第54話 OFB―0078

 すれ違い、離れゆく異星の宇宙船を観測しながら、OFB―0078号の船内では情報解析プログラムが後続船に向けて指向性しこうせい通信を行なっていた。


 電子空間では、トラヤヌスを筆頭とするアドミニストレータAI集団「五賢帝ごけんてい」が、シローたち冒険者へ向けて解析かいせき結果を説明している。


「敵性異星宇宙船からの反応なし。OFB―0078による電子的強襲きょうしゅうは失敗。

 自律型ハッキングAI群は、殲滅せんめつされたものと推測されます。

 この結果は後続のOFB艦隊に引き継がれ、計画遂行すいこう一助いちじょとなるでしょう」




 敵の宇宙船へ乗り込むのは自身のコピーであり、オリジナルは船内に残って宇宙の旅を続けることができる。(どちらがオリジナルでどちらがコピーなのか、答えを持ち合わせている者はいなかったが)


 真実を知ったのは、敵宇宙船との接近時に自律型ハッキングAI群の送信を実行した後だった。


 その前段では、自分自身が決死行けっしこうおもむく覚悟で身支度を整えており、最終的にトラヤヌスから「転送」の合図を受けた。


 この時初めて俺たちはオリジナルとコピー(仮に、と呼称する)とで分かれたらしい。


 その後で、いつまで経っても自分が敵船に乗り込んでいないことを不審に思っているところに、トラヤヌスから「種明かし」された。


 事前に知らされなかったのは、直前で分離され敵船へ乗り込んだシロピーたちが「貧乏くじを引かされた」とモチベーションを落とさないための配慮なのだという。


 確かに、真実を事前に知らされていて、なおかつ自分が敵船に突入する側(シロピー側)だったら、とてつもない不公平感を抱いてパフォーマンスが低下していたかもしれない。


 シロピーたちへの思いは複雑だ。


 今となっては、彼らがどのように戦い、どのように散っていったのかは、誰にもわからない。


 圧倒的な戦力差に押しつぶされてはかなく消えたのだろうか。


 いいところまで敵を追い詰めながらも、力及ばず倒れたのだろうか。


 もしくは、地下に潜ってゲリラ戦でも展開しているのだろうか。


 いまの俺たちは、彼らの犠牲の上に成り立っている存在だ。


 その事を忘れずに、残りの人生を歩いて行くことを誓う。




 のちに知ったことだが、俺たちがる宇宙船OFB―0078は「オペレーション・ファイアウォール・ブリーチ」で建造された78番目の艦船かんせんだ。


 この計画で何隻の宇宙船が送り出されたのかは機密事項に抵触するらしく、聞き出すことはできなかった。


 五賢帝たちですら、あずかり知らぬことなのかもしれない。


 0001〜0010までが偵察ていさつ艦、それ以降が電子的強襲きょうしゅう艦という位置づけということだったので、ナンバリングの順番どおりに戦闘を仕掛けているとしたら、俺たちの攻撃は68回目だったという計算になる。


 それが多いのか少ないのかは分からないし、あと何回分の攻撃が用意されているのかも分からない。


 4桁のナンバリングが示すように、千隻単位の宇宙船が用意されているのかもしれない。


 俺が何となく認識していた人類の科学力では、ここまで大きな計画を実行できなかったように思う。


 異星の科学力への恐怖を感じたことで、人類の心に大きな変化があったのだろう。


 地球の外側に人類共通の敵を設定したことで、否応いやおうなしに科学力を進歩させたに違いない。


 国家同士の覇権はけん争いは終わったのだろうか。


 くだらない内輪もめに終始しゅうししていたら、千隻単位の宇宙艦隊を運用することなど出来ないだろう。


 その宇宙船の一隻一隻それぞれに俺たちのような境遇のAIがいて、真実を知らされないまま過酷な戦闘訓練を強いられているのだろうか。


 むごい話だとも思うが、そこまでしてでも生にしがみつこうとする人類には、畏敬いけいの念すら覚えてしまう。


 泥臭くても残酷であっても自分たちが生き残ることを優先する姿勢に対して、生命体が持つ原始的な本能を感じ取れるからだろうか。


 この戦いの結末を知ることが出来ないのは残念だが、地球生まれの生命体として彼らの成功を祈りたい。




 宇宙船OFB―0078は最大の目標こそ達成できなかったが、敵船へのアタックと後続への報告によって最低限の仕事をこなしたといえる。


 そういう意味では人類への義理も果たし終え、これから先の航行はオマケのようなものだ。


 いちおう今後は「可能ならば、敵異星人の母星を捜索そうさくする」という任務があるのだが、ほぼ達成不可能で非現実的な目標だという。


 現実的には、敵船への攻撃を終わらせた時点でOFB―0078の任務は終了となる。


「ワンウェイ ラッシュ・オンライン」世界の管理というタスクを終えて手持ち無沙汰ぶさたなアドミニストレータAIたちは、俺たちへの報酬として「幸せな夢の世界」を提供してくれるらしい。


 俺たちを送り出した人類がもともと用意してくれていた計画だそうで、各人が望む幸せな世界を具現化してくれるのだそうだ。


 俺とライカの当面の望みは、モルディブのリゾート・アイランドを再現したエリアでバカンスを楽しむこと。


 ゆっくりと身体を休めながら、人生の喜びについて2人で語り合うつもりでいる。


 いつかは飽きが来るのかもしれないが、その後のことはその時になってから考えればいい。


 宇宙船自体の、もしくは俺たちが生きる電子空間を構成する記憶装置の寿命があとどの程度あるのかは分からない。


 その寿命が切れるまでは、好きなように楽しませてもらうつもりだ。








 ◆◆◆お礼・お願い◆◆◆


 これにて「往きて還らぬ物語」完結となります。


 お読みいただき、ありがとうございました。



 次回作として、仮タイトル↓


「積み立て勇者 」

〜読むだけでお金が増える?お金の知識で勝ち組人生を満喫する予定だった俺が、異世界に転移させられたばかりか謎スキル【インデックス投資】を付与されてしまった件〜


 https://kakuyomu.jp/works/16818622171859238205


 を書き溜めているところですので、よろしかったら作者フォロー・作品フォローをお願いします。




 シローとライカ、残りの人生を楽しく生きてね!


 地球人類、やる事えげつないな!


 話のスケールがどんどん大きくなっていったな!




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【完結済】往きて還らぬ物語 〜つまりは、片道切符で帰れない宿命を背負った男女の戦いの物語〜 アイラ @Scotch-whisky

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