往きて還らぬ物語

アイラ

一部

第1話 葛藤

 相棒の斧戦士が精神的に参ってしまい、その結果としてペアを解消されたことで、俺は単騎の冒険者に戻らざるを得なくなった。


 あのナイスガイの他にペアを組んでくれるような知り合いもいなかったし、そもそもアイツほど息の合った立ち回りが出来る相棒など、いまさら見つれられるとも思えない。


 かといって、3人以上でパーティーを組むのもゴメンだった。


 このゲーム世界を生き抜くために何より難しいのは、人間関係。


 そのことは、最初にアイツとも時間をかけて話し合ったうえで出した結論だった。

 人間が3人以上集まれば、メリットよりもデメリットのほうが上回る。


 助け合うためにパーティーを組んだのに、人間関係が悪くなって足を引っ張り合うような事態になれば、それこそ本末転倒なのだから。




 そういうわけで俺は今、1人でダンジョンを徘徊している。


 一般的にはソロと呼ばれることが多いが、個人的には「単騎」という呼称が気に入っている。


 MMOPRGの黎明期に、一部のゲーム内で使われていた言葉らしい。


 ペアをやめて単騎に戻る、と言葉にすれば簡単な事のように思えるが、実際には多くの困難がつきまとう。


 長らくペアでの冒険を続けていた俺にとって、戦闘スタイルの変更は一朝一夕には出来るものではなかった。


 なんせ、このゲームを始めてから半年以上が経過する中で、単騎で過ごしたのは最初のひと月だけなのだから。


 それ以降は長らく、相棒の斧戦士とペアを組んで冒険をこなしてきたのだ。


 単騎となれば、単純に言っても戦力はペア時代の二分の一、実際にはそれを大きく下回ることになる。


 結果として、今までは定番だった狩り場の多くが、死と隣り合わせのデンジャラスゾーンになり果てていた。


 とてもではないが、安定した経験値稼ぎと黒字狩りを両立させられるエリアでは無くなってしまったのだ。




 狩り場の難易度を少しずつ下げながらトライ・アンド・エラーを繰り返したが、デスペナルティで多くの経験値を失っただけで、代わりに得たものは驚くほど少なかった。


 悔しいことに、足りないのは自身のレベルや装備だけではなかった。


 単騎プレーヤーとしての立ち回り方・その他多くのゲーム内での実践的な知識が、決定的に欠けていたのだ。


 最終的に、俺は狩り場の難易度を著しく下げることを決断した。


 苦渋の決断だった。


 その決断は、このVRMMORPG「ワンウェイ ラッシュ・オンライン」の参加プレーヤーの中にあって、そのトップ集団からの脱落を意味したからだ。


 このゲームをクリアすること。


 それこそが俺たちプレーヤーにとって、まさに「生死を賭けた問題」だというのに⋯

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