コント「こんなタクシーは嫌だ」

薮坂

コント「タクシー運転手のホラー話」


「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」


「……いやあの、タクシーに乗り込んで運転手の第一声がそれだと心底ビビるんですけど。なにこのタクシー? え、女性の運転手さん?」


「あぁこれはこれはお客様、申し訳ありません! 私、思ったことがクチに出ちゃうタイプでして。ええとお客様、どちらまでですか?」


「とりあえず神戸方面までお願いできます?」


「かしこまりました、まもなく出発いたします。安全バーをしっかり下ろし、手や足を外にお出しにならないようご注意ください。ドラゴンに食べられたくなければね!」


「なにそのテーマパークのアトラクションのアナウンスみたいなヤツ! 絶対絶叫マシンじゃん! 安全運転してよ安全運転!」


「トゥルルルルルル」


「あーわかったわB級遊園地のジェットコースターの発車音だな! いやマジそういうのいいから! ちゃんと運転して?」


「ダァシェリイェス」


「ドア閉まります、な! 電車のベテラン車掌さんの言い方だよそれ! クッソ、変なタクシー乗っちまったよ!」


「……本日も、辺名へんな交通をご利用いただき誠にありがとうございます。運転手はわたくし鈴木、客室担当のチーフパーサーは高橋、お客様は田中です」


「高橋って誰だよそれここにいねぇだろ! あとなんで俺が田中って知ってんの怖! あとせめて敬称つけてほしいな!」


「ところでお客様、なんだかお疲れのようですね? お仕事大変なんですか?」


「いや今はあんたに疲れてんだけどね! まぁ、それなりに忙しくさせてもらってるよ。とりあえずさ、クルマ出してくんない? あと到着予定時刻はどれくらい?」


「Hey! Sirixaシリクサ! 到着予定時刻を教えて!」


「待て待て待てなんつー名前のAIに聞いてんだよ! なんか混ざってるし混ざり方が汚いし!」


「Hey! Ketsuxaケツクサ! の方がいいですか?」


「余計悪くなってるな! いやいやナビ入れたら普通に出るだろ?」


「実はその……、すみません。私この仕事、まだ歴が浅くて」


「あぁ、新人さんなのか。まぁ誰にでも初めてはあるしな。ちなみにタクシー運転手を始めて何日なのよ」


「二日、酔いですね」


「酔うなよ! 一番酔っちゃダメな職種だよ! 答えるのは普通に『二日』でいいだろ!」


「お酒じゃないですよ? 酔っているのはオノ・レノンにです」


「誰だよそれェ! 言うならオノレだよオノレ! オノ・レノンてほんと誰? オノ・ヨーコならわかるけどオノ・レノンて苗字×苗字になってるよな⁉︎ 今までで一番ツッコミづらいわ、あんた!」


「ふふふ、冗談です。少しでもお客様に、この車内でのドキドキ感を楽しんで頂きたくて。このドキドキが、私を好きになるキッカケになったり、とか……?」


「なるワケねぇだろ! 頭おかしいのか⁉︎ 頼むから真面目に運転してくれ、マジで事故とか大丈夫なんだよな⁉︎」


「それはもう、100人乗せても大丈夫でした!」


「それイナバ物置かなぁ! あー、なんかもうどっと疲れたわ。なぁ、到着まで寝てていい?」


「もちろん大丈夫ですよ! 私も少し寝ておきますので!」


「いや寝るな! お前は真面目に運転しろォ!」


「じゃあ目を閉じて黙っておきますね!」


「それを寝てるっつーんだよ! 頼むよマジで、無事に到着させてくんない?」


「わかりました。それじゃあ、癒しのヒーリングミュージックでも流します? あ、すいません。ナガシマスパーランド?」


「……ナガシマスでいいだろが! パーランドいらねぇしマジこれわかり辛ぇんだよ! 珍しくツッコミにラグ入ったわチクショウ!」


「じゃあ流しますね。ミュージック、スタート! ジャンボーリクッキー! ジャンボーリクッキー!」


「お前が歌うのかよ! それにそれ全然ヒーリングミュージックじゃねぇよ!」


「思わず体が躍っちゃいますよね! ジャンボーリ ジャンボーリ ジャンボーリ ドゥンドゥン!」


「危ねぇからお前は踊るなハンドルから手ぇ離すな! あとなんでちょいちょいテーマパーク系挟んでくるワケ⁉︎」


「あの……、誰にも言わないでくださいね? 実は私、前職がクッキーマウスでして」


「なんだよそのニセモノはァ! 一回本家に怒られろ! どんなキャラクタなんだよそいつはよォ!」


「またまたご冗談を。かの有名な世界的キャラですよ?」


「俺とあんたの住んでる世界、ほんとに一緒かな? マジで不安になるほど知らないんだが!」


「クッキーマウス、本当に知らないんですか? ほら、毎日クッキー食べてるから凄くクチが乾いてるあのキャラですよ?」


「あーそっちのマウスね! 確かに安いクッキー食べるとパサつくよね! って聞いたことねぇわ!」


「と言うことは従兄弟イトコのハグッキーマウスもご存知ない? 一部ではカルト的人気の、ですよ?」


「どっちも存じ上げねぇよ! 従兄弟の方は歯科医院のキャラクタみてぇだな気持ち悪い! とにかく音楽はもういいから!」


「それじゃあ落ち着くアロマなんてどうです? よく眠れる香りがありますけど」


「……あん? そんなのあるの? まぁ、じゃあそれお願いしようかな」


「お任せください! ヘ! Sirixaシリクサ!」


「それ絶対臭いヤツじゃねーか! 屁! って聞こえたしやっぱ尻臭シリクサにしか聞こえねぇよ! これで眠くなったら臭さで気絶だよ気絶!」


「そんな臭いの出すワケないじゃあないですか。香りも好きに選べるんですよ?」


「選べる? なにがあんのよ」


「本日のラインナップは、フレッシュタメィゴゥの香り、スイートヤキーモの香り、フローラルイオーの香りの3本です!」


「サザエさんの次回予告みたいに言うな! タマゴ、焼き芋、硫黄ってそれ全部屁の臭いじゃねーか! もう歌も香りもいらねーし、俺もう寝るからな!」


「待ってください! 歌とアロマ以外ですと、インストゥルメンタルなんてどうですか? ほら、歌のない音楽でBGMとかによく聴くヤツです。音量も小さめにしますし、どうですか?」


「……まぁ、それくらいならいいけど」


「じゃあ流しますね。テレテテーテーテ テーレーレーレー、テレテテーテーテ テーレーレーレー」


「おー、まぁ聴ける感じかなぁ」


「デレデレデッ、デレレレレッ、デレデレデッデー デレレレレー」


「いやコレ世にも奇妙なアレじゃねーか! ホラーかよ入りで騙されたわ! 確かにインストゥルメンタルだけど全ッ然落ちつかねぇよ!」


「コレ聞くと思い出すんですよね……、クッキーマウスの中身をやってた頃を」


「ホラーキャラなの⁉︎ まぁホラーだよなフォルム詳しく知らねーけど! あとさ、中身っつーのもやめてくんない? なんか怖ぇし!」


「じゃあちょうどいいので眠くなるようなホラー話をしましょうか?」


「何がちょうどいいのかわからねーよ! ホラー話って何よ、逆に気になるわ」


「……お客様がこのタクシーに乗り込んだ時にも言ってたんですけどね。実は9回、同じ夢を見てるんですよ。私、今それに悩まされてまして」


「え? どう言う意味? 同じ夢を9回も見てるってこと?」


「はい。その夢がなんと言うか悪夢で。夢の内容はうろ覚えなんですけど、とにかく悪夢なのは間違いなくて。それに、いっつも同じところで目が覚めるんですよ……」


「それ怖いな。どんなシチュエーションで目が覚めるのよ」


「……いつもカーブ直前なんですよね」


「それ居眠り運転だわ! 9回ってよく事故ってねーな! もうお前免許返納しろ‼︎」





【終】



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コント「こんなタクシーは嫌だ」 薮坂 @yabusaka

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