ヤクザ受験

ちびまるフォイ

ヤクザたる立ち振舞い

生まれた時点で家庭は崩壊していた。

父親の顔なんて見たことがない。


学校にも馴染めず、ムカつく先公をぶん殴って退学。

バイトも客とトラブルで長続きしない。


腕っぷしだけは誰にも負けなかった。


そう。そして俺は気付いた。


「これはヤクザの才能なんじゃないか!?」


生まれた境遇も。

持ち前のスペックも。

一般社会に馴染めないという部分も。


まさにヤクザになるために生まれたようなものじゃないか。


これはある種の才能。

さっそく指定暴力団「黒竜組」の門を叩いた。


「誰だ?」


「押忍!! ここでヤクザさせてください!! 押忍!!」


「……入りな」


純和風の門を通されると、長テーブルが寺子屋のごとく並べられている。


「兄貴と呼んでもいいですか?」


「何言ってやがる。お前はまだ組員じゃねぇ」


「どうしてですか? すでに背中には黒竜組と入れ墨してきたのに!」


「いいから座れ」


長テーブルの端っこに座らされる。

ふすまが空いて悪そうな人たちがぞろぞろと用意された座布団に着席。

全員が揃うと、ヤクザは声をはった。



「では、ヤクザ・センター試験をはじめる!!!」



「ええええ!?」


テーブルには問題用紙と解答用紙。

そして鉛筆が配られる。

鉛筆なんて人を刺すためにしか使ったことがない。


「いや、大丈夫。俺はヤクザのサラブレット。

 略してヤクルト。無勉でも高得点が取れるはずだ!!」


問題用紙を勢いよく開いた。



【問1】

 次の図は指定暴力団「黒竜組」の上下関係を示したものである。

 空欄を選択肢から埋めよ。


【問2】

 次の文章はシノギについて述べた文章である。

 誤っているシノギをひとつ選び回答せよ。


【問3】

 指定暴力団「ホワイト・ドラゴン」との抗争が起きかけたとき、

 直接的な抗争を避けつつもメンツを保つ方法を100文字以内で回答。

 なお、次の語句を使うものとする。

 [抗争、ボス、盃]


【問4】

【問5】 ...



鉛筆の先はまるで紙をすべらない。


「まっっったくわからん!!!!」


心配になって答案用紙から顔をあげる。

自分以外も同じようで、鉛筆が動く音がまるでしない。


「もう適当に埋めるしか無い!!」


自分のなけなしのヤクザ知識で解答欄を埋めて提出。

後日、組の前に呼び出されると合格者が呼ばれた。


「受験番号92番 山田。

 以上、合格者10名。それ以外は落選」


「うそん!!」


もちろん自分は落選した。


「ちょっとまってくださいよ!

 なんで俺が落選するんですか!!」


「貴様は受験番号100番だな。

 お前、自分のヤクザ試験の成績知らないのか」


「自己採点できるほど賢くないんです!」


「お前じゃヤクザは向かない。おとなしくカタギになるんだな」


「こんな社会不適合者がカタギで生活できるわけないんですよ!」


「んなこと知るか」


「くそぅ……見てろ!

 俺をここでヤクザとして採用しなかったこと。

 後悔させてやるからなーー!!!」


ヤクザとしての素養である反骨精神が爆発。


一度、落選させた自分が今度は合格したらどうなるか。

メンツを気にするヤクザにとってこれほどの屈辱はない。


絶対に受かってやる。

そして落としたヤクザに恥をかかせてやる。


こんなにもヤクザに向いている自分なんだから。


「うおおお!! やってやるぞーー!!」


それからはヤクザの勉強を続けた。


暴力団のなりたちから構成員をも把握。

シノギのやり方も実地調査でしっかり勉強。

自分で予想問題を作っては何度も復讐。

ヤクザ予備校にも通って完璧を追い求めた。


そして翌年のヤクザ試験受験日。


「ふふふ。完璧だ……。去年までの俺と思うなよ」


ふたたび黒竜組を訪れてのヤクザ試験が開始。

受験者も試験官も去年とは別の人。誰も自分を覚えちゃいないだろう。


「さあ、大型新人の誕生だ!!」


試験が始まる。


例年通り、他のヤクザ受験者は鉛筆が進まない。

転がす音こそ聞こえるが、書く音は聞こえない。


しまいには逆ギレして鉛筆で兄弟分に遅いかかり、

返り討ちにあって別室まで連行される受験者も。


「ははははは! わかる! わかるぞぉぉ!!!」


もう問題を見ただけで解答が浮き出す錯覚すら覚える。

これまで寝ずに努力した結果が解答用紙に刻まれる。


試験時間60分のうち、30分ですべての解答欄を埋め終わった。

残り時間を何度も見直しし、名前の記載忘れの凡ミスを塞ぐ。


何度心の自己採点を繰り返しても100点間違いなしだった。


ヤクザ試験で満点を取る人間はこれまでいなかっただろう。

組に入るなり、いきなり大きなシマを任されるかも。


脳内に広がる華々しいヤクザ人生を思いがいていた。


「試験終了! 合否は1ヶ月後に組の前で発表する!!」


受験者は散り散りに解散した。

1ヶ月後にふたたび組の前に集合する。


「ではヤクザ試験の合否を発表する。

 番号を呼ばれたものは前へ出ろ!!」


次々に番号が呼ばれる。

自分の番号は100番。急ぐことはない。


そしてついにその時がきた。



「受験番号99番 鈴木!!


 合格者は以上!!」




「……ん?」


落選した人たちがぞろぞろと帰るなか。

自分だけはその場に留まって現実を受け入れられなかった。


「なんだお前。いつまで残ってる」


「いやいやいや。聞き間違いですか?

 100番は? 俺は? 合格でしょう?」


「お前は落選だ」


「はああ!? おかしいでしょう!? これ見てくださいよ!!」


「それは?」


「自己採点の結果です!! 満点です!!

 少なくとも実際の試験は満点に近い得点だったはず!!

 どうして合格してないんですか! 不正ですか!!」


「ああ……確かに。お前は満点だったよ。

 うちの組が始まって以来の高得点だ」


「だったら合格でしょうが!!

 なんで満点の俺が落ちて、逆ギレした鈴木が合格なんですか!」


その言葉に、ヤクザ試験官は悲しい顔で答えた。



「いや、真面目に勉強して満点取ろうとするやつは

 ぶっちゃけヤクザ向いてないよ……」



いかに低い得点で試験官に食ってかかる精神があるか。

ヤクザ試験ではそれを確かめていることを明かされた。

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