偶像教示

メガゴールド

   アイドルであること

 偶像アイドル

 ……俺は社長に顔がいいからとのせられ、バイト感覚でアイドル業をすることになった。

 

 はっきり言ってアイドルも、アイドルの仕事も興味なかった自分としては、そこまでやる気はなかった。幼馴染みにやるべきと後押しされたのと、妹達のためでしかなかったから。


 人気アイドルの妹だなんて誇らしいと褒められたから、やる気が少し出たのは……内緒だ。


 でもこうしてバイト感覚でもアイドルをしてわかった。


 ――アイドル業は、とても過酷な仕事だと。


 人気アイドルなら当然と思うだろう。だが違う。

 誰もが羨む、スポットライトの当たる人気アイドルだけでなく、これからと言っていいアイドルの卵、地下アイドルなどもそうだ。


 なぜか? それはどんなに辛い時でも笑顔を振る舞う必要があるからだ。


 人間なら誰しも疲れたり、機嫌の悪い時はある。そんな時でもアイドルはファンのために笑顔を見せ、ファンサービスをする。

 それが仕事というのはわかる。でも辛くもなるだろう。それでも耐えて耐えて、ファンのために歌って踊る。


 塩対応というアイドルもいるようだが、それはそれ相応の立場、キャラで成り立つものだろうし、その境地に立つのもまた大変だろう。アンチも生みやすいだろうからな。


 だからこそ、つい魔が差したり疲れて問題を起こす人が稀にいるのかもしれない。

 それだけ大変な仕事なんだと思う。


 経験してわかった。


 元々笑顔を振る舞うなど苦手な自分、精神的にネガティブ気味な自分……

 そんな自分がファンの皆さんのために、精一杯のファンサービスをおこなう……


 とてもキツイ……精神的に参ってしまう。

 でも、ファンの皆さんにそんな所を見せてはならない。


 なぜなら、ファンの皆さんが大好きな……偶像アイドルだから。


 そう、偶像だ。本来の姿ではない。

 素ではない。素を出してはならない。

 なぜなら偶像だから。皆さんの理想の偶像だから。夢を壊してはいけないからだ。

 

 素を見たいという方もいるだろう。だがそれはいけないこと。ファンは平等だから。一部の方にだけ見せられない。全員が見たいとも限らない。だから見せてはならない。


 アイドルはただ、ファンの理想でいればいい。理想の偶像でいればいい。

 ……アイドルを辞めるその時までは……


 辞めるその時に初めて偶像でいる必要がなくなる。それまでは俺も……偶像で居続ける。


 一人の先輩アイドルに出会った事で、そう思った。


 彼女はテレビやファンの前以外では確かに横暴さが目立った。でも、ファンの前では絶対にそれを見せず、常に笑顔を振り撒き、ファン一人一人に寄り添っていた。


 数多くのファンの顔を覚えて対応すらしていた。

 とても真似できない……


 まさに偶像そのものだった。


 彼女は素を世間にさらし出しはしないだろう。偶像で居続けるのだろう。ファンにとって愛される存在として、君臨し続けるのだろう。

 

 彼女は言っていた。辞めるその時までは恋愛もしないと。

 なぜならアイドルだから。ファンの夢を壊すわけにはいかないからと。一番は自分のファンのみんなだからと。


 そんな偶像の鏡、偶像の教示を教えられた俺は、バイト感覚を改め、ファンのために活動しようと思った。


 顔だけのアイドルと思われないように……自分を応援してくれるファンの皆さんのために……初めての握手会、頑張ろうと思う。


 アイドルである時間はわずかだとは思う。俺にはやるべき事もあるから。

 でも、そのわずかな間は……


 アイドルの教示を守った、アイドルとしての仕事を真っ当しようと……思う。


 ……緊張するが……行くとしよう。


 初めての握手会に。


 


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