無双羽織で舞い踊る

橘スミレ

第1話

「うちは天下を取るんや!」


 そう言い張り地元を飛び出して早三年。中学中退の私は碌な仕事にも就けずその日その日を生き延びるために必死こいて働いていた。

 都会はおっかないところでモノは高いし大人は怖い。あっちゅう間になけなしの貯金は消え去り、騙され続けて身も心もボロボロになった。

 かつての若さと希望にあふれた目は失われ、視界に映るは煤ばかり。どうやって生きているのかもわからないまま生きている。働いてカネもらってメシ食って寝る。それの繰り返しだ。

 いったい自分は何をしているんだと思ったのが二月の末のこと。本当はもっと素晴らしい親に自慢できる何者かになっているはずだった。そもそも私は何者かになりたくて都会に身一つで飛び出してきたんだと思い出した。だが初心を思い出したところで時既に遅し。ツテもカネもなく頼れるのは自分の身ひとつ、では行動のしようがない。

 日々絶望の中で歩き回り、電柱に追突し、ダンス大会の張り紙に血をつけたのが三月の中頃だ。貼紙禁止の指示を無視して貼られたポスターだった。「、心驚かすあなたのゼンリョク待ってます」がキャッチコピー。ちゃちいデザインに魅力的すぎる賞金。胡散臭いにも程があった。だが私はこれ以上取られるモンもないんやから、一か八か騙されてみようじゃないかと思った。

 そして今日わ大会に来ていた。僅かばかりの給金を駆使し身体をキレイしたが、染みついたニオイは落ちなかった。衣装なんてたいそうなもんはない。拾った布団で作った無双羽織だけが今日の為の特別だ。メイクもない。曲もない。振付もない。手元にある武器はこの身体一つだ。

 他のダンサーたちは大袈裟な準備をしていらっしゃる。キレイに着飾り、可愛く取り繕い、札束握らせた講師に指示を仰ぎながら踊りなさる。なかなかに華やかで美しいもんだが面白みはない。心を動かすには重量が足りない。

 私には日々働く中で不健康ながらも鍛えられた身体がある。毎日叫ぶことで酷使されるのに慣れた喉がある。必死に生きてきた魂の圧がある。この全てを駆使し観客を私の世界へ叩き落とす。昔夢見たように天下を無双してやる。

 私は決意を胸に、大きく足音を鳴らし袖から飛び出した。

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無双羽織で舞い踊る 橘スミレ @tatibanasumile

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