星を呑み込む

つばさ

星を呑み込む

 子供の頃、星になる方法という絵本が大好きだった。なんでかわからないけど、私は今でもその絵本を捨てられずにいる。

 いつもお母さんに「星になる方法」を読んでほしいと頼んで、お母さんは嫌な顔せず毎回同じ文章を読んでくれた。今でも、あの時の母の声を覚えている。

 「星になる方法。

 ある日、小さな男の子はキラキラしたお星様をつかんでしまいました。そしてそのお星様を食べてしまったのです。少年はキラキラしたお星様になりました。

 周りの人達は、星を掴んではいけない、と言うようになりました。

 ある日、綺麗な女の人が星になりたいと思いました。女の人が、星を掴みます! するとお星様が喋り始めます。

『ずっと、ずっと燃えてなきゃいけないんだよ? それでもお星様になりたいの?』

 女の人は、『私は、輝き続けたい』そう言ってお星様を食べました。

 今日も、キラキラと星が燃え続けています。

 とっても長い時間が過ぎたある日、ある少年がお父さんに話しかけます。

 『お父さん、あの星、綺麗だね』

 『あの星はね、哀れな女性の星だよ。永遠がどんなに長いか知らずに、それでも輝きたいと願った、哀れな星だ』

 『そうなの? あんなに、綺麗なのに』

 終わり。今日はもうおやすみしましょう」

 そう言って母は絵本を閉じる。

「いやだ、まだ眠くないもん。ねえお母さん、私も星になりたい。星食べてみたい」

「あなたは食べなくていいの。言われてたでしょう、哀れな星だって」

 こんな会話を、いつも、いつもしていた。


 私は、今でも、星を食べたい。


 私がアイドルになりたいと言ったら、お母さんも、お父さんもあまりいい顔をしなかった。

「アイドルは誹謗中傷を浴びる職業だよ。やめた方がいいんじゃない?」「歌が上手いんだから、歌手でもいいんじゃないか?」

 そう言って、やんわりと反対していた。2人は私が心配で反対していることは分かっている。でも悔しかった。


 公開オーディションでも、たくさんの批判を浴びた。アイドルの顔じゃないとか。不細工だとか。歌い方が気持ち悪いというコメントもあって、流石に堪えた。歌には自信があったから。それでも私はアイドルになりたかった。ただ、星になりたかった女性のように、私も輝きたいだけだ。

 

 今日は、この舞台でアイドルになれるか決まる大切な日。初めての私の晴れ舞台。

 手が震えて仕方がない。心臓が異常な速度で私の耳に届く。異常な汗の量だ。踊ってもいないのに、はぁ、はぁという音が聞こえる。

 リーダーのみかちゃんが私の肩をたたく。

「今までの自分を信じよう」

 そうだ、いままでやってきた努力、全てここで出し切る。


 始まる。

 

 スポットライトが当たる。こんなに前がなにも見えないんだ。視界が真っ白になって、頭も真っ白だ。

 やばい、焦るな、今まで通り、今まで通りやれば絶対に大丈夫なんだから。

 

 不思議と、真っ白な視界の中に星が見えた。

 

『ずっと、ずっと燃えてなきゃいけないんだよ? それでもお星様になりたいの?』そう聞かれた気がした。

 

 私は口を大きく開けて、星を呑み込む。どんなに哀れでもでも、辛くっても、輝きたいから。

 

 もう、なにも怖くない。

 私は、アイドルになった。

 

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