第58話

「ねえ。光姫。」


「ん?なに?」



初芽君に引き止められて、振り返る。顔を間近に迫られて、鼻と鼻がぶつかりそうな距離で空気のように囁かれた。



「今日、いつもと雰囲気違う。」


「そ、そう?わかる??」



初芽君のお顔があまりにも綺麗すぎて動揺した。思わず後ろに一歩後ずさる。



「唇の血色が、ちょっときもい。」


「………」



ちょい辛辣、というか“ちょいらつ”な言葉に狼狽えそうになるも、ぐっと気を引き締めた。



「きもくてけっこう。このリップ、紅梅色ですから!」


「……公売色?」


「紅梅色!ニュアンスで伝わってよ!」



再び距離を詰めてくる初芽君に、手を伸ばされてむぎゅっと頬を鷲掴みにされてしまった。



そして見開いた瞳で、小さく唇を開いた。



「ねえ光姫。結婚相手が誰か、知りたくない?」


「え?」


「俺が教えてあげる。放課後、いつもの場所においで。」



痛いくらいに掴まれた頬を離される。



ユキっペが、「なんの話?」と不思議そうに聞いてきた。




私の結婚相手のことは、校内では初芽君以外、知らないことになっている。皆に私の出生の秘密を知られて、敬遠されたくないからだ。                   



今朝丸さんにも、来る時は、必ず裏門から少し離れた場所で待っていてほしいと伝えてある。




「なんでもないよ、ユキっペ。」




せっかくできた大事な友だちを、体裁ばかりを気にする水都家の事情なんかで失いたくはない。 



  


今日は夜、食事会がある。早く帰って少しでも仮眠をとりたい。でも初芽君の誘いを断って、皆に言いふらされるのは怖い。



放課後、重い足取りで図書室へと向かった。

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これって青くない春 由汰のらん @YUNTAYUE

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