サムライ式ダイエット
ちびまるフォイ
最後は一気に体重を減らせる荒業
「汝が、
「ええ……。ガチちょんまげなんですね」
「某はガチ侍でござる。タイムマシンで現代に馳せ参じたのでござる」
「それなら信頼できそうです。
お願いです! どうにか痩せたいんです!」
「無論。そのための某でござる。ではコレを」
インストラクターの侍はデカい甲冑を突きつけた。
その重さなんと20kg。
「重っ……!! これを着ろって言うんですか!?」
「さよう。侍たるもの常に試合を意識する必要がある。
貴様はその貧弱でだらしない体を改善するにはよかろう」
「う、動けない……」
侍の介助ありで着込んだものの、立っているだけでやっと。
もはやこれは身につける棺に近い。
「お侍先生……。あの、みっつほど良いですか」
「なんだ」
「息苦しいし、暑苦しいし、トイレ行きたいです」
「そうか」
「いや一旦外してくれません!?」
「これもダイエットの一環だ」
「うそぉ!?」
重鎧武者の姿のまま歩くだけでひと苦労。
重く動きにくい甲冑はサウナスーツよりも効率的に発汗させる。
数日、甲冑に閉じ込められて生活を続けた。
やっと動き方や甲冑生活になじめたころ。
「では次のステップだ。これを」
「か、刀……? なにに使うんです?」
「決まっているだろう」
侍の目には常に闘志と真剣さが含まれていた。
冗談も嘘も通じないだろう。
侍は刀の使い道をハッキリ宣言する。
「料理に使う」
これからは侍ダイエットの一環として、
あらゆる調理や食事には刀を用いることとなった。
「なんでこんなことを……」
最初は疑問しかなかったが、使ってみて納得。
脇差しを持ってしてもその重量で腕がつりそうになる。
しかも包丁がわりに使うには長すぎる。
「ああもう! こんなんで料理なんてできるわけないでしょう!」
「だな」
「わかってて言ったんですか!!」
「刀で食えぬのなら、食わねばよいのでござる」
「最初から断食させればいいでしょ!」
「刀の扱いに慣れるという目的もあるのでござる」
「うう……そんなぁ……」
最初は刀の先っちょで突き刺すしかできなかった。
しだいに刀の扱いに慣れ始め、刀身に乗せて食べたり、切ったりできるようになる。
それを甲冑着込んだ状態でやるのだから、
体の脂肪という脂肪は筋肉へと置き換えられていく。
刀の扱いにも慣れてきたころ。
次なるステップが侍より告げられた。
「よし、次のステップは試合でござる」
「試合!? 人を斬るなんてできませんよ!?」
「竹刀でやるから問題ない。かかってこい」
竹刀を渡されて斬り合いが毎日カリキュラムに追加される。
これが一番しんどい。
甲冑を着込んだ状態で、激しい運動をこなすことになる。
「キエエエエーー!!」
「声が小さい!!」
「ちぇすとーーー!!!」
「もっと腹から声を!! そんなんじゃ戰場では聞こえん!」
「ござるーーーーー!!!」
「もっともっと!!」
道場では絶え間なく鳥の鳴き声なのか、
自分の叫んだ声なのかわからない音が反響し続けていた。
「よし、今日はこれぐらいにしてやるでござる」
「ぜはっ……ぜはっ……」
試合が終わると脱水症状と疲れで走馬灯が見えた。
生半可ではない運動量で体中から余分な脂肪が消える。
翌日も。
翌々日も試合は行われた。
自分が試合に慣れてきたと思ったら、
侍はより本気を出して試合の負荷をあげていく。
試合はいつもしんどい。
そんな日々を永久に過ごすと思っていたとき。
「キエエエアァァァァ!! めーーんっ!!!」
自分の竹刀が侍のちょんまげをとらえた。
確かな竹刀の感触。
インストラクターの侍はあっけに取られ、
事態を理解するや拍手をしはじめた。
「ついにここまで来たでござるな」
「え……?」
「侍ダイエットはこれで全プログラム終了でござる。
某から一本取るほどになれば、汝も十分痩せたはずでござる」
侍は道場の奥から体重計をひっぱりだしてきた。
ダイエット中に細かく計測していると、
わずかな体重の増減でモチベが変動するからとあえて計測を避けていた。
「乗って……いいんですか?」
「当然でござる」
おそるおそる体重計に乗る。
デジタル表示には痩せたい目標体重を大きく下回る結果。
体脂肪率も一般男性よりも低く極めて健康的。
「おおお! やった!! ダイエット成功だ!!」
「素晴らしいでござる」
「ありがとうございます! おかげで痩せることができました!!」
「いやいや、すべては汝の努力の成果でござる。
実にほまれ高いことを成し遂げた。では最後だ」
「え? まだなにか? 痩せ終わりましたよ?」
「ダイエットではない。
汝のあくなき努力の誉れとして最後の褒美をやるのでござる」
「ああ、そういうこと。そんなそんな。でもありがとうございます」
「甲冑を脱いでコレに着替えるのでござる」
「白い……着物?」
疑問を尋ねる前に、侍は着々と準備を整えていた。
刀を磨き、ゴザをしいて、周囲には花が飾られる。
嫌な汗が全身を伝う。
聞くのも恐ろしいが、聞かずにはいられなかった。
「あの……僕は……これから何を……?」
「汝は良い仕事をした。実に名誉あることでござる」
侍は迷いない目で続けた。
「侍なら切腹こそ最高の誉れ。
汝の素晴らしき引き際は後世にも語りつがれるでござるよ!」
サムライ式ダイエット ちびまるフォイ @firestorage
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