「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」で、きっと救われる人がいる

のざわあらし

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」で、きっと救われる人がいる

 小学校低学年時代、図画工作(図工)の時間が嫌いだった。どうしようもなく、絵を描くことが苦手だったからだ。

 常日頃から疑問に思っていた。教科書に記された漢字は書ける。算数の問題も解ける。逆上がりもできる。なのに、漫画に描かれたキャラクターのように、どうして私は「上手な絵」を描けないのだろう……?



 当時の図工の先生は、芸術家気質の老教師だった。「絵を描く楽しみ」や技法を教わった記憶はほぼなく、それでいて授業は厳しい。私との相性は最悪だった(恐らく指導方針が合わなかっただけなので、決して悪人だとは思っていない)。

 苦手意識が極まった結果、課題を白紙のまま提出し、先生から大目玉を喰らった記憶さえある。「何をどう描いたら正解なのか」が、当時の私には全くわからなかったのだ。

 小学校の成績通知表は、ABCの三段階評価だった。A評価で埋め尽くされた成績表には、図工の欄だけBという大穴が空いていた。たった一文字のアルファベットこそが、私が小学校生活で最初に味わった大きな挫折だった。



 時は流れて約25年。「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」を鑑賞しながら、私はその経験を改めて思い起こしていた。 そして、図工を好きになった時のことも。





 本作は世評が非常に高い一本だが、その評判違わぬ優れたアニメ映画だった。

 まず、有名絵画や美術史をなぞるようなオープニング映像に心を掴まれた。ピクサーの名作「ウォーリー」のエンディングを想起させる芸術性と遊び心に満ちており、これから始まる物語への期待を加速させてくれた。

 作中のひみつ道具の活かし方も丁寧だった。多くの道具に「ギャグ的な使い道」「実利的な使い道」の双方が設けられ、単体で完結するギャグシーンも後々の伏線として機能し、重層的な意味を持たされていた。

 アクションシーンの迫力も純粋に魅力的だった。特にタケコプター……ではなく、しずかちゃんが駆る「空飛ぶ箒」による飛行シーンの臨場感は、間違いなく本作のアニメ的な白眉と言えるだろう。

 そして、ラスボスの決着に至るエピソードは、「自分の過去の創作物が、巡り巡って自分を救ってくれる話」とも解釈できる。絵に限らず、何らかの創作活動を行っている方々(私含め)にとっては、老若男女問わずきっと胸に刺さる展開だろう。

 上記の通り、本作は万人向けファミリー映画として十分評価に値し、ドラえもんにさほど思い入れがない方にでもお勧めできる作品だった。



 さて、つらつらと雑多な感想を述べたが、冒頭で述べた出来事を想起したきっかけについても語らなくてはならない。

 劇中、のび太は絵が上手く描けず、たびたび自己嫌悪に陥ってしまう。

 その都度、のび太のパパ(青年時代は将来を有望視された見習い画家だった)や、ゲストキャラクターの宮廷絵師見習い:マイロに優しく諭される。「無理に上手く描こうとしなくていい」「好きなものを好きなように描けばいい」と。

 のび太が意を決して描いた絵は、大人の目からすれば拙い落書きと見られかねない一枚だった。しかし、その「大好きなもの」を描いた絵が、のび太自身と世界を救う役割を担うに至る。これは恥ずかしながら、全く予想だにしていなかった展開だった。

 更に、まさかの大活躍を見せたその絵は、物語のオチとしてもう一度機能する。その絵の存在が完全に肯定されることで、本作は幕を閉じるのだ。



「上手く描けない」

「描きたいものがわからない」

「もう何も描きたくない」

 のび太や過去の私と同じコンプレックスを抱く少年少女は、決して少なくないだろう。

 何をどのように描いたらいいのかわからず、挙げ句の果てには絵を描くことすら嫌になってしまう事態は、いつの時代のどの小学校でも起きているはずだ。そのような悲劇に見舞われた少年少女が本作を見たとしたら、きっと少なからぬ人が救われ、肯定されたような感情を抱くのではないだろうか。





 さて、話は再び約25年前、私の小学生時代に遡る。

 小学校高学年になり、私は図工が好きになった。担当教諭が、新任の若手の先生(以下、M先生)に代わったことがきっかけだ。

 M先生は、「好きなものを好きなように作らせてくれる」人だった。課題の提出が遅くなっても、叱られた経験は一度もない。相変わらず絵への苦手意識は続いていたが、それなりに楽しく授業を受けられるようになっていた。



 M先生の授業で特に思い出深いのは、張子はりこで「起き上がりこぼし」のダルマを作る課題だ。厳密に言えば張子は立体造形物だが、広義の意味ではこれも一種の「絵」と呼んで差し支えないだろう(表情や色付けを加えるので)。

 私は一般的な赤いダルマではなく、大好きなゲーム「ドラゴンクエスト」に登場するモンスター:スライムを作りたがった。だるまとは程遠い青色と、とんがり頭をしたキャラクターを作ろうとした私のわがままを、M先生は受け入れてくれた。

 身体の形や表情のバランスはいびつで、内部の重石おもしのバランスも悪く、起き上がりこぼしにも関わらず起き上がれない角度もある。それでも、このスライムは我ながら思い入れが強く、今でも捨てることなく部屋の片隅に飾っている。

 苦手だった絵に少しだけ自信を持てたのは、きっとM先生のお陰だ。



 繰り返しになってしまうが、最後に改めて述べさせて頂きたい。

「映画ドラえもん のび太の絵世界物語」は、絵に対する自信を失いかけている少年少女に、救いの手を差し伸べてくれる一本になり得るはずだ。

 そう、私にとってのM先生のように。

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