藤崎くんの9回目のお説教
天雪桃菜花(あまゆきもなか)
なんで君がそんなに怒ってるの?
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
仕方ないでしょ、好きになっちゃったんだもの。
えっと〜、なんで君がそんなに怒ってるの?
◇◆◇
「これで9回目なんですけど?」
「えっ? どうゆうこと? っていうかなんで藤崎くんがそんなに怒っているの?」
仕事帰りに同僚に誘われた居酒屋で、私は同じ営業課チームで後輩の
一緒にいた仲間たちはとっくのとうに帰ってしまい、私はお酒を飲んでいないシラフの藤崎くんに問い詰められている。
「言いましたよね? 佐藤さんとは付き合うのはよした方が良いですよって」
「えっ? まだ付き合ってないけど。藤崎くんはどうして私が佐藤くんに告白されたの知ってるの?」
「小林先輩が佐藤さんと付き合って裏切られての繰り返しをすることになるんです。俺、相談を受けるのが次が9回目になるんですよ?」
「いっ、意味がわかんない! 何言ってるの? 藤崎くんはお酒一滴も飲んでないよね? 私がけっこう酔ってるって思って、もしかしてからかってるとか」
「からかっていません。至って真面目です。あのまさか、佐藤さんと……もう付き合おうって決めているんですか?」
「うん、まあ。……だってずっと好きだったし。向こうもずっと好きだって言ってくれたんだよ。明日は佐藤くんとドライブデートするんだ」
「まったく……。前回より決断もデートも早くありませんか」
私、
同僚の名前は
佐藤くんはイケメンだしスタイルもかっこいいし、何より彼は親切で困っている人に無条件に手を差し伸べる優しい人なのだ。私のことも何度も助けてくれた。
「なっ! なんで藤崎くんにそんなこと言われないといけないのよ」
「小林先輩は俺に相談する前に今回は付き合い始めちゃおって意気込んでたってわけですね」
佐藤くんは普段はシゴデキで仕事中は厳しい雰囲気の彼なのにお酒が入るとちょっと甘えん坊で距離が近くなる。
もしかして私以外の女の人にもそうやって甘えてしまうのではとかなり不安で仕方がなかった。
佐藤くんの厳しさと優しさのギャップにキュンッとしちゃうし、甘えてくる時の表情がめっちゃ可愛い。
「俺、なんでか世界をループしてんですよね。小林先輩が不幸になると時間が戻るんです。進むはずの時が逆行してしまい、小林先輩が佐藤さんと付き合う前に戻って来るんです」
ちょっと、ちょっと。
なにこれ?
「小林先輩は、佐藤さんに告白されて晴れてお互いがずっと両片思いだったことが判明する。だけど、酒癖女癖の悪そうな一面を見て将来に一抹の不安を感じた。片思いしてた佐藤さんに付き合いたいと言われ舞い上がって浮足立ったけど、長年の経験上、女の勘が働いたんでしょうね。ちょっと迷った小林先輩は恋愛の達人と言われるモテ男の後輩の俺に相談することにしたんです」
「ねえ、長年の経験上って。私、男性のお付き合い経歴とか藤崎くんに話したっけ?」
「ええ、小林先輩は全部俺に話しましたよ。号泣しながら何度も聞かされるこっちの身にもなってくださいよ。……それに俺は正直なところですね、恋愛の達人ではありません。まあ、モテるっちゃモテますけど」
「ププッ、モテるのは否定しないんだ」
「俺に勝手に理想を押し付けて寄って来る女性は多いですよ。一応副業はモデルなんで」
「あっ、そうだったね。藤崎くんってけっこう謎だ」
「……俺からしたら小林先輩の方が謎ですよ。美人だし性格もサバサバして素敵じゃないですか。なのにどうして、そんなに失恋経験多いんです? ああ、そっか。小林先輩は男を見る目ないですよね、皆無だ」
「なっ……! それってひどい言い草じゃない?」
「先輩、自分で言ったんですよ? 包み隠さず俺に。たしか初恋が小学生で相手は――」
それから藤崎くんは私の恋愛遍歴を話し始めた。
「ふ、藤崎くん! もう
私の歴代の彼氏の名前、付き合ったきっかけやすきだったとこ、別れた原因など、藤崎くんがペラペラと披露してくれる。
会社の人には言っていない、学生時代の彼氏の話までし始めた。
私はものすっごぉく恥ずかしくなって、藤崎くんのおしゃべりを止めるべく、彼の口に素早く小さめな唐揚げを一つ箸で掴み放り込んだ。
「待って、待って。もう良いよ。……分かったから」
「佐藤さんは
「――えっ? 『俺のため?』?なんで……、それってどういうこと……」
そこでちょこっと沈黙があって、顔が真っ赤になった藤崎くんが慌てて、手に持っていた烏龍茶を自分の太ももにこぼした。
「ちょっと大丈夫? ほら、ハンカチで拭いて」
「だ、大丈夫です。あの、その、俺のためってのは時間をループしてしまうのを止めて欲しいだけですっ」
私が濡れた箇所を拭いてあげると、藤崎くんが顔を熟した林檎みたいにますます真っ赤にする。
たしかに恋愛の達人ではなさそう。
藤崎くんの慌てっぷりが、なんだかおかしくって。
私はつい笑ってしまった。
「明日は佐藤先輩とのデートはやめて、俺と出掛けませんか?」
「ふぇっ? そ、そそそ、それって。――私と藤崎くんがデートするってことっ!?」
「まあ、……デートです、ね。はい、デートってことで良いです」
「えっと〜、私が好きなのは佐藤くんなんだけど」
「知ってます。佐藤さんは小林先輩、あなたに本当に相応しいんですか? 一度くらい他の男に目を向けてみてからでも遅くないですよ? 自分で言うのもあれですが、俺ってかなり優良物件だと思いますから。俺はあなたしか見ません」
「藤崎くん……」
「泥酔するまでお酒を飲んで甘えてくるって、そんな男信用できますか? よぉく、自分の胸に問いかけてみて」
見つめてくる、藤崎くん。ちょこっと怒った顔だ。
藤崎くんは私のことを心配してくれてる。
真っ直ぐにこちらに向けられる彼の瞳が熱くて真剣で、ドキッとした。
「小林先輩はもっと自分を大事にしてください。あなたを大切に思う男を選ぶべきです」
不覚にも、私は彼の言葉に胸の奥がジーンとしてしまった。
「じゃあ、佐藤くんとのデートの予行練習ってことなら……」
「ああ。それで良いですよ」
藤崎くんとデートの約束をしてしまいました。
◇◆◇
目覚めると、私は夢を見ていたことを思い出す。
また同じような夢が9回も続いた。
居酒屋で、私は自分を大事にしろと藤崎くんに説教をされる。
だけど、今回は佐藤くんとドライブデートには行かずに、なぜか藤崎くんとデートするって約束したんだっけ。
藤崎くんは、もういないのに。
完
藤崎くんの9回目のお説教 天雪桃菜花(あまゆきもなか) @MOMOMOCHIHARE
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