アイドルで幼馴染の彼女をNTRれる夢ばかり見ている件
小絲 さなこ
※
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
正しくは覚えているだけで9回。つまり、覚えていないだけでおそらくはもっと見ている。
初めてあの夢を見たときは、過呼吸のように息が出来なくなっていた。
それが今では────
ピロロン。
通信端末にメッセージが届く。
スタンプひとつだけでもいいから、必ず毎日連絡する────遠距離恋愛が決まったときに交わした約束。
『おはよう』
「おはよう」
返信すると、寝巻き姿の彼女の自撮り画像が送られてきた。
「あざとい……」
俺が喜ぶと思ってやっているんだろうな。
さすがアイドルの
アイドルの恋愛は御法度。
つまり、俺と彼女が付き合っていることは、誰にも知られてはいけない秘密だ。
うららは、自分が出演するテレビや広告などを俺に見られるのが恥ずかしい、と言う。
俺のほうも、アイドルとして不特定多数の人間に笑顔を振り撒いている彼女を見たら嫉妬してしまいそうなので、極力避けていた。
だが、自然と情報が入ってきてしまうのは仕方がない。
遠距離恋愛であまり会えないこともあり、寂しさを抱えた俺は、うららに内緒で彼女の出演する番組などをチェックするようになっていた。
あの夢を見るようになったのも、元を辿れば俺が寂しさに耐えられなかったのが原因だ。
────1年半前。
鵜飼うららは、全国的に見たら微妙な売れ方をしているアイドルだ。
だが、たまにローカル局の番組に出演したり、全国ネットの番組で故郷をPRするなどしていることもあり、地元では「この町出身の有名人」という扱いになっている。
それもあって、鵜飼うらら映画初主演のニュースは、地元ローカルの情報番組が特集を組むほどの大ニュースになっていた。
「鵜飼うららの映画、『トリの降臨』かよ。あの問題作を映画化するとか正気か」
職場の休憩室で、同期の
「何の話だ」
「鵜飼うららが初主演する映画の原作がヤバいんだよ」
「原作?」
「web小説が原作なんだけどさ。まぁ、ざっくり言うと、SFでNTRものなんだ」
「なるほどわからん」
百瀬の説明によると、他人のモノを奪い取ってしまう奇病──通称トリ病──が世界的に大流行する話だという。
主人公は若い医師。彼の婚約者が主人公の親友に寝取られる場面から物語が始まる。絶望するも、トリ病を撲滅するための研究に没頭する主人公だが、トリ病は変異し続け感染が拡大していく。やがて研究機関がトリ病の発生源を突き止めるが、それは宇宙人による地球侵略の始まりに過ぎなかった────
「────っていう、中二病患者にはたまらない話。設定自体はweb小説にありがちな話なんだけど、周囲の人間が次々感染して性格が豹変していって、主人公は追い詰められていくんだけど……その描写がなんつーか、上手く言えねぇけど、作者絶対ドSだと思ったね」
「へぇ……」
百瀬、お前さてはweb連載中からリアルタイムで読んでいるな。やたら詳しいぞ。
「その、主人公の婚約者役を鵜飼うららが演じるんだってさ」
「そうなんだ」
「ファンの間で大荒れするだろうなー」
俺は精一杯無関心を装った。
うららが寝取られる女役を演じるとは。俺は耐えられるだろうか。
この時はそう思っていたのだが────
公開された映画は賛否両論で、ファンの間では荒れたようだが、その一方で彼女の俳優としての才能は高く評価された。これを期に彼女はアイドルから俳優の道へと進むことになるだろう。
そして、俺はこの映画がきっかけとなり、新たな性癖に目覚めてしまったのだった。
自分の彼女が寝取られるなんて、現実では許せないことだ。だが、フィクションなら許せる。そのことに気付いてしまった。
どうしようもない背徳感で得られる快感。
俺が絶対しないことをする男。物心つく前からの付き合いである俺ですら見たことのない表情をするうらら。寝取り役の男に自分を投影することがやめられない。
寝取られるのは耐えられないくせに。
うららには知られてはいけない秘密を持ってしまった。自分の彼女が寝取られるシーンで興奮している彼氏なんて、控えめに言っても変態だと思われるに違いない。
だが、彼女にもきっと俺には言えない秘密がある。そう思うと、それはそれで胸の奥が疼く。
これもまた、背徳感で得られる快感なのかもしれない。
アイドルで幼馴染の彼女をNTRれる夢ばかり見ている件 小絲 さなこ @sanako
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます