短編112話  数ある私の幻と理想?

帝王Tsuyamasama

短編112話  数ある私の幻と理想?

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 今日見た夢で、ついに想太朗そうたろうくんの家へ遊びに行っちゃってた。

(うぅ……どんどん想太朗くんと仲良しになっていっちゃってる……)

 違うんです。現実の私、雪元ゆきもと 鈴菜すずなは、まだそこまで宮竹みやたけ 想太朗そうたろうくんと仲良くなれていないんです。

 想太朗くんは、とっても優しい性格で……困っている人がいたら助けてあげるし、明るくて友達思い。私にも声をかけてくれるし、お、おしゃべりできたときは、楽しい。

 でもきっと、想太朗くんからすれば、いろんな子たちに優しくしている中に、私がいるだけで……そんな、私から想太朗くんへみたいな、その……こんなどきどきするような気持ちとかは……そんな…………。

(今日で9回目かぁ……)

 最初に夢に出てきたとき、起きてからもしばらく楽しい気持ちが治まらなかった。なので思わずメモを書いて残したのが始まりで……。

(あっ、またぼーっとしちゃった。学校へ行く準備をしなきゃ)

 ……その前に、覚えていることをメモしちゃう私。


 学校へ登校して、自分の教室の席に座るとき、ついつい見ちゃう想太朗くんの席。今日はまだ来ていないのかな。

 私はまだ教科書を入れたままの学校指定紺色セカバンセカンドバッグを机の上に置いて、ちょっと……突っ伏しちゃった。

(はぁ~……どうしよう。夢の中だけ、どんどん仲良しが進んでいっちゃう……)


「……雪元さん? おはよう、大丈夫?」

「ぅ~ん……」

 ああ、優しくかけてくれる声。これは……こ、この声はっ。

「わ、そっ、想太朗くんっ」

 あ、ごめんね、ちょっと声大きくなっちゃったかな。

「おはよう。具合悪いの?」

 わ。想太朗くんに心配させちゃったっ。

「う、ううん、大丈夫。今朝、ちょっと寝不足で……」

「そうなの? なにか昨日、疲れるようなことでもあったの?」

(いい意味で疲れたかもっ……?)

「ううん、大丈夫っ。なんていうか、その……いい夢、見られたから」

「ええっ? いい夢見て寝不足なんて、初めて聞いたよ。雪元さんがそう言うなんて、よっぽど楽しい夢だったんだろうな。よかったら、その夢の内容教えてよっ」

(お、教えてだなんてーっ!)

 私は恥ずかしい気持ちでいっぱいなのに、想太朗くんはさわやかな笑顔……。

(で、でも、せっかく聞いてきてくれたんだし……)

「…………や、やっぱりいいですっ」

「ぷはっ! ごめん、わかったよっ。でもごめん……その表情だけで、よっぽど楽しい夢だったんだなってわかって、体調不良とかじゃないみたいで安心したよ」

 そう。想太朗くんって、いつもこんなふうに優しいの。だから……つい…………

「それにしても……雪元さん、いいや、鈴菜……ちゃんっ。急に下の名前で呼んでくれて、どうしたの?」

「えっ……? あっ!!」

 実は私、想太朗くんって呼んでいたのは、心の中と夢の中だったのーっ!

(さっき寝ぼけてて、ついとっさに……!!)

 というか、さ、さっき! 私のこと…………!

「……ゆ、夢の中では、想太朗くんのことを想太朗くんって呼んでたのっ」

「そうだったんだ! あれ、でもそれって……楽しかった夢というのに、僕がいた、ということ?」

(…………ぅぅう~っ)

「……やっぱりいいですっ……!」

 もうっ、10回目の夢でありますように~っ!

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短編112話  数ある私の幻と理想? 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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