N博士のタイムマシン

ロックホッパー

 

N博士のタイムマシン

                          -修.


 「N博士、研究は進んでいますか。」

 投資家のエージェントはN博士の新しいラボを訪れていた。N博士は重力制御の権威であり、そして千年に一度の天才と言われている。そして最近、遂に重力制御を完成させたため、投資家に大きなリターンを与えることができた。その結果、投資家達は更なるリターンを期待して、新しいラボと潤沢な研究費を与えていた。


 「うむ、最近は研究費に余裕があるので家政婦を雇い、より規則正しい日常生活を送れるようになった。これで次々と新しいインスピレーションが湧いておる。」

 「それは良かったですね。重力制御は一応の完成したと思うのですが、今は何を研究テーマにされているのですか。」

 「ああ、家政婦のおかげで、朝、妻を起こす必要がなくなってな、『目覚めし時計』、もとい目覚まし時計が不要になったのだ。折角作ったのに捨てるのは忍びないので、何か活用できないかと思い立ってタイムマシンを研究しておる。」

 「えっ、今、タイムマシンって言いました?」


 いくらN博士が天才とは言え、目覚まし時計がタイムマシンに改造できるのだろうかとエージェントは耳を疑った。

 「左様、タイムマシンだ。もう一つ理由がある。今まで、わしは数々の失敗をしてきた。ま、発明には失敗が付きものだが、君にも投資家にも大変迷惑を掛けたので、過去に戻って自分にアドバイスできればと思ったのだ。」

 「凄い研究テーマですね。」

 「そうだろ。しかしな、研究の結果、残念ながら過去には戻れないという結論に達した。」

 「どういうことですか。」

 「うむ、君はタイムパラドックスというのを知っているかね?」

 「はい、過去に戻って自分の親を殺すとどうなるかってやつですよね。」

 「左様。まあ、話を単純にするために1時間戻って自分を殺そうとすると仮定しよう。ここでパラドックスにならないためには2つの考え方がある。1つは時間軸不変の原理、もう1つは並行時間軸の原理だ。」

 「なんか難しそうですね。」


 「いやいや、簡単なことだ。まず、時間軸不変の原理でいえば、1時間戻っていくら自分を殺そうとしても、どうしても殺すことができないということだ。今、自分が生きているのだから、たとえ1時間戻れたとしても殺すことができなかったという事実は確定しているということだな。これをわしの失敗回避に当てはめると、タイムマシンで過去に戻れたとしても、失敗という事実が確定している以上、それは回避できないということになる。」

 「なるほど、過去は変えられないということですね。」


 「いかにも。では並行時間軸の原理ではどうなるかというと、時間軸Aにいる自分Xが1時間過去に戻ったとすると、その時間軸はAではなく、Bになってしまっていて時間軸Bの自分Yを殺すことが可能ということになる。これもパラドックスは起こらない。しかし、これをわしの失敗回避に当てはめると、確かに時間軸Bの失敗は回避できるかもしれんが、時間軸Aの失敗は失敗のままなので、あまり面白くないということになる。」

 「はぁー、要は時間軸Aの失敗は回避できないということですね。」


 「そうだ。つまりは過去に戻っても失敗は回避できないということだ。非常に残念だ。だが、であるなら、未来へは行く分にはタイムパラッドクスは関係ないと思い直し、目覚まし時計を未来に行けるタイムマシンに改造してみた。」

 「えっ、もうできているのですか?」

 「あー、改造は完了し、実験もやってみた。」

 「うまくいったんですか?」

 エージェントはあまりの展開の速さについていくのがやっとだった。

 「もちろん、実験してみた。1時間未来に行くようにセットして起動したところ、目覚まし時計は予定通り目の前から消えたが、1時間後に戻ってくることはなかった。」

 「いったい、どうなったんですか?」


 「うむ、それを確かめるために、強力な発信機を積み込んだ2号試作機を作成し、再度実験してみた。その結果、1時間プラス約3秒後に信号が宇宙空間から返ってきた。この原因は、1時間の間の地球の公転によって11万km、太陽系の公転によって80万km座標がずれてしまっているためだった。」

 「それって、座標がずれて宇宙空間に出たけど、タイムマシンとしては成功したってことですか。」

 「うむ、そうだとは思うのだが、2号試作機ははるか彼方にあるので回収しようがないからな。そこで、セットした時間に、スタートした場所に現れるように改造した3号試作機も作って実験してみた。」

 「3号機まであったんですね。どうなりました。」


 「うむ、ちゃんと1時間後にその場に出てきた。」

 「すごいじゃないですか。大成功ですね。」

 「まぁ、成功と言えば成功なのだが、1つ気になることがあってな。実はタイムトラベルに掛かる時間、すなわちタイムマシンの中の時間も計測していたんだが、1時間未来に飛ぶためには1時間を要することが分かったんだ。」

 「んっ?」

 エージェントはN博士の言ったことがにわかに理解できなかった。

 「つまり、タイムマシンを使って1時間未来に行くためには、1時間掛かるということだ。」

 「んんっ・・・、もしや、あまり意味がないような・・・」

 「ご名答。タイムマシンで1時間未来に行くのも、ぼーっとして1時間経つのも同じだということになる。」

 エージェントはN博士に悟られないように、そっとため息をついた。


 「これでは面白くないので、何か手がないか研究していたのだが、どうもこの1時間を縮める手段がないようでな。だが、逆に1時間を2時間に増やすことはできそうなのだ。」

 「ということは、1時間先の未来に行くのに、2時間掛かるということですか。」

 「そのとおりだ。しかし、使い道が思いつかなくてな・・・」

 エージェントは少し考えこんだのちに言い放った。

 「それは全く使い道がないですね。過去に行くか、タイムトラベルに掛かる時間を短縮する研究をされた方が絶対にいいと思いますよ。」

 「そうじゃなー」


 N博士は、付き合いの長いエージェントの言葉を素直に受け止めたようだった。しかしその時、エージェントは、1時間が2時間分使えるということは、1時間分の給料で2時間分働かせられるとか、締め切りに間に合わせるために作家がタイムマシンに缶詰めにされるとか、こんなタイムマシンが実用化された日にはろくな使い方はされないと考えていた。


おしまい


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