夢解き話

高麗楼*鶏林書笈

第1話

あの夢を見たのは、これで9回目だった。初めて見たのは、ようやく物心ついた頃だろうか。

 高貴な青年が冠ではなく庶民のような白い被り物を身に着け十二弦の琴を抱えて寺の井戸の中に入っていく夢だ。

その時はあまりに幼かったので何が何だかよく分からなかった。

 次にその夢を見たのは六歳頃だっただろうか。父親が文字を教えてくれる日の前夜だった。父親に夢の内容を伝えると

「不思議な夢だね。私には夢の吉凶の判断は出来ないが、学問は凶を吉に変えることが出来るから熱心に学ぶことが大切だ」

と言った。

 三度目は師に付いて本格的に学問を始めた頃だ。

 夢の話を聞いた師匠は

「貴人が庶民のような白笠を被っているとは、少し不吉だのう」

と少し気掛かりな声で言ったが、

「だが、転禍為福(災い転じて福となす)という言葉があるように、自身の力で如何様にもなるものだ」

と激励したのだった。

 十五歳になると彼は、当時の多くの上流層の青年同様、花郎になった。一応王族である彼のもとには多くの青年が集まり、大集団となった。

 彼は仲間たちと共に、学問に勤しみ、武術を磨き、時には音楽や舞踊を楽しみながら日々を過ごしていた。気候の良い春や秋には各地を旅しながら、祖国の美しさを胸に刻むのだった。

 そんなある日、久しぶりに例の夢を見た。彼は友人の余三に内容を告げると

「これは吉夢です。敬信さまの前途は洋々としています」

という答えだった。

 この言葉は当たったようで、彼が朝廷に出仕するようになると、順調に出世していき角干すなわち副宰相の地位にまで登った。

「君のいう通りになったよ」

 今は彼の側近として活動している余三にいうと、

「まだまだ上昇しますよ」

と応えるのだった。

 だが、実際はそうはいかなかった。

 政敵によって陥れられた彼は反逆者となってしまったのである。

 そんな時、また、あの夢を見たのである。

「あれは自分の姿だったのだ。庶民のような白笠を被ったのは王族の身分を失うということだったのだなぁ」

 彼が寝床から起き上がって呟いた時、部屋の外から声がした。

「敬信さま、早くここを出ましょう」

 親友の妙正だった。王宮の兵が彼を捕らえに来たのだというのである。

 彼は大急ぎで身支度をして部屋を出た。

 外には十一名の彼の仲間がいた。

「この先に井戸があります。その中から外に出ることが出来ます」

 妙正が言い終えた時、井戸の前に着いた。

 先導役の妙正がまず入り、続いて敬信、その後を残りの人々が入っていった。暗闇の中を進んで行くと、まもなく上方に月明かりが見えた。

「着きました。外に出ましょう」

 こう言いながら、先ほどと同じように、まず妙正が外に出て敬信たちが続いた。

 外は騒々しかった。

「何かあったのか」

 敬信は、道行く青年に聞いた。

「王宮で異変が起きたようです。兵士やお役人たちが城内に向かっています」

 敬信たちも王宮に急いだ。

 城内に入ると“王が側近に殺された”と大騒ぎになっていた。

 敬信は、側にいた余三と妙正の顔を見た。二人とも頷いたので彼は大声で言った。

「私は角干の金敬信だ。いったい何事があったのだ、説明せよ」

 すると官吏の一人が応えた。

「主上と宰相が口論となり、それが高じて刃傷沙汰となってしまいました。そして、互いに斬り合ってお二人とも亡くなってしまったのです」

 敬信は、あまりのことに言葉が出なかった。

「角干さま、玉座は空になってしまいました。どうか王位に就いて下さい」

 周囲から、声が次々と上がった。

 こうして、角干 金敬信は、新羅第十二代元聖王となったのである。

 後日、王は改めて夢のことを考えた。

 十二弦の琴は、自身に従って来てくれた十二人の仲間のことなのだろう。自宅を出る時、井戸を抜けたし、白笠は角干の身分をから抜け出し王冠を被る前触れだったのかも知れない。

 とにかく、玉座に就いた以上、民と国のために尽くさねばと思うのだった。

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夢解き話 高麗楼*鶏林書笈 @keirin_syokyu

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