続々~リンネはどうあっても恩返しをしたい~

第21話 好奇心は猫を殺すらしい

「いやー、本当リンネさんがいてよかった。効果はさることながら求めやすい値段なんですから。右も左もわからない駆け出し達からの評判も上々ですよ」


 ペラペラペラペラと饒舌じょうぜつに喋り散らかしてるのは無償で冒険者支援をしてるんだというおっさんだ。

 こいつは終始笑顔に見えるが目だけが笑ってない。

 タダより高い物はないというし、無報酬をうたっているのも明らかに胡散臭い。

 そもそも、知らないやつの言葉なんて信じられないのが俺だ。


「ああそう。話はそれだけ?」

「それそれ、それです! そっけないようで面倒見がいいところも大変に人気でしてね」

「私こう見えて忙しいの。あんまりしつこいと手が滑って毒を盛ることになるけど、駆け出しさん達は大丈夫そう?」

「おおっと、長居しすぎましたかな。ではこれにて失敬失敬」

「二度とこないでちょうだい」


 ドアが閉まったあと調合済みの塩をばらまいた。


 あれからというもの。

 ダンジョンに潜っては採取調合を繰り返し、店でポーションを売る日々は続いている。

 それこそ、これまでとなんの変化もないように思えるが着実に変わりつつある。

 まず新たに習得したスキル【エクストラアイテム】によって基礎筋力や持ち歩くことのできるアイテム数が増大した。

 素材は多く持てれば持てるほど生産効率が上がる。

 それから狩りに同行する際のポーション積載量も重要であり、多く積めれば当然滞在時間が延びる。

 他にも念のための護身用として小ぶりのナイフ程度は携帯できるようになった。

 腰元に忍ばせたこれを抜く機会はないんだが、いざという時安心という意味で悪くない役割を果たしている。


「聞いて聞いてー。あたしたちランクが一つ上がったんだよ!」

「これもひとえにリンネさんのご支援の賜物ですわ!」


 エティアとミリアムは無事Bランクへとあがり、聞けばギルド内外でも注目されつつあるとか。

 いいことだ。

 自分のことのように誇らしくなり、活躍の報せがいっそう日々鍛錬する活力になりつつある。


 そんなある日のこと。

 すっかり賑やかさに慣れてきた俺は街中まちなかとさまよっていた。

 ここに来た頃には到底できなかった散策をしてみることにしたのだ。

 ただあの時と違い今の俺は注目を集めてしまう存在になってしまった。よって、魔法道具店で買ったばかりのフードを深くかぶる。


「おう、よく来たな! お嬢さん初めてのお客さんだね。好きなとこに座りな」


 そんなわけでいつもの酒場なんだが、『着用者の存在が一個体として認識されなくなる』。つまりどこにでもいるモブ扱いになる効果は抜群のようだ。

 名声が重要なこの世界でこんなもの欲しがる物好きは俺くらいだろう。

 こういうところは情報収集なんかに向いてるはず。俺が冒険者なら間違いなく頻繁に立ち寄る場所になってたな。

 カウンターに促されひとまず腰を落ち着ける。


「最近なにか変わったことは?」


 注文した料理が届いたあと、言いながらチップを差し出す。

 悪くない。それどころか心地よさすら感じる。

 異世界に来ることがあれば一度はやってみたかったやり取りだ。


「そうさねえ。なんでも、お貴族様がとある冒険者を探してるとかでね」

「興味深いわね。詳しく聞かせて?」

「アインシュバルって、叩けばホコリなんていくらでも出てきそうな家を知ってっか? 『年頃だし下々の暮らしを見て来い』ってな具合に一人娘をこの街に送り出したわけでさあ」

「そろそろ帰って来いと、そういうこと?」

「察しがいいね。だがなあ、どうにも合点がいかないわけよ。言ってみりゃ、大事でしょうがねえ箱入り娘をそれこそおっぬかもしれない冒険者になんてさせるもんかねえ」


 たしかにそうかもしれない。

 それでも、事実に基づかないんじゃどうあっても判断はつけられない。

 つけられはしないんだが……。

 もちろん好き好んでやってるとはいえ、最近は同じことの繰り返しで娯楽というものに飢えている。


「その冒険者について詳しく知りたいのだけど」


 まるで探偵かなにかになったかのようだ。

 好奇心は猫を殺すらしいがお生憎様、俺はただの人間だ。すかさず二枚目のチップを差し出した。


「ここね」


 今俺は教えられた街外れにいる。どうやら件の冒険者が目撃されているポイントらしく、張っていればいずれ出会えるだろうとのことだ。

 物陰に潜み、紙袋から買っておいた木の実を取り出してかじる。

 現実世界ならアンパンと牛乳になってるだろう張り込みの定番にテンションがあがっていく。


 そうして数十分ほどして、あの家に入っていく人物が見えた。

 間違いない。

 よし、悪い噂の絶えない貴族の娘の姿を間近で拝んでみるか。

 足音を立てないようにして進んでいき、窓からそっと中をのぞくが誰の姿もない。


「おかしいわね。さっきたしかに……」

「あの、あなた」


 背後から声がする。しまった、これは完全に背後を取られたな。

 堂々とした声の張り方からしてただ者ではなさそうだ。

 俺は言い訳の言葉を並べ立てながら振り返る。


「道に迷ってしまって。この家に誰かいないか探してたの」

「まあそれは大変。ですけれど、ここからはわたくしにお任せくださいませ!」


 まさかこう繋がるとはな。

 ミリアムは自信満々に胸を叩きながら言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

錬金術師リンネは安らかに眠れない~性転換してたうえに転生させられました ななみん。 @nanamin3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画