鳥友《トリトモ》

きみどり

鳥友《トリトモ》

 探していた姿を見つけて、全身で急ブレーキをかける。

 サッと木の影に飛び込み、呼吸を整えた。心臓がバカみたいにうるさい。

 深呼吸をひとつ。それから、私はいつも通りに声をかけた。


「やっほ」


 丸まっていた背中が、びくっと伸びる。

 慌てて振り向いた君は、「なんだ、鶴田ツルタか」っていつも通りの顔で言った。

 でもその瞳は、どうしたって今日あったことを隠せてない。


 やっぱり本当だったんだ。

 学校でみんながコソコソ盛り上がってた。

 コクった、フラれた、って。


 傷心の君に、私は自分の指先を見せびらかしながら近づいた。


「見て、ささくれ」


 すぐに意図を察して、君は小さく笑った。


「ヤバいじゃん。絶対むしられる」


 そのまま、さりげなく隣を陣取った私は、君と並んで池の柵に寄りかかった。池では野鳥がぷかぷか泳いでいる。


 私たちは文鳥仲間だ。最強に可愛い写真が撮れただとか、うちの子がどんなにいい匂いかだとか、ささくれを毟られて流血しただとか。文鳥を愛する同志だと判明してから、少しずつしゃべるようになった。

 うちの子は四歳。あっちは二歳。私の方が少し先輩だから、少しだけ鳥について詳しい。


「文鳥も可愛いけど、カモも眺めてると癒されるよな」


「わかるー。ついつい学校帰りに寄っちゃうよね、ここの公園の池」


 いつからか野鳥よりも、野鳥を眺める君の姿を期待するようになってたなんて、言えないけどね。


「お、カモが二羽で泳いでくる」


 そんな私の気持ちなんて知らないで、君は無邪気に声をあげる。

 指差した先には、カラフルな鳥と灰褐色の鳥の姿があった。


「あれはオシドリだね」


「オシドリ? じゃあ、あの二羽は夫婦なのかな」


 複雑そうな眼差しを向ける君に、私の胸はもやっとした。瞳の奥にある未練を見てしまった気がした。


 ごくり、と唾をのみ込む。


「オシドリ夫婦って、嘘なんだよ」


「え?」


 君がこっちを見たけど、私はわざとオシドリの方に目をそらした。


「オシドリが仲良いのって、たった数ヶ月だけで、その後二羽は別れちゃうんだ。で、次の年にはまた違う相手とくっつく。なのに、オシドリ夫婦なんて言葉があるの、詐欺だよね」


「へえ、そうなんだ。さすが詳しいな」


 そう言って、君は再びオシドリに眼差しを向けた。

 その横顔を盗み見る。視線で額、瞳、鼻筋、そして唇をなぞると、心臓が全力疾走した後みたいに暴れだした。


ツル……」


 消え入りそうな声だったけど、気づいた君が私の方を向く。今度はばっちりと目が合った。


「逆にツルは一途なんだよ。だから、ツルにすれば良かったのにね」


 私は何を言ってるんだろう。

 心臓がバカみたいにうるさい。君の唇が「そうだな」と動いた気がする。


 それからは何も言わずに、二人とも池に視線を戻した。

 きっと君はまた、フラれたことを思い出して、好きな子を心に描いて、オシドリカップルを眺めてるんだろうね。

 そしてそんなことを考える私も、ずっと胸がもやもやしてる。 


 私にすれば良かったのに。

 君の眼差しの先にいるのが、瞳の奥にあるのが。

 私なら良かったのに。


 鳥に自分を重ねるなんて、私たち本当どうにかしてるね。

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鳥友《トリトモ》 きみどり @kimid0r1

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