第9話 攻撃水魔法の学びへ

 買い出しが終わり、昼食を食べた後にダンジョンに行く事になる。

 前回のマンドレイクのダンジョンは他の人が攻略したため無くなっている。

 今日は別のダンジョンへ行く事となる。


 「そんじゃ、行くか」


 陽介を先頭に立たせ、僕達はダンジョンへ入った。


 「あっっっっっつ!」


 翼妃が入ると同時に大声で叫んだ。

 パーカーを着ている翼妃だから熱い訳では無い。このダンジョンの気温が凄く高いのだ。


 周囲は洞窟の壁のような石っぽいが、赤い液体がドロドロと流れている。

 マグマのように見えるがマグマでは無い。

 手を近づけても沸騰した水くらいの温度しか無いのだ。


 「光源には困らないな」


 この熱い液体は光源となるため、ダンジョン内はかなり明るい。

 熱さとの戦いになるため、思考能力の低下が心配になる。


 「天井は高いね⋯⋯ただ横が少し狭い気がする」


 翼妃が冷静に状況を分析する。

 確かに、天井はかなり高い。それと液体は流れていないようだ。


 「このダンジョンはまだ新しく出現したばかりで情報があまり出回っていない。気をつけて行くぞ」


 「そんな危険なの選んだの?」


 陽介へ僕が質問する。


 「ゲートから漏れ出る魔力量の計測結果は今まで俺達が攻略して来たダンジョンと同レベルの難易度だ。そこまで危険性は無いと思ってる」


 「なるほど」


 「新しいなら掘られてない財宝沢山ありそう!」


 「うん。私も同意見」


 興奮している翼妃と静香を見て、陽介はバツの悪そうな顔を浮かべる。


 「それが二週間程経ってるのと、大きなクランが本格的な攻略に出た事のあるダンジョンだから、宝は少ないかもしれない」


 「「え〜」」


 大きなクラン⋯⋯ハンターの会社みたいなやつだっけ?

 でもそれだったらダンジョン攻略されている気も⋯⋯いや、そこまでは面倒だったのか?

 宝が欲しかっただけで、攻略自体には興味が無かったのかも。

 大きなクランって言う程だから、僕達が攻略出来る程の低難易度では討伐報酬は渋いからな。


 「翼妃、警戒頼むぞ?」


 「まっかせな!」


 それから数時間、この猛暑の中を移動し続けた。

 こんな時、移動用のアンデッドがいれば凄く楽になると思った。

 うん。めっちゃ欲しい。


 「全然⋯⋯モンスター⋯⋯出ない!」


 翼妃が愚痴るように叫んだ。

 本当にその通りだ。

 きっと他にも沢山の人がこのダンジョンの攻略に出ているのだろう。

 その人達によってモンスターが狩られている。


 「モンスターを倒せなければ収益はゼロ⋯⋯クソ。服もベタベタして来た。とりあえず休憩にしよう。この熱さだ。体力の消耗もエグい」


 誰も拒否しない。


 「冷たい水出すね」


 静香が魔法でキンキンに冷たい水を出してくれた。


 「「「いぎがえるうううう!」」」


 「ふふ。皆そっくり」


 静香がいなければこんなダンジョン絶対に来ないだろう。そう確信した。

 休んでいる間、僕は背中から蜘蛛の足のような骨を生やした。

 ソウルを使った結果か、コレはアンデッド兵のように自在に呼び出せたり消せたり出来る。


 近接用の武器にもなり、機動力も向上させられる。

 どこまで動かせるか検証不足ではあるが、この足の強さは本物だと思っている。


 「黎、それって何か名前あるの? と言うか後ろどうなってるの?」


 「名前は無いよ。後ろはこんな感じ」


 僕は背中を皆に見せる。

 実はこの足、服を破る事無く飛び出ている。

 どうなっているのかは、付け根の部分を触ればすぐに分かる。


 「うわっ! スケスケだ」


 「おもれー。ゴーストみたいな感じか? 少しだけひんやりしてるな」


 翼妃と陽介が付け根の部分をスリスリと撫でながら確認する。

 くすぐったい。


 「わ、私も良い?」


 「もちろん良いよ」


 「⋯⋯ほんとだ。不思議」


 「これが意図的に出来た、壁貫通攻撃とか出来そうなんだけど⋯⋯残念ながら意図して透過させられないのが難点だね」


 この足の破壊力は硬そうな岩の壁を貫く事が出来る。

 上質なソウルを使ったからか、丈夫だし強い。

 今まで召喚したアンデッド兵はバカみたいだ。


 「ん? モンスターの気配」


 翼妃の一声で全員が警戒する。

 曲がり角からゆっくりと現れた岩の塊⋯⋯岩が動いている?

 顔と思える位置に目らしき穴が空いている。


 大きなさ天井ギリギリ、横もかなりギリギリのサイズだ。

 厄介なのは沸騰した水並の液体がモンスターの体から流れていると言う事だ。

 ステータスの力があるとは言え、あれはかなり熱い。火傷する可能性もある。


 ただし、岩の体だからか動きは鈍い。

 遠距離からチマチマと攻撃が可能なら⋯⋯勝機は十分にあると言える。


 「せっかくだ。僕からやろうかな」


 僕が矢を番える。矢に魔力を流し、イメージを固める。

 矢が骨を纏い大きくなる。


 武器に死霊の力を付与した事をきっかけに可能となった強化術。

 同じように弓も強化する。


 精度は僕の力次第だが、火力は倍以上だ。


 「行っけ!」


 僕は渾身の力で矢を放った。

 僕の矢はモンスターの頑丈な体に命中し、ボキッとへし折れた。

 威力は高かった。高いんだ。


 高かったから、ベースとなった矢本体ごとへし折れたのだ。


 「もったいない」


 「まぁあれだ。武器がまだ初心者用だからな。仕方ないさ!」


 「そうそう! 黎とは相性が悪いだけだよ」


 「大丈夫。私達がいる」


 「慰められると余計に惨めに感じるよ」


 だが、僕にはまだ触手のような骨の蜘蛛足がある。

 しかし、あれを見て効果があるのかは少し懐疑的だ。


 「いつも通り行くぜ!」


 翼妃が陽介の言葉と同時に駆け出した。

 モンスターが巨大な腕を振り上げる。


 「⋯⋯あ、これはまずいや」


 回避するスペースが存在しない。

 とんでもない膂力で叩き落とされた拳は大地を揺らし、衝撃波を飛ばす。


 「翼妃!」


 「よろしく」


 僕はゾンビの力を陽介に付与した。

 衝撃波を誰よりも前に出て一人で受け止める陽介。

 激しい風が吹き荒れ、ブチブチと言う何かが切れる音が鼓膜を揺らす。


 「ナイスだ黎弥。腕は無事だ」


 剣を抜いて陽介が駆け出す。


 「動きは鈍い! 俺でも回避出来る!」


 意気込んだ陽介だったが、回避する余地を与えない拳の突きが飛んでくる。

 陽介は慌ててUターンし、壁を駆けて翼妃が刃を通す。


 「硬いっ!」


 カキンっと金属音が鳴り、火花が散った。

 このままでは押し負けるか。


 耐久力が尋常じゃない程に高く、大きさと質量を兼ね備えた攻撃は脅威だ。


 「静香、水魔法で攻撃してくれ。見た目的に水に弱いはずだ」


 「えっ」


 陽介の言葉に静香の思考が停止する。


 「む、無理だよ。私が使えるのは生活レベルなんだよ。攻撃なんて無理だよ!」


 「⋯⋯無理だって決めつけんなよ。静香、俺はお前を信じてる。お前にしか出来ないんだ」


 目を限界まで見開く静香。

 陽介に期待に応えたいのか、震える手でステータスカードを操作して杖に着いてる魔石を切り替える。

 杖をモンスターに向けるがその手は震えている。


 ⋯⋯陽介はどうしてこんな選択を取った?

 相手は今までと違い遅い。逃げる事は可能だ。

 それでも尚、静香に魔法を使わせたいのか⋯⋯。


 僕は買い出しの時を思い出す。

 自分を穢れていると、静香は言っていた。

 どうしてそう思っているのか、そう思うに至った経緯は分からない。

 もしも陽介がそんな静香を変えさせたいのら⋯⋯あるいは自信を与えたいのか⋯⋯。


 多少乱暴な気もするが、人はそうでもしないと行動に移しにくい。

 僕だって⋯⋯自分の身に危険を感じて家出したんだ。

 どんなに辛くても寂しくても耐えて来たけど⋯⋯あれが限界で僕は動けたんだ。


 だったら僕は⋯⋯。いや僕も。


 「大丈夫だよ静香さん」


 僕は静香の杖を握った。


 「え?」


 「僕も陽介くんと同じだ。静香さんなら出来る」


 「でも、今まで一度も」


 「挑戦しようとした時はあったと思う。その時は出来なかったかもしれない。だけど静香さんは成長しているはずだ。初めての挑戦した時と今とでは全く違う」


 杖が骨を纏いその形を変えて行く。


 「僕は静香さんを尊敬している。魔法の扱いが上手なあなたを。静香さんは理解しているはずだ。水魔法を。想像出来るはずだ。攻撃方法を」


 魔力はある。制御も可能だ。

 あと必要なのは⋯⋯魔法を使うと言う覚悟と自信だ。


 「静香。俺は初めて魔法を見た時、素直にすげーって思った。俺には難しくて使えない。完全なファンタジーな力だ。感動したし羨ましいと思った、だけど同時に静香だから出来ると思った。大丈夫。お前なら出来る」


 「しずちゃん。私がいつも先行する時に後ろから的確にサポートしてくれたよね。それで私はまだ生きてる。昔のしずちゃんはずっと俯いて後ろ向きだった。その理由は分からないけど、今は前を向けていると思うんだ。だから、迷うな。突き進め。しずちゃんならどんな壁もぶち壊せるよ!」


 杖に伝わっていた震えが消えていた。

 もう、大丈夫だろう。


 「ふぅ。魔法は感情によっても僅かなる変化が起こるらしいよ」


 「そうなんだね。少しだけ見に覚えがあるな」


 蜘蛛足とか特に⋯⋯感情の形だ。


 「水魔法はきっと冷静な心が必要。前まではずっと不安を抱えていた。見捨てられるんじゃないか⋯⋯他にも色々」


 でも僕の知らない二人との生活の中で、その不安は払拭されたのだろう。


 「でも今は違う。大切な仲間、家族⋯⋯だから私は⋯⋯使える」


 杖の先に水の球体が浮かび、それが内部で回転する。


 「岩を突き破る。ドリルとする」


 ゆっくりと迫って来たモンスターは僕達を射程圏内に収めたのか、腕を振り上げる。


 「突き破れ!」


 水のドリルが回転し、推進した魔法はモンスターに綺麗な風穴を空ける。

 動きがさらに鈍くなり、液体が黒く凝固して行く。

 まだ倒れていない。生きている。


 「行くぜえええ!」


 確実に弱っている。

 そんなのは⋯⋯誰でも分かる。


 「行ってくるね」


 僕は壁に蜘蛛の足を突き刺し弾性力を使って加速する。

 翼妃が僕とは反対側の壁から迫る。


 「強化!」


 「うん!」


 僕が前衛二人に強化をし、三人で同時攻撃を仕掛ける。

 僕の場合は矢と足の刃の同時攻撃だ。


 かなり柔らかくなった岩の体を砕き、モンスターは塵となった。


 「これが⋯⋯水魔法。学ぶ事が増えたな」

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