推し活じまいができないままです

永杜光理

推し活じまいができないままです

 今から約十年前の話になりますが、乃木坂46という女性アイドルグループの情報を追いかけていた時がありました。乃木坂46は、私にとって人生で初めてハマったアイドルでもありました。


 きっかけは、「君の名は希望」がとても良い曲だというネットの書き込みを見たことです。それが記憶の片隅に残っていて、ある日公式Youtubeで「君の名は希望 ―Dance & Lip Ver.―」を視聴しました。そしていつしか、乃木坂46が作り出す世界観に引き込まれていきました。


 私が乃木坂46の情報を追いかけていたのは、約三年くらい。最近推し活という言葉が使われるようになりましたが、私は推し活らしい推し活は出来ていなかったかもしれません。


 シングルCDは合計三枚しか買わず、メインで買うのはアルバム。それも一形態だけ。ライブに行ったことは当然なくて、ある意味乃木坂46の活動のかなめとも言える、握手会にも行ったことはありません。テレビのレギュラー番組だってそこまで視聴していなかったし、リアルの知人やネットの向こうの誰かと語り合う、ということも……いや、ありました。当時私のリアルの生活で、元々同性アイドルが大好きで乃木坂46も好きだ、という人が身近にいました。その人とほんの少し、語ったような記憶はあります。ただ基本的な楽しみ方は、CDを聞いたりMV集を見たりして、世界観に一人で浸る、という感じでした。


 私の部屋の本棚には、乃木坂46のライブDVDがひとつだけあります。それは、二〇一七年に行われたバースデーライブのもの。数年前、幸運にも店頭でゲットできたのですが、実はまだ一部しか視聴できていないのです。


 なぜ二〇一七年のものだけ買ったのかというと、そのバースデーライブをもって、私が最も推していたメンバーが乃木坂46を卒業し、芸能界を引退したから。アイドルとしての最後の輝きを見るために、買ったのです。でも、まだ全ては見れていない。


 これは私事ですが「私が三次元にハマった時は、心身共に追い詰められている時」という、自分だけに当てはまる法則があるのです。振り返れば乃木坂46にハマった時は、確かにつらい時期でした。そして悲しいことに、最も推していたメンバーが卒業を発表した頃、私の体調は傾斜の急な坂を転げ落ちるように、どんどん無残な状態になっていったのです。そのため、リアルタイムで彼女の卒業を噛みしめきることが出来なかった、という心残りがあります。ああでも前述した人は、私の無念を吐き出したところ耳を傾けてくれました。あの時はありがとうございます。


 加齢のせいか、一年は飛ぶようにどんどん過ぎていきます。乃木坂46もメンバーが卒業して加入して、次々と新しい姿を見せ、新しい曲が発表されていきました。そして気がつけば、ハマった頃の熱は沈静化し、私はひっそりとファンを辞めていたのでした。


 そして今、時は流れて二〇二五年になりました。なのに、二〇一七年のライブDVDが見れずにいるのです。


 最も推していた彼女がセンターを務めた「サヨナラの意味」という曲は、公式YouTubeでもさんざん堪能したし、CDでも繰り返し聞きました。好きな曲のひとつです。


 でも、最後の輝きを収めたその瞬間を、私は見れるのだろうか。


 あの日あの時、現地にいた人は当然見ているだろうし、ライブDVDもしくはBlu-rayを買った人もたくさんいて、大勢のファンが画面の前で感動し涙したことでしょう。


 でも、私はまだそれが、出来ていない。だから乃木坂46から離れたとはいえ、完全に推し活を止めたような気にはなれていないのです。


 いつか、あの時励みになってくれた彼女の姿を、しっかりと見届けることはできるのでしょうか――






 実は今、とある男性アイドルのお茶の間ファンをやっています。正直、現在は心身共に追い詰められているような自覚はあります。次はちゃんと、体調を崩さないよう気をつけたいと思います。


 そして、ここで書いても、届かないでしょうが。


 疲弊した私の、精神的なつっかえ棒になってくれた、あるいはなってくれているアイドルの方々へ。


 ありがとうございます。


 アイドルは目立つ分だけ、輝く分だけ、歓声も心無い言葉も、どちらも飛んでくるのでしょう。


 ネットで可視化されるものだけが、全てではありません。


 私は歴代のハマったアイドルに直接会ったことも、ライブに行ったこともありません。でも、救われています。


 正直に白状すると、お金をあんまり出さないファンではあります。が、あなた達が発したコンテンツを堪能し、楽しくなったりニヤニヤしたり感動したり、良いものを受け取らせていただきました。


 だからこそ、輝きを放つアイドルの方々は、少しでも幸せでいてくれたらいいなと思うのです。


 アイドルもお仕事です。お仕事というのは大変だし、壁にぶつかったり嫌な思いをすることもあると思います。


 でも、笑顔を見せてくれて、楽しませてくれてありがとう。


 弱小ファンの私はそんなことしか言えませんが、今日も、これからも、楽しませていただきます。


 本当に、ありがとう。

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推し活じまいができないままです 永杜光理 @hikari_n821

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