四、共生

 ——或る消失点にて。



 〈美大生〉は、〈総統〉になっている。


 かつての〈美大生〉の面影を残しながら、である。


 この消失点においては、身体的精神的健常者と、障害者とは、共生する。



「ほら、あそこの障害者兵士、いや〈彼ら〉を見てみてくれたまえ。なんと……美しい。人間が勝手に決め付ける、いや図らずも思い込んでしまうこの世の醜美しゅうびは、表裏一体だ。何事もそうだが……優劣はただ、見方によるというだけのものだ」



 〈総統〉の指差す先には、躁鬱病患者——〈彼ら〉のみで構成される部隊がある。


 〈彼ら〉は、被迫害でもなく、被保護でもなく、愛国と国防を選んでいる。〈彼ら〉自らそうしたいと、申し出ている。雇用側も、精神的な障害だからといって、不当に報酬を減じない。逆に、暴言も暴力も、与えることはない。〈彼ら〉は他の兵士たちと、同一労働同一賃金の原則のもとにある。鬱時の欠勤は、期末手当の減額によって報酬に反映させる。また躁時の高揚に乗じて武功を挙げるのなら、追加報酬インセンティブを与える。欠勤と武功を認めるための条件も当然、健常者と同じである。それに、くどいが、〈彼ら〉もそう望んでいる。

 


 醜美という不明瞭な線引きを、無理くり顕在化するせいで、差別を助長した。その顕在化が、〈彼ら〉にとっての親切や友愛や相互扶助になればいいが……


 もはや〈総統〉が得てしまったそれとは別な消失点においては、点の先は、優生思想という名の事象の地平面になっているのかもしれない。





     短歌的時航機タイム・タンカー


   画家志望

   パースが変だ 君の絵は

   非暴力が 君を導く


     詠み人〈新大統領〉


       〈了〉

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醜美キョーセイ讃歌 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura

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