな事しないよ」


 翼妃はよしよしと馬の頭を撫でる。

 顔での感情は読み取れないが、尻尾が嬉しそうに左右に動いている。


 召喚には成功した。だが性格に難ありだな。


 「⋯⋯黎も来る?」


 目を泳がせながら翼妃がそんな事を言う。

 一瞬思考を停止させてしまったが、僕は断る。


 「いや、良いです」


 勿体ないとか⋯⋯思ってないんだからね!


 僕は一度深呼吸をする。


 「おふざけは終わりだ。ちゃんと仕事出来るかで今後の活躍が決まるぞ」


 馬は翼妃から離れると立ち上がり、廊下へと自分から出た。その足取りに迷いは無い。

 薄々感じていたが召喚したアンデッド兵達は情報か知識の共有をしている可能性がある。


 一度実験として一人にだけ教えた情報で他の奴数人に問題を出すと、全員しっかりと答えを当てたのだ。

 個体差があるので知能が低い奴でも間違えないように、凄く簡単な問題だ。

 それを10回繰り返して、10回とも同じ結果を示している。


 試行回数が少ないと言われればそれまでだ。

 だが、今実際に馬は現状を把握して何をするべきか考え、そして満足行く成果を出すために廊下へと出ている。


 馬が体を向けた方向はダンジョンの奥。

 他のグループの部屋があるため僕達は立ち入らない奥の場所だ。


 「⋯⋯乗れって事かな?」


 翼妃が言った通り、スケルトンホースは乗れと言わんばかりに膝を曲げている。

 騎乗するが、なんの抵抗も無かった。

 「男は乗せねぇ」とか言うクソ役立たない思想の持ち主じゃなくて安心したのと、せっかくの個性を捨てている気がすると言う複雑な感情になる。


 「⋯⋯わ、私も乗って良い?」


 ソワソワした様子で、だけど興奮を隠しきれていない翼妃。

 僕は問題無い。馬も問題ない⋯⋯むしろ喜んでいるのか尻尾を振ってやがる。

 なんて分かりやすい奴だ。


 「それじゃ、失礼して」


 僕の後ろに乗った翼妃が後ろから腕を回して来る。

 細い腕がしっかりと僕のボディをホールドする。

 そして振り落とされないためにか、かなり密着される。


 「ッ!」


 柔らかいぷにっとした感覚が背中にいいああああ!

 うん。なんでもない。気にするな。気にするな僕!


 「ふぅ。セーフ」


 「え? 何が?」


 「僕の尊厳を守る鋼の決意さ」


 「は?」


 「それはさて時。このままじゃ危ないし、手網を用意しよう」


 骨の手網を形成する。ソウルは使ってないので一定の時間が経てば消失する。

 馬の口に噛ませ、走らせる。


 「黎は乗馬の経験は?」


 「少しだけね」


 パチンっと手網を動かせば馬は走り出す。

 その速さは⋯⋯本物の馬と何ら変わらない。

 車のような速さは無いが、馬の中でも速い部類の速度だ。


 「あははは。気持ちいい!」


 翼妃が楽しそうにはしゃぐ。

 それが嬉しかったのか、笑う力は無いはずなのに馬が笑った気がした。

 そして⋯⋯加速する。


 「これは⋯⋯リアルの馬を超えてるな」


 向きを変え、帰るために一直線の道を戻る。

 その際、わざとらしくガクンガクンと上下に揺らして来る。


 「ちょ、走り⋯⋯にくい⋯⋯ッ!」


 「あははは! 楽しいいい!」


 「⋯⋯」


 「ん? 黎?」


 上下に揺れている。

 それ以上は何も言うまい。


 部屋に戻るまで、僕は一言も発さなかった。


 「黎。大丈夫? 酔った?」


 心配そうに僕の顔を覗き込む翼妃。

 その無垢な輝きを持つ顔から目を逸らす。直視してはいけない気がした。


 僕は馬の頭を撫でる。


 「コイツは良い奴だ」


 「ん? そうだね?」


 どうしたの? と言った表情を浮かべる翼妃。

 これは漢の友情って奴だ。翼妃には分からないし絶対に理解させたくない。

 僕の心情をしっかりと理解しているのか、ドヤ顔をしている。

 顔は動いていないが、ドヤ顔していると感じたのだ。


 「お前には名前が必要だな。これから旅を共にするんだから」


 陽介達が帰って来たら一緒に考えるか。


 その後、帰宅した陽介達は驚いた様子でスケルトンホースを眺め撫でていた。

 試しに順番で騎乗してみた。


 そこで、翼妃と静香のペアが一番速い速度を出すと分かった。

 体重は問題では無い。問題なのは馬本人のモチベだろう。

 コイツは分かりやすい。僕はしみじみ思う。

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陰キャモブ、家出して不良グループに絡まれダンジョン攻略を始めたらリア充になっていた〜英雄も勇者も魔王も興味が無い。ただ仲間と楽しみたいだけだ〜 ネリムZ @NerimuZ

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