ただ君達を掌の上で転がしたい

ばろみ

第1話 壊れていく日常


空は澄み渡るほど快晴で小鳥達の鳴き声がする。

そんな元気な小鳥の鳴き声とは対照的にうなだれる青年が1人


「あー…。学校行きたくないな…。」


ぽつりと第一声をつぶやくとまた布団の中へ戻る

その直後どたどたと2階へ上ってくる足音が響いた。


「蓮也!起きなさい!学校遅刻しちゃうわよ!」


蓮也(れんや)の母である楓(かえで)が少しむくれた様子で起こしにきた。


「今日は休む…。ご飯だけ食べにいくね…。」


そうだらだら返すと楓は小さくため息をついて

ぶつぶつと文句を言いながら階段を降下りていった。


「とりあえずこれで休みは確保したな。…朝ごはん食べよ。」


蓮也はそうつぶやくと寝巻のまま階段を下りてリビングに向かった


「蓮也おはよう!また母さんに学校行かないって言ったのか?」


元気で明るい青年が蓮也の肩をポンポンとたたきながら笑っている


「兄貴には関係ないだろ…。具合悪いんだよ。」


「具合が悪いのか!それはしょうがないな!でも毎日具合悪いなら

病院くらいは行っておいたほうがいいぞ!」


「余計なお世話だよ。」


そう返すと楓が会話に割って入る。


「一(はじめ)は優しすぎるのよ!てか蓮也はもう少し一を見習いなさい!」


「兄貴は俺とは違うんだよ。俺は一人で静かに過ごすのが好きなんだよ。」


さらっと返すと一が笑いながら話す。


「俺だって一人で過ごしたい時だってあるんだぞ?」


「ばかいえよ。いつも周りに友達連れてるくせにさ…。」


どこか羨ましそうに皮肉ると、今度は蓮也の目をしっかり見て

堂々と話をつづけた。


「別に連れてるわけじゃないぞ?俺があいつらと一緒にいて

楽しいからいるだけでな。別に連れて歩いたり命令してる

わけじゃないんだぞ?それに…あ、おい!」


あたりまえのことのように話す一を見て謎の不快感に

襲われた蓮也はごちそうさまと言葉を遮って立ち上がり

部屋に戻った。その様子を見て楓はまたため息をついた。


「母さん…。気持ちはわかるけど蓮也にはあいつなりの

ペースがあるって俺は思うんだよ。だから大丈夫!

だってあいつは俺の弟なんだから!」


「そうだといいけど…。なんであんなふうになったのかしらね。」


なんだかんだで蓮也のことが心配な様子の楓を見て

一は楓の肩をポンポン叩いて微笑む。


「まぁ大丈夫だよ!この長男にまっかせなさい!」


「ありがとね…。ところで電車大丈夫?」


時計を確認してギョッとした顔をして慌てて

一は家を出て行った。


「やべ!行ってきます!!」


やれやれと呆れながらも嬉しそうに楓は朝食の片づけを始めた。

その頃、部屋に戻った蓮也はPCの電源を入れてヘッドホンを

装着していた。


「別に人気者になりたいわけじゃないし。それに俺は一人じゃない。」


ぶつぶつ言いながらPCで使える

通話ソフトを起動して唯一心を許した友人の

善(ぜん)がいるサーバーを探して通話を開始した。


「おー!こんな朝からどうした蓮ちゃん!」


蓮也と比べるとかなり元気な声がヘッドホンに響く。


「お前こそ最初からサーバーにいたくせに…!」


お互いに笑いあうと2人は談笑を始めた。

くだらない話をあれこれした後深いため息を

ついてから蓮也は心の内を話し始める。


「善…。俺って兄貴を見てたら羨ましいって気持ちとどこか

嫌悪感があるんだ。兄貴はすげぇ人気者でいつも周りに誰かがいてさ

その人達はいつも笑顔で…。それで兄貴もめっちゃ楽しそうで

その姿が昔はただかっこいいって思ってたのに

いつからこんな風になったんだろうって最近ずっと考えててさ…。」


真面目な様子の蓮也の話を遮るわけでもなく

全て聞いた後、善は少し微笑んでおもむろに口を開いた。


「なるほどなー。馬鹿なのかお前は?

それなりに成長したら色々考えるしそれぞれコンプレックスも

でてくるだろうさ!でもお兄さんにはないお前の良いところは

その分ほかの誰かが知ってんだよ。俺とかな?

だから気にすんな!お前はお前だ!でも憧れてんなら

追いかけていいだろ!そんだけだよ。」


その言葉を聞いた蓮也の目から涙がこぼれた。

人と関わることを恐れている自分にこんな優しい言葉をくれる

大切な友人がいることを心から喜んだ。


「ありがとう…。俺も兄貴みたいになれるかな?」


「いや、そればかりは保証できん。

俺は蓮ちゃんに嘘はつきたくないからね。

全部これからの蓮ちゃん次第なんじゃない?

まずはできることからはじめてみたら?」


「俺にできること?」


「そそ!お兄さんに嫌悪感を抱いてた時に

よくない態度とったことを謝ったりとか、それについては心配かけた

ご両親にも謝ってさ!あとはしっかり学校に行こう!」


「そうだな…。善ありがとうな。ただ学校に関してはお前もな?」


笑いながら蓮也がいうと。痛いとこつくね~。っと

善は笑ってみせた。


「とりあえずいきなり口頭で謝るのは恥ずかしいから手紙を書くよ。」


「まぁいいんじゃない?ただしちゃんと渡せよ?」


「おう。じゃあありがとな!」


通話を切ったあと蓮也は便箋とペンを用意して今までの自分の気持ちや

謝りたかったこと。羨ましくてかっこいいと思っていたこと

その全てを手紙に書いた。


そして母のいるリビングに向かう。リビングの扉の前で立ち止まり深呼吸をする。

リビングからはよくあるワイドショーの音声と洗い物を

片づけてる音が響いていた。


おもむろに扉を開けると楓が振り返り蓮也を見つめる。


「トイレとごはん以外で下に降りてくるの珍しいね。どうしたの?」


少し冷たい態度をとる楓に蓮也はこれは仕方のないことだと

納得して話始める。


「母さんは人が怖いって思う?」


「どうしたの急に?」


「いや…。俺はどうしても人を簡単に信用できなくて自然と

人と関わることを避けてるうちに周りから人がいなくなっていたんだ。

そんな時に人気者の兄貴を見て余計に負い目を勝手に感じて目を背けたくなって

気づいたときには学校も行かなくなって、母さんにも父さんにも心配も迷惑もかけて

本当は憧れてた兄貴にまでずっと酷い態度をとって…。」


ふぅ…と優しいため息をつくと楓は口を開いた。


「蓮也。母さんの隣に座りなさい。」


「わかった。ただその前にさ。ごめ…」


「いいから座りなさい!」


さっきよりも少しばかり強い口調で楓が遮るように言う。

しかしそこに怒りの感情がある様子ではなかった。


「ちょっと待ってなさい。」


「待って母さんその前に…」


「蓮也は本当に人の話を遮るところ!直しなさい!」


少し疑問を覚えた蓮也が軽くツッコミを入れる。


「いやこれは母さん譲りだよ。」


「何か言った?」


さっきとは違う明らかな怒りのオーラに

蓮也は何も言えなくなる。


「いえ!なにも!」


そうして少し待っていると分厚い本のようなものを

楓が持ってきておもむろに開いた。

そこには小さな赤ちゃんと少年と若いころの楓と父が映った写真が入っていた。


「これって?」


「そう。蓮也が生まれたときの写真。」


「俺なんかサルみたいだね。」


2人で少し笑うと楓はまた話し始める。


「蓮也。この写真の母さんも父さんも一も…。みんな嬉しそうでしょ?」


「うん、めっちゃ笑ってるね。」


「そう、すごく嬉しかったの。一は弟ができるって大はしゃぎしてさ

病院の中を走り回ってお父さんと2人して看護師さんに怒られててね…。」


途中で話をやめると横に座った蓮也を強く抱きしめて

楓はまた話はじめた。


「この写真を見せたのは蓮也に気づいてほしいことがあったから。

ひとつはこの写真の蓮也の周り。みんなが笑ってるでしょ?

蓮也が生まれてきてくれてみんな嬉しかったんだよ。もう充分生まれたときから

蓮也はお兄ちゃんと同じ人気者だったんだよ。ってこと

蓮也もお兄ちゃんも私の一番の自慢の息子なんだよ。」


その言葉に堪えきれず蓮也は大きな声をあげて泣き出した。

その大きな泣き声とは真逆の優しい声で楓は話を続ける。


「あともうひとつ。家族には迷惑もかけていいしぶつかってもいいの。

大切なのはその後どうするか。一生懸命考えて謝ろうとしてくれたし

沢山悩んでくれた。そのことだけで充分なんだよ。だからもういいから

たくさん考えて悩んでくれただけで母さんは嬉しいし何より

そんなに抱えてたのに母さんこそ気づいてあげれなくてごめんね。」


「ごめんなさい…。母さん…本当にごめんなさい…。」


ひとしきり謝りながら泣く蓮也を抱きしめながら

楓は優しく頭を撫でた。


そんな話をしている間にすっかり夕方になってしまっていた。

夕ご飯の準備をするために買い物に行くという楓に

荷物持つよと言い蓮也は久しぶりに外に出ることにした。


久しぶりに見た街の景色は特に大きく変わりはなくて

思わず変わらないなと蓮也がつぶやくと楓は

そう簡単に変わらないわよと笑った。


ゆったりとスーパーまで歩いていると突然厳ついおじさんが

声をかけてきた。


「おーい!楓ちゃんに…。もしかして蓮也かぁ!?

全然見ないうちにこんなにでかくなって!」


「あら、龍(たつ)さんじゃない!お店の買い出し?」


「もちろんよ!また店に食べに来てくれよ!」


「ええ。また美味しいお料理ごちそうしてくださいね。」


「おうよ!それはもちろんとして…。蓮也ぁ。おまえちゃんと

外に出て…。俺も心配してたんだぞ~!こいつ~!」


頭をわしゃわしゃとされたあと時計を見て慌てて

龍はまたなと言って帰っていった。


「そっか…。龍さんが…。家族じゃなくても心配してくれる人が

善の他にもいてくれたんだな。」


そう小さくつぶやいてから楓に何か言った?と言われると

なんでもないと嬉しそうに蓮也は返した。


スーパーで買い物を済まして帰宅してる途中で

この街ではあまり見かけない量のパトカーが走っていくのを

2人は物騒だなぁって話をした。そして蓮也の唯一の友達である

善の話をしながら2人は帰宅した。


「あれ?変ね…。この時間なら一は帰ってきてるはずだけど…。」


楓が少し心配そうにしていると蓮也は最寄りの駅まで

様子見てくるからごはんの準備でもしててと伝えておもむろに駅へと向かった。


駅へ向かう途中の公園のブランコが人も乗っていないのに

不気味に揺れ続けていて、公園には人もいないのに

大人数からの視線を感じ怖くなって急いで公園近くを

後にしようとしたとき突然現れた子供に突然腕をグッと掴まれた。


「な、なに!?まい…ご?」


その言葉に少し不満そうに子供が話す。


「迷ってなんかないよ。むしろ迷ってたのは君のほうじゃない?」


「俺はもう高校生だぞ。道に迷ったりするもんか。」


その言葉に今度は首を傾げて子供は蓮也に返す。


「そうかな?最も移ろいやすい時期な気もするけど。

ただ種は摘んだけど少し遅かったかな。比較対象を失えば悩みは死ぬからね。」


少し気味の悪い笑顔でよくわからないことを話す子供が怖くなって

その手を振りほどいて蓮也は駅まで駆けだした。


駅に到着したが一の姿はなく楓にメッセージアプリで連絡したが

帰宅してないことを伝えられて、スーパーの帰りに見たパトカーを

思い出して悪寒が走り急いでパトカーが向かっていたほうへ走り出した。


大量のパトカーが止まっている場所を見つけて野次馬をかき分けて

不安を押し殺しながら様子をうかがうと何やら警察が清掃をしている

様子だった。


人に話しかけるのが怖かったが勇気を振り絞って野次馬の一人に

蓮也は何があったか尋ねてみる。


「あの…。ここでいったい何が?」


すると野次馬の女がおもむろに話し出した。


「この場所に不自然な謎の液体がドバっと!

それもそこそこ量も多くて何よりその色がとっても

禍々しくて!そりゃあもう!」


「なんでそんなに楽しそうなんですか?」


蓮也がそう聞くと逆によくぞ聞いてくれましたと

その女性はさらに話をつづけた。


「これは恐らく神の仕業なのではと私は考えているのです!

あんな禍々しい液体は人の手では作れないと思います!

それに突如としてあんな量のドロドロを人が落とせるわけもないし

目的もわかりませんからね!警察がもしあの液体を解析できて

結果が出たとき全てがわかるのです!」


散々語りつくした後、その女性はおもむろに自己紹介をする。


「某動画配信サイトにて配信者をしている桜 凛(さくら りん)ともうします!

ぜひチャンネル登録お願いします!」


せっかくだからとそのチャンネルを蓮也はスマートフォンで開いてみる。


「チャンネル登録者102人…。凛ちゃんの神様チャンネル…?」


「わ!私と同じでまだ発展途上なのです!」


なんの話をしているんだと首を傾げながら

おもむろに視線を下げるとなんとなく蓮也は察し小さくため息をつくと

凛はムッとして話し出す。


「とにかく!ここまで語らせてきたからにはナンパとみなして

自己紹介と連絡先交換しましょ♪」


「え、嫌ですけど…。」


そう返すとまたムッとして蓮也のスマホを奪い取って

無理やり連絡先を交換してついでにチャンネル登録をする。


「ちょ…。勝手に…。」


「ふふん…!美少女との連絡先は喜んで素直に受け取るものです!

また今回の液体事件でお互いわかったことがあれば連絡とりましょう!」


そう言い残して凛はそそくさと去ってしまった。


一のことは心配だがこれ以上探しても埒が明かないと考えて

蓮也は一度家に帰宅することにした。


帰宅すると既に父も帰宅しており食事をとっていた。


「おかえり。蓮也がまさかお兄ちゃんを探して外に出るなんてな!

しかも母さんの荷物持ちまでしたってなぁ…義嗣(よしつぐ)2児の父になって

新たな喜びを知ったぞ…。くぅ~!」


うんうんとうなづきながらお父さん嬉しいよと泣き真似をする。


「茶化さないでくれ…。それより兄貴から連絡は?」


楓は首を横に振りうなだれていたが義嗣が軽くフォローをする。


「一だって若い男の子なんだから親に黙ってお泊りとかのひとつやふたつくらい

あるだろう!そのうちフラッと帰ってくるさ!な!蓮也!?」


義嗣は蓮也に目配せしてウィンクをして楓を慰めろと念を送る。


「そうだよ。兄貴だってたまには1人で過ごしたい時もあるって今朝俺に

話してたじゃないか。」


「そうね。一応もう一度連絡してみてだめならもう少し待ちましょう。」


楓の曇ってた表情が少し明るくなって義嗣も蓮也もほっとして

肩を撫でおろした。


少し空気が落ち着いてきて

蓮也も食事を始めると義嗣が蓮也に話はじめる。


「蓮也が帰宅する前から母さんに色々聞いたけどな…。

父さんも蓮也に謝りたいことがあるんだよ。聞いてくれるか?」


「あ…。うん。」


緊張感漂う空気に蓮也は畏まってしまうが

なぜか楓は少しにやにやとしている。


「父さんな…。今日帰ってくるときにな実は蓮也のこと見かけたんだよ

その時公園でひとりごとを話ながら立ち止まってると思ったら

突然走り出したから、本気で一を探してくれてるんだなって思ってな

蓮也が探してくれてるなら安心だなって蓮也のことを信じて

シャワーしてごはん食べてビール飲んで待ってたんだよ。」


話の雲行きが少し変な方向に向かっている気がして蓮也は首を傾げるが

楓は今にも吹き出しそうになっている。


「楓が作ってくれたそのハンバーグが美味しくてな…。蓮也の皿から

一個とって勝手に食べたんだ…。本当にごめんな…。」


すごく申し訳なさそうな演技でクッと下を向く義嗣を見て

完全に楓は笑ってしまった。

蓮也もちょっと笑うと話し始める。


「確かに母さんのハンバーグは美味しいから

しょうがないとしてもこの場面だともっと真面目な話かと

思って身構えちゃったろうが!」


蓮也のその返しに笑顔になった義嗣は親指を立てて

グッドポーズをする。


「そう!それだ!蓮也はずっと笑ってなかったけど笑顔ってこの世で

1番のコミュニケーションなんだよ。自分が笑えば相手も笑ってくれる!

家族なら尚更な?」


「そっか…そうだね。父さん本当に今までご…。」


謝ろうとする蓮也の口にハンバーグを手で掴んで義嗣が押し込む。


「蓮也。謝るくらいならありがとうって言ってみな?

そのほうが相手は嬉しいなんて有名な話だぜ?」


「わかったよ父さん…。ありがとう。

ただハンバーグは手で掴むな……よ!!」


そう言って蓮也はレタスを義嗣の顔に投げた。

レタスが顔にヒットして義嗣が立ち上がって腕を掲げる。


「おい!食べ物で遊ぶな!!食べ物で遊ぶ奴はこの正義の味方が許さんぞ!」


「息子をハンバーグで窒息させようとするやつが

正義の味方なはずがないだろうが!!」


「2人ともいい加減にしなさい!!!」


2人で言い合いしていると楓は痺れを切らして怒鳴った。

一瞬の静寂に包まれた後3人は声をそろえて笑い出した。


食器を片づけながら一について真面目に話し合いを始める。

最初に義嗣が口を開いた。


「ひとまずは明日になっても一が帰宅しなかったらすぐに

警察に連絡しよう。」


「そうね…。」


心配そうにうつむく楓に義嗣が元気よく声をかける。


「大丈夫だって!俺だって一ぐらいの頃は親に黙って

お泊りのひとつやふたつしたさ!」


元気よく義嗣がフォローしたが楓はまだどこか不安そうに話す。


「でも一は必ずなにかあるときは連絡くれてたから。」


「まぁたまたま忘れることもあるさ!明日になったらひょこっと

帰ってくるから!な!蓮也?」


突然の義嗣のパスに蓮也は困りつつも楓を気遣い話始める。


「俺にふるなよ…。まぁあんまり余計に心配しすぎても体壊すよ?」


よく言った!とでも言いたげに蓮也の発言に乗っかって義嗣もつづいた。


「そうそう!だから今日はゆっくり休もう!」


そうね…と小さくこぼして楓は少し落ち着いた様子だ。


2人で楓を慰めて少し落ち着いた後

おやすみと言い残してそれぞれ部屋に戻った。


蓮也は部屋に戻ると早々にベッドに飛び込んだ。


「はぁ…。なんてハードな1日だったんだ…。

でも…なんか俺嬉しいのか?笑ってる…。

兄貴が心配のはずなのにどうしてだろ。」


よくわからないけど少し高揚した気持ちを

落ち着かせるために善に連絡をとることにした。

PCを起動してすぐに善のいるサーバーを探して接続を開始した。


「善?」


「おー!蓮ちゃん!その後どうよ?無事に家族達に

謝罪できたかー?」


「あぁ…。とりあえず父さんと母さんにはな。」


「あれ?お兄さんに手紙渡せてないの?」


「今日に限って連絡もなしに帰ってこないんだよ。

母さんの話じゃいつもは必ず連絡してきたらしいんだけど」


「毎日帰宅の連絡を欠かさないお兄さんが…。

それはまた妙ですなぁ…。」


「父さんは明日にはひょっこり帰ってくるって……」


ここで父親の話を聞いて蓮也には妙に引っかかる内容を思い出していた。


(あれ?父さんは公園で俺がひとりごとを話してたって言ってたけど

俺は子供に腕を掴まれていてその子と話していたはずだ…。)


「蓮ちゃん?どうしたん急にだんまり決め込んで?」


「あ、いやごめん…。なんか少し引っかかることがあってな。」


「なんなん?引っかかることって?」


善がそれを聞こうとしたとき突然玄関のチャイムが鳴った。

ヘッドホンをしていた蓮也だがその音がかすかに聞こえていて

玄関に向かうことにした。


「悪い善、また掛けなおすわ。」


「ちょっと待て蓮!こんな時間にチャイムって…。

何があっても気は強く持って何かあったらすぐ話せよ。」


「ありがとな。」


通話を切ると急いで玄関へ向かう蓮也もまた嫌な予感がしていた。

どうかそれが的中しないことを祈って。


玄関に着くとそこにはどことなく暗そうなメガネの男と

いかにもドジっ子そうな婦警が男の隣に立っていた。


そこにいた義嗣と楓は酷く暗い顔をしていてなんとなく

蓮也は今の状況を悟ってしまった。


「お前が千草(ちぐさ)蓮也か…。」


メガネの男は静かに口を開いた。


「はい。俺が蓮也です。」


その名前を確認するとおもむろに内ポケットから

警察手帳をだして蓮也に見せた。


「刑事部捜査第一課の御影 総一郎(みかげ そういちろう)だ。

君の母や父からは確認済みだがこの手紙の筆跡は君の兄である

千草一のもので間違いないようだ。この手紙は君宛らしい。すぐ確認してくれ。」


蓮也は手紙を受け取るとおもむろに中身を読み始めた。



蓮也へ


今朝は茶化して悪かったな!具合が悪いときもあるよなって

俺も反省した。ただ母さんや父さんにはあんまり心配かけて

やるなよ!俺のことは正直好きでも嫌いでもどっちでもいい。

でも母さんや父さんはお前が大好きなんだよ。だからお前が

ちゃんと母さんと父さんを大切にしないとだめだ。

2人は誰よりもお前を信じてる。お前を愛してるからその期待は

絶対に裏切っちゃだめなんだよ。喧嘩してもいい!言い合いになってもいい!

でも離れようとしちゃだめなんだよ。家族はこの世にたったひとつ

なんだからな。だから今まで母さんや父さんがお前を守ってくれた分

今度はお前が母さんや父さんを守ってあげてほしい!


あと言い忘れたけど俺も蓮也が大切で大好きな家族だって思ってるし

お前はいつか必ず何かを成し遂げるって信じてる。

家族の言葉を信じろ。俺たちは誰よりもお前を大切に思ってる。

お前が大好きなやつらを信じろ。お前が言う人気者からのアドバイスだ!

あといつも茶化してごめんな。お前の抱えてる辛さをわかってやれなくて

本当にごめんな。また小さいときみたいにキャッチボールでも今度しような!




手紙を読み終えて蓮也は自分の目から大粒の涙が

こぼれていることに気づいた。


「あれ?なんだこれ…。なんだよ…。」


涙を流す蓮也を見て待つこともなく総一郎は話をつづけた。


「今日の午後に謎の液体が歩道に撒かれていた事件を知っているか?」


涙を拭いながら出せる精一杯の声で蓮也はこたえる。


「兄貴を探してるときに偶然見かけました…。」


「そうか…。」


総一郎が少し黙った後に蓮也を見つめてから話をつづける。


「その手紙はその液体の上に落ちていた制服から出てきたものだ。

鞄の中身も千草一の物で間違いないだろう。」


「それと兄貴になんの関係が?兄貴がその液体を撒いたって言いたいんですか?」


そう蓮也がいうと総一郎は俯いてからメガネを指で軽く直すと

ため息をついて話をつづけた。


「すまないが覚悟して聞いてくれ。我々もあまりにもあの液体は不可解だと

思い謎の液体の一部を調べた結果…。あの液体が君の兄である千草一だという

ことがわかった。」


「は…?」


蓮也の思考は完全に停止していた。その直後あの奇妙な色の謎の液体が

兄であると言われた瞬間に今日の出来事と謎の液体を思い出して酷い吐き気に

襲われ一気に嘔吐と涙が止まらなくなった。


(あの気持ち悪い液体が兄貴?なんだそれ意味わかんねぇ

何言ってんだこいつ?頭おかしくなったんじゃないか?

今朝あんなに元気に話して笑ってたのに突然兄貴が

液体になりました?意味わかんねぇよ…)


「いみわかんねぇよ!!!!」


総一郎は今度は蓮也から目を背けて話し始める。


「正直俺にも理解も納得もできんさ…。

人が突然液体になるなど考えられないからな

だがDNAは完全に一致している。これだけは悲しいが

揺るぎようのない事実だ。受け入れろ。」


その言葉が引き金になり蓮也の込み上げるやり場のない怒りと

悲しみが総一郎に向けられる。


「受け入れられるかよ!!理解も納得もできないなら

ちゃんともっと調べろよ!お前ら警察だろうが!!

あの液体が兄貴なわけないだろ!ちゃんと調べろよ

この無能どもめ!!」


蓮也の怒りを受け流すように総一郎は言葉を返す。


「手紙の筆跡も落ちていた遺留品も液体のDNAも

全てが千草一の物であることから警察は液体になり

亡くなったのは千草一であると断定した。

これから行うのは原因の追究のみだ。それ以外で

この事件に割くような時間はない。話は以上だ。」


そう言い残すと総一郎と

終始あわあわとしていた婦警は一緒に出て行った。


冷たく冷静な言葉に悲しくも悔しくもあったが

何よりも辛かったことが蓮也にはあった。


「ふざけんな…。兄貴が死ぬもんかよ…。

まだちゃんとごめんって伝えてないのに…。

本当は憧れるくらい大好きでかっこいいって伝えてないのに…。

俺も手紙渡そうとしたんだよ……お兄ちゃん…。」


思わず昔の呼び方が蓮也の口からこぼれていた。

その言葉を皮切りに俯いていただけの義嗣も楓も

声を出して大泣きしていた。


散々玄関で泣き疲れた後、義嗣は楓に寄り添うことを

蓮也に伝え2人は戻っていった。


蓮也は大丈夫かと聞かれたが実際誰も大丈夫なわけがないと

思いながらも今の様子だと楓が一番酷く憔悴していると考え

大丈夫だと伝えた。


嘔吐したものを片づけて玄関の掃除をしていると

義嗣が寝室から出てきた。


「母さんは?」


「泣き疲れたんだろう。やっと落ち着いて寝てくれたよ。」


「そっか眠れたならよかった。」


そんな会話の後に少しの静寂が流れた後

蓮也はおもむろに話始めた。


「父さん…。俺…。」


「ん?どうした?」


義嗣も辛い気持ちを抑えながら優しいトーンで

蓮也の話を聞いてくれた。

そして蓮也はまた涙をこぼしながら話始める。


「やっぱり納得できないんだ…。警察の人が言ったことは

少し理解したよ。でも納得はできなくて…。」


「あたりまえだろ…。俺だって納得してなんかない。

悔しくて苦しくてしょうがなかったよ。だからその気持ちは

何も間違ってない」


そう伝えながら義嗣もまた涙があふれてきた。

泣きながら蓮也の頭を撫でて話をつづける。


「納得する必要なんかない。ただ心のどこかでいつか

人の死は受け入れて前を向かないといけないんだ。

そんなことはわかってるんだよ。でも今はまだ……辛すぎるだろ…。」


そう言って蓮也を強く抱きしめ苦しそうに義嗣も

大泣きした。


この時、蓮也は悟った。

義嗣が楓を支えるために涙をこの瞬間まで我慢していたこと。

本当は誰にも見られないとこで泣くつもりだったであろうことを。


そう思うといたたまれなくなり蓮也もまた義嗣の

胸の中で大泣きした。

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