道楽記録
あきかん
らぁ麺 すぎ本
突然だが、『らぁ麺 すぎ本』を知っているだろうか?
知っている、と思った方はそこそこのラーメン好きだ。神奈川県横浜市青葉台にある『らぁ麺 すぎ本』は、ラーメンに興味があれば1度は目にしたことのある有名店で、それは2つの理由がある。
第一に、この『らぁ麺 すぎ本』はミシュランの星を数年続けて獲得した事でラーメン界隈だけでなく、その他の食に興味がある人々にも浮き名を知られている。当然ながらラーメン百景にもその名を連ねる当店は、ラーメン好きなら誰もが知る名店と言える。
もう一つ。『らぁ麺 すぎ本』を語る上で外せない点。この店の店長がラーメンの鬼こと佐野実の最後の弟子だということだ。ミシュランよりもこちらの方が重要事項なのかも知れない。この店を見かけたことのある人ならば、表の壁に印刷された佐野実の写真の印象が残るのは間違いない。
ラーメンの鬼こと佐野実を知らない人も多いだろう。今から20年以上前。TOKIOがまだ農家や大工になる前、ガチンコ!というテレビ番組が一世を風靡していた。その番組の2代看板、ガチンコファイトクラブとラーメン道。そのラーメン道で指導者として人気を博したのが佐野実という男だ。間違いなく、日本一有名なラーメン屋の店主だった。
佐野実のラーメンは佐野ラーメンと呼ばれ、『清潔、簡潔、明澄』という佐野実本人の言葉と共にこのラーメンは評されていた。食材一つ一つをこだわる姿勢。考え抜かれた自家製のストレート麺。思わずスープを飲み干してしまうほどの澄んだ味わい。この味を継承し、今なお進化させている名店が今回訪れた『らぁ麺 すぎ本』である。
『らぁ麺 すぎ本』は、去年から見かけていた。私は週に2、3回のペースで江ノ島へ向かう。自転車で江ノ島まで往復するとだいたい90キロ。グロスタイムで6時間弱かかる。つまり半日程度で行ける距離なのだ。
この際、国道246を通る。青葉台から国道246に合流して江ノ島を目指すのだ。この国道246号線沿いに『らぁ麺 すぎ本』はある。
この店の前を通る度に、ラーメンファイトの人だ、と思っていた。ただ、ラーメンを食べようとは思わなかった。
理由は幾つかあるが、最大の理由は、駐輪場が近くにない事だ。徒歩で15分ほどの所に駅前の駐輪場があるにはあるが、そこまで歩くのが億劫だった。私は江ノ島へ向かう時は、サイクルシューズを履いている。このサイクルシューズというのは、ソールはプラスチックで硬く、かつクリートというプラスチック製の部品が取り付けられており、とても歩きにくい。というわけで、『らぁ麺 すぎ本』は昼食候補からは除外していた。
しかし、先日ふと思ったのだ。私はいつも同じ店でしか食べてないな、と。新しい店を開拓するのも良いのではないか、と。そこで幾つかある候補の1つの『らぁ麺 すぎ本』を訪れる事にした。
夜勤空けの日曜日だった。終業時間は午前10時。帰宅途中のコンビニでおにぎりを2つ買った。帰宅して風呂を沸かす。おにぎりを食べる。布団を干す。洗い物を洗濯機へ放り込んだ。
風呂に入る。45度のシャワーを浴びて眠気を覚ます。血行が良くなると口の中が少ししみた。
天気予報だと外気温は15度を越える春日和らしく、帰宅している最中も肌寒さを感じない過ごしやすい気温だった。先日買ったモンベルのライトシェルジャケットをインナーシャツの上に羽織った。
江ノ島を目指し自転車をこぎ始めた。外は快晴。自転車日和。気持ちも晴れやかに、かって知ったる道を進んだ。
『らぁ麺 すぎ本』までは約16キロほどある。自宅を出たのが11時。開店時間が11時半。下り道で風を感じながら、少し並ぶ事になるな、と考えていた。
『らぁ麺 すぎ本』の横を通ると人が数人並んでいた。私は少し先にある駐輪場を目指して自転車をこぎ進める。時刻は11時半を少し過ぎていた。
『らぁ麺 すぎ本』の前には行列用の席が10席あり、着いた頃には7人が並んでいた。最後尾に並んでいると、定員が店から出てきて
「中で食券を購入してから再度お並びください。」
と、案内された。
食券機の前に立つ。醤油らぁ麺1300円。なかなか強気の値段設定。私は味玉醤油らぁ麺1500円の食券を購入して再度店の外に出て行列に加わった。
回転率はなかなか良かった。5分ぐらいで1組が店の中へ消え、目をそらしてスマホをいじっていると三人ほど前の席が空いていた。
30分いかないくらいの時間で店内に案内された。カウンター席に座る。食券を店員に渡した。
お冷やを1口飲んだ。少ししみる。着丼は5分から10分ぐらい。白い湯気が立ち上がっているかのようなシズル感に期待が膨らんだ。
いただきます。と心の中で呟いてからレンゲを手に取る。スープを1口。近所にある淡麗醤油ラーメンと比べると醤油の味や香りが強く、それを油でまろやかに仕上げている印象を受けた。ネットのクチコミにあった“濃厚な味わい”というのも頷ける1品だと思った。
次に麺を啜った。自慢の自家製麺。細麺ストレートのはずだが食べごたえがある。味わって食べようと咀嚼をしたら、ズキンズキン…と、しみた。口内炎だ。仕方ない。ズズーとそばを啜る感じで食べる。
次にチャーシューに箸を伸ばした。箸から伝わるフカフカの感触。箸で掴める最低限の固さしかない。
口へ入れた。溶ける。これがチャーシューが溶けるということだったのか。そう感動に浸っているとまた、ズキンズキン…としみた。思わずお冷やで流し込んだ。
旨いな。旨いな。とは思いつつも口内炎で味に集中できない。まるで立ち食い蕎麦を食べるように掻き込んだ。そう言えば佐野実の店名は『支那そばや』だったな、と食べながら思い出していた。
スープの最後の1口を飲み干す。完食だ。
「ご馳走さまでした。」
と、店員に声をかけて店を後にした。
道楽記録 あきかん @Gomibako
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