幸せの架橋

「そういえば、そんなこともあったなあ……ふふ、懐かしい」


 私、夢奏はある日の朝、いつものようにキッチンで朝食を作っていた。勝手知ったる他人の……じゃ、ないか。今は……私の家なんだから。


「おかーさん、ごはんまだー?」

「もう出来るわよ」


 小さな体を揺らしてトコトコ歩いてくるのは、典奏のりか……私の娘だ。今年の春に小学生になったばかりで、拙いながらも食器を並べたり片付けたりしてくれる。しっかりもので、何よりだ。


「おみそしるは?」

「もうこっちに用意してあるわ」

「はやくもっていこうよ。おとーさん、そうしないとおきないし」

「先に食べてても良いのよ?」

「やだ、おかーさんとおとーさんといっしょがいいの」


 我が娘ながら、可愛いことを言ってくれる。こんな可愛い娘を待たせるわけにはいかない、早く起こしてこないと。


「典奏は本当に良い子ね。それに引きかえ、お父さんはこの歳になっても子供みたいに」

「んー、でもおとーさん、ほんとうはおみそしるなくてもおきれるみたいよ?」

「そうなの?」

「なんかね、あさはおかーさんのおみそしるでおきたいから、わざとおきれないふりをしてるんだって。まえにいってた」

「……まったく、あの人は」


 と言いつつ、何か嬉しいような気がするのも事実だ。それだけ私の味噌汁をいつまでも特別に思ってくれている、ということなのだから。


「あ、おかーさんてれてる!!」

「そ、そんなことはないわよ」

「おかーさんとおとーさんは、天下無双のなかよしさんだもんね♪」

「どこでそんな言葉覚えてきたのよ……」


 あー……あの人か。そういえば、前に私の料理をそんな風に褒めてくれたっけ。


「それじゃ、さっさと起こしてくるわね。良い子な典奏にはご褒美として、そこにあるお菓子食べても良いわよ」

「やったぁ~!!」


 典奏はダンスを踊るように、ぴょんぴょん跳ねて喜んだ。本当……こういうところはあの人の子供っぽいところが似たのかもしれないわね。それはそれで、悪くないか……


「おはよう。味噌汁、持ってきたわよ」

「待ってました!!」


 布団から飛び出て無邪気に喜ぶところは、昔と何も変わらない。昔と違うところは……幼馴染としてじゃなく、夫婦として接しているところだ。


「早く飲んでダイニングに来てね。典奏、待ってるんだから」

「分かってるよ、夢奏」

「それじゃ、先に行って待ってるわね……典佳」


 もし彼と私を結び付けてくれたのが味噌汁なのだとしたら……私はこれからも作り続けるだろう。授かった新しい家族にも、いずれ作り方を教えてあげたい。次はあの子の幸せの架橋になってくれたら、これ程嬉しいことはないから……

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彼の目覚ましは私の味噌汁 ここグラ @kokogura

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