第15話 回想

物思いにふけていたら、ピザは冷めてチーズは固まってしまっていた。


その後、新入社員の越智君は私が昌大と別れたことを同僚から聞いたそうで暫くしてから告白されたが、恋愛する気にならず断った。



昌大の言うことは正しかった。直感は合っていた。あの時、もっと昌大に「私が好きなのはあなただけ、あなたしか見ていない」と安心出来るまで伝えていたら関係は変わっていたのだろうか。




相手に恐怖を感じたことも、執着されるくらい愛されたのも昌大だけだった。しかし、別れてから超絶モテ期がきて、私はまたしても溺愛されている。今度は年下の嫉妬心がない純粋で一途な彼で友人たちは”溺愛王子”と呼んでいる。


……と言いたいところだが、しばらくはトラウマになり恋愛する気も起きずにいた。



数年経ってやっと適度な距離感で付き合える交際をしたが、すぐに破局してしまう。


そんなわけで後にも先にも、雨や残業が理由で毎回迎えに来てくれる彼氏も、記念日にご飯やケーキを手作りし作って祝ってくれる彼も現れていない。


昌大とやり直したいわけではないが、尽くしてくれる相手の方が心地いいのかもしれない。



そんなことを思い返すこともあったが、「信頼関係が崩れたら終わり」という気持ちはこれからいくつ歳を重ねても変わらないと思った。越智君がいなくても、いずれは別れの日がきただろう。




(昌大、ありがとう。恋の切なさ、悲しさ、怖さを植え付けたのはあなただったけれど、ときめきや楽しさを初めて教えてくれたのもあなただった。恋をしなければ知らない感情を色々教えてくれてありがとう。付き合っている間は周りの人が目に入らないくらい大好きでした。不安とか束縛なんてしないで、もっと自分に自信をもって幸せになってね!)



そんなことを思い、手に取っていたワインを一気に飲み干した。


(今日は、思いっきり飲もう!!!)

私はおかわりの注文をするために右手を高々と振り上げた。





車の中でラジオを流していると午後3時を告げるアラーム音が流れた。


(もうこんな時間か……。)



いつの間にかコーヒーもぬるくなっている。味気ないコーヒーを飲み干し、フレッシュミント味のガムを噛む。煙草は吸っていないが見た目だけでなく口臭も爽やかさが必要だ。

噛み終えてから向かえば約束の時間にもちょうどいいだろう。



時計で時刻を確認したら薬指の指輪が光る。



「今日は早く終わるといいな…。」



家では、明美がご飯を作り俺の帰宅を待っている。



---完---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

永遠の愛の薔薇~溺愛彼氏から執着ストーカーに変わるまで~ 中道 舞夜 @maya_nakamichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ