義兄の霊が変な夢を見せてくる
双守桔梗
義兄の霊が変な夢を見せてくる
XXXX年、『布団ダンスバトル』に世界中の人々が熱狂していた。
この競技はその名の通り、布団を使ってダンスをするだけ。どの布団を何枚使ってもOKで、年齢制限はなく、老若男女誰でも参加できる競技だ。いかに上手く布団をダンスに取り入れられるかが勝負の鍵で、勝敗は芸術点で決まる。
そんな布団ダンスバトルの日本大会で、天下無双の強さを誇る男がいる。名は
そんな彼に、何度も挑む者が一人だけいる。彼の名は不遁
これは主人公の洋介が玲を倒し、日本一に輝くまでの物語……。
――こんな変な世界観の夢を毎晩、
「……なぁ、いつまで変な夢を見せ続ける気だよ……兄貴……」
目を覚ました洋介は上体を起こし、不満げに玲の方を見た。
「ん? 物語が終わるまでだが?」
洋介の部屋で呑気にプカプカと浮いている玲はどこか楽しそうに答えた。
「まじかよ……」
「何か不満でもあるのかな?」
「不満しかねぇよ」
洋介の答えに玲は目を丸くした。そして洋介のベッドに乗っかると、じっと彼の目を見つめる。
「何故だ? 洋介の好きな少年漫画の要素も取り入れているだろう」
「どの辺がだよ!?」
「ライバル同士の熱いバトルは鉄板だと言っていたじゃないか」
「それは言ったけど! 競技が変だろ!」
洋介のツッコミは玲に一切、響いていないようで彼は首を傾げている。
そんな玲を見て洋介は諦めたような深いため息をつくと立ち上がり、高校に行く準備を始める。
「ったく……この調子じゃ、悲しむ時間もねぇよ……」
洋介は制服に腕を通しながらポツリと呟いた。
玲が事故で亡くなった日から、謎の幽霊パワーで洋介はずっと、変な夢を見せられ続けている。その所為で、洋介には玲の死を悼む時間はない。
夢を見させられている時、洋介はその世界観に入り込み、楽しんでしまっている。その上、目が覚めれば『あの展開はなんだ。他キャラの癖が強過ぎる』など、全てに突っ込んでしまうからだ。
夢は日を追うごとに、意味の分からなさが加速していく。布団ダンスバトルをこの世から消そうとする怪しい組織が現れたり、宇宙人が地球を侵略しに来たりとカオスな日もあった。
それでも物語は進み、ようやく布団ダンスバトルの日本大会が開幕した。そこから毎日、トーナメントは順調に進み……とうとう決勝戦の幕が上がる。
当然、決勝は洋介と玲が戦う。二人のバトルは熾烈を極め……洋介の勝利で、日本大会は幕を閉じた。
これでやっと、この変な夢から解放される。
洋介は目が覚める直前にそう思った。それと同時に、
「洋介……どうして泣いているんだい? 布団ダンスバトルで優勝できたのが、そんなに嬉しかったのかな?」
隣から玲の声が聞こえ、驚いた洋介は勢いよく上体を起こして横を見た。
「なんで……大会が終わったから、成仏したんじゃ……」
「ん? 誰がそんな事を言ったのかな?」
洋介の言葉に、玲は不思議そうな顔で首を傾げる。その後すぐに、洋介の目元に手を伸ばし、彼の涙を優しく指で拭う。
「あぁ……僕とお別れするのが悲しくて、泣いていたんだね。洋介を泣かせたくなくて、あんな夢を見せていたのに……これでは意味がないじゃないか……」
玲は悲しげな表情でそんな事を口にすると、ベッドの上に乗って洋介を抱きしめた。
「んだよそれ……慰めるにしても、他に方法があるだろ……。兄貴って時々、意味分かんねぇ事するよな……」
洋介はそう言いながらも、何だかおかしくなり、思わず笑ってしまう。
「ふふっ……やはり洋介は笑っていた方がいい。洋介に泣き顔は似合わないよ」
玲は少し体を離し、洋介の顔を覗き込みながら嬉しそうに笑う。
「まーた、んな恥ずかしい台詞を平然と……」
洋介は照れくさそうに玲から顔を背け、素っ気ない声を出す。
「照れているのかな? 可愛いね」
「うるさい。可愛くない」
玲のからかうような言葉に、洋介は少しムッとしながら言い返す。
それでも玲は楽しそうに笑い、洋介の顔を両手で包み込み、強制的に彼と視線を合わせる。
「寂しがり屋な可愛い我が弟に朗報だ。布団ダンスバトルは今日が最終回ではない。今夜からは世界大会編が始まる。故に楽しみにしているといい」
「は……?」
玲の言葉に洋介はポカンとする。
「なんと世界大会編ではタックバトルもある。もちろん、僕と洋介が兄弟タッグを組む事になっている。どうだい? これぞ、洋介が言っていた『王道の激熱展開』だろう」
「変な競技でなければな……。あ〜……まーた、あの変な夢を、見せられ続けるのかよ……」
洋介は不満を漏らしながらも、ほんの少しワクワクしていた。
もう少しだけ
そう思いながら洋介は微かに笑い、心の中で『ありがとう、兄貴』と玲に礼を言った。
【終】
義兄の霊が変な夢を見せてくる 双守桔梗 @hutasekikyo_mozikaki
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