ご飯にする?お風呂にする?それとも…
桃鬼之人
「おかえりなさい!」
会社終わり、帰宅の時間。玄関で待ち構えていたのは、俺の愛する奥さん。食事を作っていたのか、ピンクの可愛らしいエプロンを身に付けている。エプロン姿、これがまた胸キュンポイントなんだよな。
「ただいま〜、今日はほんっとに疲れたよ〜」
家に一歩入ると、急に力が抜けて、安心感が体中に広がる。ついつい甘えた声が出ちゃう、そんな自分がちょっと恥ずかしいけど、仕方ないよね、これが「帰る場所」ってやつだ。
愛しの奥さんは、俺の顔をじっと見つめながら、にっこりと一言。
「お疲れさま! ご飯にする? お風呂にする?」
そして、少しの間があり、奥さんが顔を近づけてきて言葉を続ける。
「それとも───タ・ワ・シ───にする?」
うん、あれ? なんか妙に違和感を感じるぞ…。
俺は、おそるおそる確認してみることにした。
「あ…いや…、ご飯とお風呂はわかるんだが、最後の『タワシ』って何かな? そこは───ワ・タ・シ───じゃないの?」
愛しの奥さんは「何のこと?」という顔をしながら、無邪気に、とびきりの笑顔でこう言った。
「ううん、もちろん、タワシよ!」
その笑顔、めちゃ愛おしいんだけど、その言葉に違和感しか感じないな…。
「え…いや…、ちょっと待って…、タワシとワタシの落差がすごいんだけど…。タワシにしたら、どうなるの?」
愛しの奥さんは、自信満々に堂々と胸を張って答える。
「もちろん、タワシでゴシゴシするの!」
……え、ゴシゴシ? しかもタワシで…? その対象、たぶん俺だよね…?
なんか、めっちゃ痛そうじゃない…?
うん、絶対痛いよね……ゾワゾワしてきた……!
「いや、それって、バイオレンスじゃん! タワシでゴシゴシって、めっちゃ痛いじゃん!」
愛しの奥さんは、少し困ったように眉をひそめながらも、優しく俺の顔を見つめ、丁寧に答えた。
「あれ〜? 喜んでくれると思ったんだけどな〜」
まるで、俺が何か大事なことを理解できていないかのように、気を使っているような表情だった。
「いやいや…、どう考えたら喜びに行き着くんだよ…。とりあえず、ここは無難にご飯にしようかな…。って、待てよ…? ちなみに、お風呂にしたら、どうなるの?」
ふとした疑問が頭をよぎり、思わず口に出してしまう。
愛しの奥さんは、眩しいほどの満面の笑みで即答した。
「もちろん、タワシでゴシゴシよ!」
「結局それかーーーい!!!」
ガクンと地面をじっと見つめる俺。選択肢があっても結末は同じってことか…。
「そっか……、今日は身体が痛くて寝れなさそうだ………」
⌁❤︎⌁ ⌁❤︎⌁ ⌁❤︎⌁
俺は奥さんにバレないように必死で平静を装っていた。だが、唇の端が勝手に吊り上がるのを抑えきれず、とっさに顔を下に向け、地面をじっと見つめて何とか誤魔化した。そして、すぐにリビングを離れて着替えをする。しかし、服を着替えている間、ずっと頬が緩みっぱなしだ。ニヤニヤと笑みが止まらない。
──ふふふ……
奥さんには内緒だが、実は俺、超がつくほどのドMなのだ…!
つまり!!
タワシでゴシゴシなんて……最高じゃないか!!
むしろご褒美!!
至高の時間!!
めっちゃ楽しみだ♪
⌁❤︎⌁ ⌁❤︎⌁ ⌁❤︎⌁
私は、よく「癒し系だね」「ゆるふわだね」って言われるの。旦那さんからも毎回「可愛い可愛い」って褒められて、それはそれで嬉しいわ。
──ふふふ……
でもね……実は私、超がつくほどのドSなのよ。
そして、旦那さんは必死で隠してるつもりかもしれないけど、私の目はごまかせないわ。あの人……絶対に超がつくほどのドMだわ。
だってさっき、タワシでゴシゴシの話をしたとき……、すぐに目がとろ〜んってなって、至福で恍惚の表情をしてたもの。
さあて、どうタワシでゴシゴシしてあげようかしら──楽しみだわ。
私たち、最高に相性のいい夫婦ね。
幸せ♡
〈了〉
ご飯にする?お風呂にする?それとも… 桃鬼之人 @toukikonohito
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