ケイドロ料理大会
ちびまるフォイ
ケイなんていくら居ても良い
「えーーと、ドロが1人足りませんが
さすがに待てないので始めましょう!
ケイドロ料理バトルです!」
中継を見ている客から歓声があがった。
「ここに集められたのは一流の料理人。
ですが、同時に過去に犯罪を犯した人でもあります。
ルールはこの町の食材・調理器具を自由に盗み、
制限時間内に一番美味しい料理を作った人間は
それまでのすべての罪を無罪放免とされます」
料理人たちは大いに目を輝かせた。
「ですが、同時にこの町には"ケイ"と呼ばれる人もいます。
彼らは"ドロ"である料理人たちを捕まえます。
捕まったら料理は没収となります。
審査に出される料理はその時点となります」
今度はケイたちが目をギラつかせる。
「ケイの目をかいくぐり、一番美味しい料理を作りましょう!
さあ、ゲームスタートです!!」
開始の合図とともに料理人ことドロたちが散り散りに逃げた。
数分待ってから今度はケイが町へ解き放たれる。
「ようし、まずはアレとコレを集めないと」
「ようブラザー。何を作るつもりだ?」
ケイがまだ町に行き渡ってない序盤。
ドロたちは最初に重めの調理器具の確保に動いていた。
「秘密」
「なんだよ。ドロなんだから協力すればいいのに」
「バカいえ。最終的に料理の審査をするんだからライバルだろ」
「ちぇっ。つまんないやつ」
協力すれば料理や調理器具の調達もしやすくなる。
それは同時にお互いに塩を送り合うことにもなる。
「この大会で優勝して、罪を帳消しにしてやる……!」
ライバルを作りたくないドロは協力を拒んだ。
巡回するケイを避けながら、町から必要な道具や食材を集めていく。
「くっ。ダメだ。こんな野菜じゃ勝てない……!」
「もっと良い調理器具があるはずだ!!」
ドロはけして妥協をゆるさない。
町にある良質な食材や調理器具を探すにはリスクが伴う。
ケイが行き渡った今、これ以上の徘徊は危険。
それをわかっていてもなお探し回った。
「捕まって未完成の料理を出すくらいなら、
いっそリスクを取って誰よりも美味しい料理にしてやる」
今大会はひとりドロが欠員している。
それだけでも奇跡。この機を逃す手はない。
簡単にできる料理でお茶を濁すことなく、
誰よりもリスクを取り手間かかる料理を作って優勝をかっさらう。
それが自分の罪をチャラにするための最適ルート。
「よし、揃ったぞ!!」
ケイの包囲網をくぐりぬけて、必要な食材と調理器具を集めきった。
ついに調理が始まるかと思いきや。
「いや、このまま調理しても本当に勝てるのか。
今回の大会にはドロに7つ星シェフもいたはず……」
まだ完成していないと調理はじめる手を止めた。
ドロの頭の中にあるアイデアが浮かぶ。
「もし……もしも、あれが手に入れば……。
この料理は完璧完全になり、間違いなく優勝できる……!」
それを手に入れるのは最も難易度が高かった。
料理が完成するか、未完成で終わるかの瀬戸際。
それでもドロは中途半端な料理を許さなかった。
「ここまで来たんだ。絶対に料理を完成させてやる!!」
ドロは一番ケイが手厚く配備されている町の中心へと向かった。
だが……。
「いたぞ!! ドロだ!!!」
序盤とは比べ物にならないほどの厳戒態勢。
そのうえ中途半端に作った料理を持っているドロ。
そんな匂いでもバレそうな状態で中心街に向かうのだから、
あっさりケイに見つかってしまいお縄となった。
「飛んで火にいるドロだな」
「もう少しで完成なんだ!!」
「はっはっは。ルールを知らないのか。
まあいい。貴様は制限時間まで地下に捕らえる」
「……」
「しっかし、すごくいい匂いだな。一体何を作ろうと?」
「これは完成じゃない」
「ああそうかい」
ひとりのケイは特攻しかけてきたドロをとらえ、地下へと向かう。
お腹がすくような芳醇な香りを立ちのぼらせながら。
「さあ、ここだ。大会終了までここに入ってもらおうか」
「いや、まだだ」
「え?」
「やっとここに来れた……! あんたに話がある」
捕まってもなお、ドロの目には料理人の火が消えていない。
「この地下にだけ原生している"チカダケ"。
それを取るためにお前に捕まったんだ」
「なんだと?」
「取ってきてくれよ。俺の代わりにケイのあんたが」
「ははは。何言ってるそんなの……やるわけないだろう?」
「そうかな? チカダケを入れればこの料理は完成する。
今の何倍にも美味しくなって」
「ごくり……!」
「そして料理に味見はつきものだ。
ケイのあんたは審査員じゃない。
料理を味わうことはできないだろうが……」
ドロは今にも完成しそうな料理をチラつかせる。
この地下に囚えられたのも作戦のうち。
ひんやりとし、空気の揺れ動きが少ない地下で料理は完成に近づく。
チカダケを入れれば更に美味しくなって……。
「どうだい? 食べたくないか?」
「ぐ、ぐううう……!!」
ドロを捕まえるために走り回ったケイはお腹ぺこぺこ。
そこにこんなに美味しい料理をチラつかせられたら。
「ち、チカダケを取れば……食べさせてくれるんだな!」
「もちろん」
「最初からコレが狙いかよ!!」
ケイはドロの言われるがままに最後の食材・チカダケを取った。
「いい子だ。さあ、チカダケを」
ドロはチカダケを受け取り料理に加えた。
それまでの料理がなんだったのかと思うほどに美味しさが増す。
完璧主義の料理人も手応えを感じた。
「完成だ!! 最強で最高の料理が!!
ふふふ。これで優勝間違いなしだ!!」
あまりに美味しそうな料理にケイも納得した。
「ああ、なんて美味しそうなんだ。
それを審査員に食べさせれば優勝だろうな」
「間違いない。ここまでやってきたかいがある。
さて、約束の試食だったな?」
「いや……それはもう良い」
ケイは腰の拳銃を抜いた。
ドロは目を点にした。
「な! 何をする気だ! 殺してまで食べることか!?」
「はは。いや、そうじゃない。優勝間違いなしなんだろ、その料理」
「当然だ! だからなんだっていうんだ!」
「それならよかった。どんな過去の罪も帳消しになるんだから」
ケイは迷いなくドロの眉間をぶち抜いた。
料理がこぼれないように寸前でキャッチ。
その完成された料理を手元に収めた。
「助かったよ。実は料理なんてしたことなくってさ」
着ていた制服を脱ぐと、最後のドロは料理を審査員に提出した。
その美味しすぎる料理は審査員をうならせ、
晴れて優勝による無罪放免を勝ち取った。
ケイドロ料理大会 ちびまるフォイ @firestorage
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