フラダンスはどこから来たか

池平コショウ

第1話

 ハワイの伝統文化とされてきたフラダンスのルーツが日本だったと聞かされてあわてていた。

 ハワイの歴史や文化を熟知した美魔女フラダンサーである私が「知らない」では済まされない。

 ハワイ語には文字がないので何かを未来に残したいときには歌や踊りに託したというのがこれまでの定説。先人たちからのメッセージだったはずのフラダンスの発祥がハワイでないとなれば文化史が変わってしまう。

 事実を確認するには現地に行くしかない。はやる気持ちを押さえながらハワイへと向かった。

 私にとって何十回目かのホノルル空港はこの時期にはめずらしくどんよりと曇っていた。ハイビスカスの香りが漂っているのは、到着客にハワイを実感させるための仕掛けなのだという。

 出口で知人が出迎えてくれた。渡航の目的はメールで伝えてある。日本からの移入文化に最も詳しい人に会えるよう手配してくれていた。

 知人の車で島の東側に向かう。うかがったのは九十三才の日系三世・アロ・カハナヌイさん。多少たどたどしいが日本語が話せる。

 早速、フラダンスのルーツが日本なのか尋ねた。すると、アロさんはこともなげに言った。

「周知の事実です。太平洋を囲む地域では大昔から多くの人々の交流がありました」

 そう切り出す。

「寝具のことをこちらでもフトンと呼びます。日本の布団がそのまま文化として取り入れられた例です。フラダンスは日本の山形県や新潟県、とくに佐渡島から伝わりました」

 山形と言えば花笠踊りが有名だし佐渡には佐渡おけさがある。踊り手が縦に並ぶか横に並ぶかの違いこそあれ、整列して演舞する形態は共通だ。

 アロさんは続ける。

「当時の移民の中にはフラダンスの名人がいて、天下に並ぶ者なし、天下無双とまで言われたそうです」

 私が興味を示すとすかさず、

「そうだ。天下無双のフラダンスを見に行きましょう」と言い出した。

 日本移民記念館という施設で見られるという。映像が残っているのだろうか。とにかく行ってみることにした。

 展示室に入る。アロさんが指さした方向には臙脂色のツヤを湛えた木製の小物入れがあった。いくつかの引き出しを備え、真っ黒に焼き入れした金具が重厚さを演出している。木地にも金具にも細かな細工がなされていた。見事な工芸品であることはわかる。だが。

「これは何ですか?」

「船で旅をした日本人はこれに貴重品などを入れました。万一、船が難破してもこれは海に浮かぶようにできています」

「それはいいですけど、フラダンスとどういう関係があるんでしょうか」

「フラダンスではありません船箪笥です。天下無双の職人の手によるフナダンス。あなたが知りたかったのはこれでしょ?」

<了>

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