アトラの行進

@kenchangmin

第1話 平和の都

 会緑50年、平和の都・アトラは梅雨入りしていた。都の者たちは雨に濡れるのを嫌って外出はせず家の中に籠るため、毎年のようにこの時期の都は人気のない風景が日常であった。

 そんな中、1人の少年の声が響き渡る。

 「カブラル先生!」

 声変わりしきっていない声が出しながら、傘もささずに敷地内へと駆け込んでいく。

 「遅いよ、ソロモン」

 屋根の下で一人の少女が出迎える。そしてその後ろに70か80歳といったところの老人も出迎える。

 「おはようソロモン、いらっしゃい」

 「おはようございます」

 老人の優しい声に少年は元気よく答え、さっそく中へ入るとすでに3人の少年が床に横たわっていた。

 マーチ・ウォーラル、グレン・ジョン、クロウ・マラガ。

 この3人は生まれた地域が同じで家もご近所さんの幼馴染である。

 ソロモン・ローグは5年まえにこの都へとやってきた、いわば移住者である。

 そしてソロモンを出迎えていたこのメンバーで唯一の女の子、ユーリ・ナラ。

彼らは皆同い年の15歳で、週末はここ、カブラル塾へ集まり勉強、または遊んでいるのである。

 そんな彼らの先生となるのがマリク・カブラルである。塾とはいえ、お金を集めたりはしておらず、現代でいう児童公民館のような場所である。

 今年78歳となるカブラルとしては少年たちに場所を提供しているが、彼らの元気な姿を見て楽しんでいるため、大歓迎なのである。

 ここアトラでは都を自称しているが、領土は1つの国と同じくらいの広さである。そして国と名乗らずに都としているのは、絶対的な平和主義であるからだ。

「決して他国へは侵略しない。」

「備える軍事力は都を確実に守るため。」

「他国が侵略してきても追い返すだけで必要以上の反撃はせず、追撃はしない。」

 など、いくつかの決まりがある。

 平和の都・アトラが創立されてから50年にわたり一度も破られることなく今日を迎えている。

 そんな平和の都は多くの移住者を受け入れてきた。ソロモンは10歳までをヒノナミ村で育ってきた。アトラから南西方向へ進んだところに位置しており、堅、団、基という3つの国の国境にあたるため、すぐ近くで戦争が起きている地域なのである。 

 戦争が起きるたびに避難するという生活に不安が募り、嫌気がさしたためにローグ一家はアトラへの移住を決めたのである。

 そんなローグ一家のように平和と安全を求めて各地からこの都へとやってくるのである。

 各地から移住者が出るほどに、今は戦乱の世であり、戦争が起きている。

 各地に軍事力を持った国が10存在している。まさに群雄割拠の戦国時代なのである。

そんなこの時代は、53年前の出来事をきっかけに訪れた。

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