後編異世界を渡った男



じゃあ、それは異世界を渡ったせいということになる。


「ああ。お前の知る、前のおれだ」


「追ってきたと、いうの?」


「バカみたいだろ?でも、好きで追いかけずにはいられなかった」


彼の告白に息をのむ。


「共に生きてくれとは言わない。近くにいさせてほしい。もうつがいなんていうわけのわからないシステムに組み込まれたお前を見るのが嫌だ。これからはつがいから外れたんだ。おれがお前のつがいの代わりに愛する」


「一言も言わなかったじゃない」


「気付いたらお前がポコポコ異世界に行きまくってて、言う暇がなかった」


「でも、連絡してたじゃないの。その時とかに言えたでしょ」


「んな軽い感情じゃない。どろどろしてて、綺麗とは言えないしな」


軽口に言い出し、男は下からこちらを見上げる。


異世界を追ってきてまで、好きだと言われたことに驚き、なんとか今までの人生でやしなった顔つきを保つ。


「嬉しい……」


「な、本当か?」


微かな音量で呟くと、拾い上げた彼が問いを返す。


「ええ。貴方のこと良いなと思ってた。けど、私のことを友達だと思っているんだろうって、なら、友達の距離でずっといればいいって、思ってた」


「ツガイはいいのか、もう」


「一つの人生に愛する人は一人でいいわ。私はあの人と人生を歩もうと思って、つがいの認識薬を作ったのよ?それだけ注ぎ込んだ結果がアレだったから、諦めて終わらせるのも、私のけじめ」


「おれも、それでいいと思うぞ」


ライノスは立ち上がってルシアを抱きしめる。


その抱擁に胸が小さく鳴った。


つがいとは自分なりに向き合おうとしてダメになったので、自信をなくしていた。


しかし、今回はそういう人生なのだと割り切る。


ルシアは腕を回してその愛と献身にこたえた。







家族にライノスを紹介したら、大歓迎してくれた。


やはり、ワニの評価は落ちたままだ。


ライノスもワニの暴言には遺憾だと、罰してやりたくなると言っていた。


番が別人だと思い込むことと、ルシアを諸悪の元だと断じ、話も聞かないまま悪様に言うのは別物である。


彼女もそう思ってはいた。


薬のせい、薬のせい、何度も思った。


バケモノの羅列が出た時にはその気持ちも共に彼方へ吹き飛んだが。


ライノスと魔法薬の材料を取りに、あちこちへ行く。


その間も、結婚へ向けて心の段階を踏んでいた。


彼は、人がいない場所に引きこもっていたとは思えないくらい人脈があった。


使い魔を使い、色々やっていたとのこと。


一つの街に辿り着き、そこの雰囲気もよく、そこでお店を開いた。


魔法使いの店。


二人とも魔法使いなので、ぴったりだ。


そうやって営んでいると、小さな女の子がやってきた。


「妹が私のつがいを自分のつがいって言うの。でも、私は人間だから彼がわたしのだって自信を持って言えない」


その内容に、ライノスと目を配らせあう。


「これ、つがいを認識出来ようになるおくすりよ」


可愛いガラス瓶に入ったそれは、淡いピンク。


改良して、可愛くしてみた。


「えー!かわいーっ」


女の子は外装を気に入ったらしく、手に持って見回す。


ご家族と話し合って飲みなさいという。


説明書も一緒に。


「あの薬の効果時間は?」


「1週間」


「へぇ、優しく作れたんだな。いてっ」


含みのあるものいいに、ソレッと男の腰を分厚く挟み、抓る。


「肉の割合、今すごくなかったか?あんなに挟むことあるか?」


「小さく挟むと痛みが強いから、仕方ないわよ」


摘んでいた手を持ち上げたライノスは、そのままルシアのこめかみにキスした。


それに、微かに照れを抱き、彼女は彼へ抱き付く。






五日後、女の子は男の子と共にやってきて、仲睦まじく腕を絡め合ってうかがいにきた。


つがいと分かるようになって、不安がなくなったという。


男の子はつがいを持つ、つがいを認識出来ない人達が悩んでいるということを話し、ルシアに薬を売ってくれまいかと、頼んできた。


「認識薬は高いわよ。あなたのお小遣いでは心許ないと思うの」


値段表を見せる。


「問題ありません」


女の子のつがいはこの地域に店舗を持つ、おおきなお店の跡取り息子だったらしい。


女の子の妹が羨んだ理由がわかった気がする。


これは誰だって、彼を欲しくなる。


ご贔屓にと、ある分だけ買っていき、完売。






それから二ヶ月後、新聞記者がやってきて、認識薬について聞きたいと訊ねてきた。


ライノスは取り合わずに追い払おうとしていたのだが、その間に起こった出来事に彼を止める。


「本当なの、その話し」


「ええ。あなたのおかげで王女が救われたのです」


隣国の王女の番は、番を認識できない相手。


なので、城にいる女の子とデートをしたりして、王女のつがいという立場を利用して不実なことをしていた。


王女は当然嘆き、王に泣きついた。


王は色々探すうちに例の認識薬のことを知り、手に入れた。


つがいの男に飲ませたことにより、男はつがいの認識をすることができるようになった。


王女に詫びて、そこからは仲が良いとか、まだ距離があって今後の彼への見方は少し厳しいとか、なんとか。


不貞もどきかなにかに走ったのだから、それくらい甘んじて受けるべきだ。


ライノスはこの話を信じるのかと聞いてくる。


信じなくとも支障はないけれど。


「王が先んじて魔女様を城に招きたいとか」


だから、新聞記者は先にこちらへきて、売れるだろう内容を手にルシアの元に来たのか。


「うちはほのぼのがモットーよ。城に招待されても、行くつもりはないの。あなたがその人たちに謝っておいて」


隣国のことなど、こちらとしても生活圏外。


行く理由なんてない。


薬が欲しければ、依頼や受注はしている。


薬屋、魔法使いのお店を空にするつもりもない。


ライノスは記事を書くという記者に、お帰り願う。


その隙に、相手の体毛を数本引き抜いておく。


変な記事を書こうものならば、即日呪えるためだ。


買い求める人が増えるやもと、材料の残りを確認しなければいけないなと、次のやることリストを紙に書く。


「認識薬だけじゃなくて、断絶薬も知られて欲しいのに」


「知られない方がよくないか」


「王女はそちらをのむべきね」


不誠実なものなど、捨ててやればいいのに。


そう宣言する女を見て、男はそうだなと笑った。

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番を認識できなくなった相手の言動が酷すぎてお別れすることにしました〜妹が勝手に飲んだ薬は失敗作……だけど感謝はしています〜 リーシャ @reesya

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