推しとの恋愛
アラクネ
第1話 恋の始まり
僕が彼女を見つけたのは本当に偶然だ。
いつものようにYouTubeショートをダラダラ見ていた時ふと配信をしている子がいた。
その子は特段可愛いわけではなかった。多分同い年くらいだと思う。他の配信者と比べて垢抜けていなく地味な子だったと思う。
けれど、僕はその子の笑顔に無性に惹かれてしまった。
夏の街路灯に引きつけられる蛾のように、
砂漠でオアシスを見つけた旅人みたいに、
他の誰でもなくその子に惹かれたんだ。どうしようもないほどに、狂おしいほどに。
それから毎日その子の配信を見ていた。なけなしのお小遣いでスパチャを送ったこともあった。
その子に自分の名前が呼ばれた時は、僕のどうしようもない灰色の毎日が途端に色づいた気がした。
けれどその子はその後、どんどん可愛くなっていった。次第に配信を観る人も多くなり自分がお小遣いで搾り出したスパチャなんて雀の涙だと思う程の額のスパチャを送る人もいた。
ああ、その子にもう自分は必要ないんだと、 そう感じた。
そうして、僕は彼女の配信を観るのを辞めた。
「ゆうきー、早く起きてきなさい。今日から高校でしょ」
「分かってるって。今起きようと思ったの」
「はぁ、あんたは本当にダラし無いんだから、もう高校生だというのに」
お母さんの小言を受け流しながら急いで朝食のパンを牛乳で流し込む。
そして鞄を抱え玄関に向かう。
「お兄ちゃん、ほら急がないと遅れるよ」
「みさきはまだ始まらないの?」
「私は明日からだよ」
廊下で妹とすれ違った。妹は自分と違い陽キャというやつなんだろう。友達と夜遅くまで電話をしている声がよく聞こえてくる。
僕はラノベ漁りをしているのに…。
どこでDNAの配列が変わったのか。兄弟とは思えないな。
乾いた笑いが溢れてくるがそれを誤魔化すように靴を履く。
「それじゃあ、行ってきまーす」
「「いってらっしゃーい」」
二人の言葉を背に駆け出した。
今日から高校生か、まぁ中学生の時と同じように教室の縁で寝てるふりをする寂しい生活が続くのだろう。
十分程進むと校門が見えてきた。この高校を選んだ理由はただ家に近いからだ。
「変に絡まれないといいな」
これから始まる憂鬱な毎日を想像したら帰りたくなってくるが、家族に心配をかける訳にはいかないので重い足を一歩一歩前に進める。
「ねぇクラス一緒だね」
「やっばこれって運命じゃね」
頭がお花畑なんだろうか?
自分とは真逆の人達の喧騒をかき分けクラス表を見る。
「えぇ~と、僕は……3組か」
勿論仲が良い人はいない。友達という存在を生まれてから作ったことがない僕にとってそれは至極当たり前の日常だ。
クラスからもウキウキした声が聞こえてくる。それを聞けば聞くほど僕の気持ちは憂鬱になっていく。
それでも、覚悟を決めて扉を開ける。
その時、
目の前が急に色づいた。この感じ知っている。懐かしい感じだ。僕のどうしようもない日常を唯一彩ってくれた光だ。
「なんで…彼女が…この学校に…」
眼鏡をかけてメイクをしてもいないが僕は分かる。だってあれほど夢中になっていたからだ。
僕が推していた配信者、如月結愛がそこにいた。
推しとの恋愛 アラクネ @arakune1113
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