黄金の葉と真珠の実〜天界の帝〜

青樹春夜(あおきはるや:旧halhal-

黄金の葉と真珠の実

 ——あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 天の中心たるみかど——サードは天蓋から差し込む陽の光に自らの手を透かしながら、宙を睨んだ。


 彫像のような美しい身体を横たえたまま目を閉じれば、幾度となく繰り返し見る夢を思い出す。


 鮮明な夢で、目覚めた後の胸騒ぎが不快である。


 記憶の底にある何かが、警鐘を鳴らす。


 目の裏に焼き付いた光景が鍵を持つ気がしてその意味を探ろうとサードは眉をひそめた。


 ——われが見た夢は……黄金の葉の……。


 一度目は生い茂る黄金の葉を持つ樹の下で、一枚の葉が自分の手の中に落ちて来る夢だった。


 二度目に見た時、手の中に落ちた葉は二枚になった。


 三度目、四度目と見るたびに黄金の葉の枚数は増えて行く。


 黄金の葉は神々の占いで大きな意味を持つ。




 神々は人でいうところの七つになると、『幸行さちいきの儀式』をする。


 その年に七つになる子らが集められて祭司たる天帝の前に立つ。厚い織りの白と金の祭服に身を包み、同じ色合いの長い裾のマントとフードで顔と身体を覆う。手にした錫杖しゃくじょうは上部に黄金の葉と真珠の実で形作られた葡萄に似た植物で飾られている。


 天帝がこの錫杖を七つになる子どもの頭上で振るうと、錫杖から黄金の葉と真珠の実が落ちる。もちろん落ちても錫杖の葉と実は減らぬ。


 落ちた葉はその子の寿命を、落ちた実はその子が成す子の数を現している。


 子どもはそれらを生涯の御守りとして耳飾りや髪飾りなどにして身に付けるのが慣わしだ。


 ——黄金の葉の数は概算でしかない。


 サードは自らの儀式を思い出す。


 ——大抵は二、三枚。五枚で長寿。そして我は——。


 九枚。


 それはほぼ永劫の寿命を示す数だ。あくまでも占いであるが、事実、天帝・サードはこれまでの天帝の中でも最も永く生きている。


 姿形も若いまま、存命の神々の中でも彼より年嵩としかさの神は数名しかいない。それもすでに老齢の姿である。


 ——もしも我の他に九枚の葉を持つ者がいればそれは……。


 9回目の夢はそれを示すのではないだろうか。


 そしてしくも今日この日が、今年の『幸行きの儀式』の日であった。


 サードは白と金の祭服を獣人従者グリモールに支度させながら、心に決めていた。


 ——九枚の葉を持つ者が現れたなら、われと同じ時を過ごす資格があるということ。ならばその者はわれの『友』として迎えようではないか。


 天帝の言う『友』は普通一般の友人ではない。それは臣下として迎えようという意味である。それでも、誰よりも永く生きるが故の孤独を、天帝は持て余していたのでる。





 シャラン!


 鈴の音に似た音を立てて錫杖から黄金の葉が降り注ぐ。


 その子に与えられた葉は——九枚。


 しかして真珠の実は一粒も無い。


 騒然とする神々を尻目に、天帝・サードは従者が止めるのも聞かずにその子に近づいた。


 子どもは黄金の葉の意味を知ってか知らずか、嬉しそうに手のひらに金の葉を載せている。


 その子の親である神が慌てて走り寄った。


「帝、これはあくまでも占いでございますれば、必ずしもこの子の未来を指し示すものでは——」


「占ったのがわれであってもか?」


「は……」


 占いに意を唱えるとすれば、それは天帝の儀式をそしるものとなる。それでも親としてはこの子が子孫を残さぬ身であることを否定したかったに違いない。何故なら跡取りにも出来ぬし、政略結婚の駒にも出来ぬからである。


「安心せよ。咎めるつもりはない」


 天帝はその子を抱き上げた。


「そなた、名をなんという?」


「……カガリ。南家なんけのカガリだ」


「ほう。火を司る南家の息女だな。良い子じゃ」


「良い子か?」


「そうだ、良い子だ。カガリよ、われもそなたと同じく金の葉が九つであったぞ」


「なんと! みかどと同じか?」


「うむ。そなたは我と同じ景色を見るかもしれぬな」


 ひれ伏す親にカガリを渡すと天帝は悠然とその場を後にした。


 従者があとを追う。


 振り返りもせずにサードは儀式の場を去ったが、その心にはほの明るいともしびが灯った気がした。


 ——我と同じ時を生きるか、カガリよ。


『友』ではなく『伴侶』でも良いかと、天帝は思い直したのであった。




 黄金の葉と真珠の実〜天界の帝〜了

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