KAC20255 ところがどっこい…夢じゃありません!これが現実です…
@wizard-T
最悪なピースオブワールド
「何なのよ!」
初春だってのに、ずいぶんと汗で濡れた布団から体を起こしながら叫ぶ。
世間の100万人の内99万9999人に取っての良夢も、私には悪夢だった。
時計を見ると六時。寝過ごした訳でもないからと辛うじて落ち着いてみるが、それでもそれなりにはあわてて着替える。
顔も念入りに洗う。
そして、コップの水を二回汲み、一回目は飲み干し、二回目は頭にかける。
少し頭がスッキリした。
そうよね、あれは夢よね。あんなキモい話なんかありえないんだから。
どいつもこいつも、私の事をキラキラした陽キャ女だって言う。
でもそれっていかにも対極である陰キャ連中の好きそうな物を好まないって意味じゃない。って言うか、全く漫画やアニメに触れずに過ごすなんて可能な訳?だから、私は知っている。一応、ヒーロー様とかのパターンって奴を。
カッコイイ姿をしたヒーロー(ヒロイン)が華麗なアクションで敵を倒す。
一対一と言う事はまずなく、一対多数か多数で力を合わせて強力な一体の敵を倒すか。だいたいがそんな感じ。
そして、現実にいない事も。憧れるだけならば勝手だが、やがてその世界が別世界である事を知って大人になって行く。
そのはずだった。それなのに。
あんな変なダンスで、いきなり戦場に現れ、攻撃を次々と掴み取って行く。
誰も彼も攻撃するための道具を失い、握り拳すら掴まれて投げ飛ばされる。
ミサイルも砲弾も、自爆テロ犯さえも。そしてその奇妙なダンスが通った後には、ペンペン草一本どころか花が咲き稲や小麦が実り出す。
こんな事が世界中で起きたもんだからあっという間に誰も戦争なんかする気がなくなり、世界平和が到来。
これからは小学校でもそのダンスを覚えようと言うニュースを見せられる。見たくもないのに、目に容赦なく入る。
…と、そこで目が覚めた。
こんな世界平和なら要らないとか言う贅沢を抜かす暇もなく、ようやくあの会社でいつも隅っこでよくわからない事を言いながらキーボード叩いているような男が天下無双の救世主様みたいな事になっているとか言う悪夢を忘れ、パンでも焼きながら朝を迎えるかとばかりにトースターを開け、コーヒーを入れる。そしてベーコンを取り出しフライパンを温め卵を割る。いつも通りのモーニングルーティンをこなしながら、テレビのスイッチを押す。
「さて今日のダンスレッスンです!
はい、ワンツー、ワンツー!」
—————すぐにチャンネルを変えた。
「ご覧ください、こちらが○○様が踊る前と、その後の光景です」
「南極の氷が、ダンスと共に復活しています」
「あれはもう神の踊りだよ」
「世界の救世主ダンス!イエーッ!」
「ゲームキャラたちも彼のダンスを踊っています」
テレビを止め、食事を流し込み、布団に入った。
そしてそのまま体調不良により欠勤する旨を伝え、また眠った。
それを5回繰り返した私は、時計の針が6時な事に気付いた。
なーんだ、やっぱり夢だったんだ。そう思ってテレビを点ける。
18:00
ただの、午後6時だった。
しかも、同じ日の。
そして、次に私が見たのは真っ青なマットだった。
10階から飛び降りた私の体を受け止めた、青いマット。
あのダンスに囲まれて召喚された、青いマット。
その後の事?
えっと……十日前のランチはシーフードカレーで、七日前の夕ご飯はコンビニ弁当とお茶で、えっと、えっと……。
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