剣舞『天下無双』の復活

風鈴

第1話

 古来より伝われていた、剣舞は数あるが、天照大神に捧げる剣舞『天下無双』は、この国の戦の必勝を祈る大切な剣舞であった。

 だが、一子相伝であり、男性のみが舞う事が条件であった。その為今より100年程前に途絶えてしまった。

 最後の家元であった高殿陽之助たかどのようのすけには、息子陽一郎よういちろうが生まれたが、幼い頃からの持病があり、激しい動きで踊る剣舞『天下無双』は本人への負担が大きかった。

 むしろ、彼の娘であった陽毬ひまりの方が、剣舞は上手く、『天下無双』以外の剣舞は彼女は踊る事ができた。

 そんな時に、国家存亡の機が起きる。帝より剣舞『天下無双』を舞い、民主を鼓舞するようにとの勅命を受け、当主の陽之助は、舞台に上がる予定であったが、息子陽一郎が、この大戦はもう負けるそれは火を見るより確かな事だ。だから、陽毬は、高殿家を存続する為にも生きながらえて欲しいと言って、高殿家の高弟と家を出した。

 負け戦で、責任を負うのは必至と思い陽一郎は、陽之助に一緒に踊る事を願い、舞台に2人で上がる。

 剣舞が終わった後に陽一郎は、しばらく後に亡くなり、敗戦が、色濃くなった頃に陽之助は軍によって獄中に入れられていた。敗戦が決まった時に、陽之助は獄中死した。

 それから100年の月日は流れ、陽毬は、高弟との間に子を授かり、剣舞は今も継承されていたが、『天下無双』の継承者はこの世には居ない。

 平和な時代が続いていたが、この頃水面下では少しずつ人の心が荒みつつある。高殿家はもうない。剣舞ももうする者も殆どいなかった。陽毬の末裔ももうこの世には居ない。神に祈る為の場所も今は誰も知らない。

 高水陽介たかみようすけは、大学の友人達と温泉巡りのサークルを立ち上げて、四季折々に温泉巡りを楽しんでいた。

 今年の春以降は就職活動で忙しくなる、サークル活動を一時的休止する予定で、春まだ早い山奥の温泉宿に友人3人とやってきた。遠くの山は雪が残ってまだ白く、宿の近くは閑散としていた。

「おい、スッゲーひなびた感じ」

「ここ本当に温泉ある?下手したら幽霊屋敷じゃないよなぁ」

「大丈夫だと思うよ。ちゃんといい評価してあったもん」

「俺、幽霊はダメだぁ」

 学生たちは思い思いの事を言いながら旅館に入る

「大丈夫です、温泉はあります。ただ、あまり開かれていないのはここは、神聖な剣舞の舞台があった場所の近くにあるからで、その舞台も今はどこにあるのか誰も知らないんです」

 旅館の主人はそう言った。

「剣舞か」

 陽介は、胸の中にその言葉が響く

 3人は、温泉宿の周りを散策したりして楽しんだが、陽介だけがもっと奥に行きたい、行かねばならないと言う思いが浮かび上がってきた。それが何なのか分からずに苦笑する。

 温泉宿の夕食は豪勢だった。堪能したあと風呂に入ったが温泉のお湯はとても滑らかで、気持ちが良かった。

 友人達は、酒を飲んだから後から入ると言って陽介はひとりで楽しんだ。

 陽介はふと思う、あいつらと一緒に風呂に入った事は無かったと思うが、自分自体も人と入った事がなかったと思った。

 色々と思いながらいたら長湯をしていた。

「おい、死んでんじゃないよな」

 友人のひとりが風呂の外から声をかけた。

「もう上がるよ」

 陽介は、上がって服を着ていると友人が水を出して

「えらく長湯だったなぁ、なんか考え事でもしてた?」

「そう言えば、お前たちと一緒に風呂に入った事がなかったと思ったら、俺自体自分の家でもそうだったと思って」

「高水財閥系の御曹司なんだから」

「そうか、家か、俺は養子だぞ、いつも良くしてもらえてありがたいと思っているけど」

「あの養父母さんは良くできた人なんだよ」

「俺が入ってくる」

「先に布団に入っていていいぞ、長湯で疲れただろう」

「あぁ、そうする」

「俺らも風呂入ったら寝るから」

 陽介は、部屋に戻って布団の上で湯冷まししながら携帯をいじるが、携帯のバッテリーが残りわずかとなってたので、充電器に繋いで布団に入った。そして何かが浮かんだ

「剣舞『天下無双』」

 何なのか分からずに苦笑して寝てしまった。

「寝たか?どう」

「寝た」

「本当にあそこに連れて行くのか?」

「あぁ、そうしない覚醒は無理なんだと思う」

「わかった。やるなら今しかない、行くぞ」

「伯父さん、舞台は、整えてあるんだな」

「万事つつがなく」

 陽介は、夢を見ていた。陽介が高水の分家の養父母の家に来た時、まだ3歳だった。両親はいたんだろうが覚えていない。中学卒業の時まで養父母が両親だと思っていた。それなのに卒業式の日に養子だと言われた。別段、扱いが変わる事はなかったが、両親については事故で亡くなったと言われた。

 小さい頃から、剣道は習わされていた。それ以外、勉強をしなさいも一切言わなかった。友人の2人とは剣道を通して知り合い友人になった。

 ふっと身体が持ち上がるような感じがした。そして、遠くに音楽が鳴っている。良く知っている音楽だった。曲名は、知らないが、養父が良く聞いていた。

 急に、身体の中から力が漲ってきた。陽介は布団の上に立ち上がり、急にダンスを舞い出した。ダンスだと思っていたのに陽介はそれが剣舞だと自覚した。その時自分の前に一振りの刀があった。それを赴くままに握って舞始めた。

 音楽は、段々と大きく陽介を満たして行く。そして、その音楽が、『天下無双』だと自覚した。

 友人達も旅館の主人も舞台狭しと舞う陽介を見て涙を流していた。

 これが、この世を平和へ導く為に復活した剣舞『天下無双』新たな始まりであった。



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