単なる親馬鹿ではありますが

宝月 蓮

本編

 我が家には天下無双の三歳児がいる。

 私達の娘、沙由里さゆりである。


「ママー! さゆねー、今日も幼稚園でダンスしたんだよ!」


 幼稚園の年少組の沙由里。

 クリクリの目に柔らかい頬。耳の横で結われた髪。ピンク色のリボンの髪飾りは沙由里のお気に入りだそうだ。

 親の欲目かもしれないけれど、沙由里は世界一可愛いのではないかと思う。


 沙由里は早速幼稚園で習ったダンスを始める。

 腕をふりふり、腰をふりふり、動きが本当に可愛らしい。

 目に入れても痛くないのではないかと思えてくる。

 この可愛さ、天下無双。可愛いの前では全面降伏だ。

 時々怪獣になって困ることもあるけれど。


「ママー、曲も流してー!」


 沙由里はダンスの曲も要求して来た。

 私はスマートフォンの動画アプリを開き、沙由里が要求する曲を流す。


 様々なアーティストが動画アプリに曲を投稿してくれるお陰で、簡単に音楽が流せるようになった。

 便利な時代になったなと感じる。


 曲が流れ始めたことで、心なしか沙由里のダンスにキレが見られるようになった気がする。

 親の欲目かもしれないけれど、私の娘、もしかしてダンスの才能があるのではないかと思ってしまう。


「ママ、もう一回曲流して!」


 曲が終わると、沙由里はリピートを所望した。

 子供は一つのことに夢中になって、中々飽きない。

 一つのことをこんなにも楽しめるなんて、大人としてはある意味羨ましいかもしれない。

 今日は何回ダンスをするのだろうか?

 そんなことを考えていたら、沙由里は踊り疲れたらしく、床に座り込んだ。


「沙由里、たくさんダンスしたね」


 私が沙由里の頭を撫でると、沙由里は「うん!」と頷いた。

 返事だけは元気である。

 もしかして、元気の良さも天下無双?


 私は沙由里が大人しくなったところを見計らい、夕食の準備を始めた。

 食材を切りながら、時々リビングにいる沙由里に目を向ける。

 すると沙由里は寝息を立てていた。

 ダンスで疲れたらしい。


 私は夕食の準備を一時中断し、沙由里の布団を敷く。そして眠っている沙由里を布団まで運ぶ。

 この前まで赤ちゃんだと思っていたけれど、かなり大きくなったなと実感した。

 もうそろそろ沙由里を抱っこするのは難しくなるかもしれない。

 そう思うと、何だか名残惜しく思えて来る。

 子供の成長は早いものだと言われるけれど、親になってそれを実感していた。


「沙由里、晩ごはんまでゆっくり寝てて良いよ」


 私は沙由里の頭をそっと撫でる。

 沙由里は微笑んだような気がした。

 やっぱり沙由里の可愛さは天下無双だ。

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単なる親馬鹿ではありますが 宝月 蓮 @ren-lotus

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