お祭のはなし

綾瀬 柊

お祭のはなし

***


「颯太ー、もうお昼なんだけど」

「あ、もうそんな時間?」

入るよーとノックして覗くと、弟は布団の上で寝転がったまま雑誌を読んでいた。


 珍しい。旅雑誌なんか見てる。

 弟の趣味はゲームだ。もはやオタクと言ってもいい。ただ他のオタクと違うところは、彼はアニメにも漫画にも興味がなく、ひたすら空き時間を費やしあらゆるゲームを楽しむだけということ。

 テレビですら私や家族が見たいドラマがあるときに、それに付き合って眺める程度のものである。


 ――家で過ごすのが大好きな颯太が、旅?


 思わず寄って行って覗き込んだ。

「どっか行くの? お土産よろしく」

浮かない顔をした颯太は顔を上げ、面倒くさそうに首を振った。

「お土産は経費にならないと思うから期待しないで。ただの遠征っていうか出張だから」

「? バイトなのに?」

バイトだからだよ、と鼻先で溜息をついた。

「他の人たちは仕事があるから、全員が同じように移動できるかわかんないみたい。もしかしたら学生のオレだけ、先にひとりで行く形になるかもって言われて」

ひとり旅なんかしたことないからちょっと不安でさ、と述べつつ、弟の読みふけるページには観光名所が載っていた。

 ……この子、めちゃくちゃ満喫する気だ。


 弟はバイトで、地元の戦隊ヒーローの妖精ニャンニャンの着ぐるみの中の人をしている。

 地元の有志によってはじまった集まりのため、ヒーロー役も悪役もその他諸々も、基本的に商店街のお兄さんやおじさんたちで構成されている。彼らが土日に他県まで行くのは、確かに厳しいかもしれない。

 子持ちの人もいるって聞いたしなぁ、とぼんやり思う。子どもがいるから、戦隊ヒーローをやろうだなんて思いついたのかもしれない。

 自分の子にも喜んで見てもらえるなら、張り合いもあることだろう。


 そんな感じで細々とやっていたようだが、あるときたまたま観客が勝手にアップした動画がバズり、いくらか町興しにも貢献したらしく、市が連絡してきてようやく市の管轄になったらしい。

 市が運営する動画チャンネルやSNSも開設され、経費やら補助金やらが出るようになってよかったのかと思いきや、

『変な制約や口出しが増えて、むしろ面倒くさいこともあるみたい。オレはただのバイトだから、そういう話はぜんぶ又聞きなんだけど』

みんながちょっと愚痴っぽくなっちゃったんだよね、これまで結構楽しかったんだけどな、と弟はしばらく前からちょっと寂しそうにしていた。


 その弟が、いつになくソワついている。

「それでなんの催し? どこでやるの? 私と雅樹も見に行っていいやつ?」

「他県だしさすがに来られないでしょ。ていうか来ないで」

なんで、と問うも、なんででも、と頑なに首を振った。

「なんか、わりとちゃんとしたおっきい場所借りて、お客さんも出入りできるようにして、いろんな地元の戦隊ヒーローが集まって合同でお祭みたいなのをやるんだって。

 賑やかしのゲームとかもやって、地元戦隊でそれぞれのてっぺんを決めるらしい」

「? それぞれのてっぺんって?」

「ヒーローはヒーローで戦って、悪役は悪役で戦って、妖精とかのサブキャラでもそれぞれてっぺんを決めたら面白いんじゃないかって」


 名付けて、『地元戦隊天下無双祭(仮)』だそうだ。

 コピーライター雇って早めにもっといいタイトルにした方がいいんじゃないか、と、こずえは思った。

 人気があれば恒例の催しにしたいみたいだよ、と弟が続けたが頭に入ってこなかった。

 ――ていうか、てっぺんってなに??


「賑やかしのゲームってなにするの? ツイスターゲームとか?」

「むしろ見たいけど違うよ。ダンスバトルとか座布団回しとか、あとは色んなとこの地元の銘菓当てとか。ご当地クイズみたいなのをメインでするんだって」

「へー、結構難しそうだね。行ったことないとこの銘菓とか知らないもん」

「どの戦隊ものも地域の振興目的だから、それやってお客さんに覚えて帰ってもらいたいみたい」


 ――いや、じゃあなんで座布団回しするの??

 というか戦隊ものがゴロゴロ集まるってこと? ヒーローだらけの会場になるってこと?

 ご当地の、ちょっとチープなつくりのヒーローたちが集まって、なぜかダンスバトルや座布団回しをするお祭をするの?


 そんなの、そんな意味わかんないの絶対面白いじゃん……。


「なんか普通に興味沸くし面白そうなんだけど」

「うん、普通に面白そうでしょ」

まぁ、うちの弟が楽しそうなら何よりである。

「詳細決まったら教えてね。また雅樹と見に行く」

「来なくていいってば」

 いやに頑なじゃん、と呆れた。

 まぁなにをどう言われても行くけど、と自分のケータイをチラ見した。私も幼馴染の雅樹も、地元戦隊の公式チャンネルからSNSから、すべてをフォローしているのだ。

 そんな面白いイベントを逃すわけがない。


「でもどうせならオレも見る側がよかったな。出る側ってどう楽しめばいいのかよくわかんないし」

今回は規模も違うし着ぐるみも着てるし、と肩を竦めた。

「そもそもうちの戦隊は不利なんだよ。ニャンニャンは全身着ぐるみだから結構動きにくいし」

「いつも平気で踊り狂ってるじゃん」

 そもそも動画がバスったのは、弟が中の人をつとめはじめて動きのキレがよくなりすぎたせいだ。


「? なに言ってるの。妖精って踊り狂ってるもんでしょ」

「初耳なんだけど」


fin.

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お祭のはなし 綾瀬 柊 @ihcikuYoK

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