第127話 正論(127)護送車から出られないヒーロー


 偽セイロンガー、偽ブラックオウガ、そして怪人蜘蛛男はベルトに取り付けられた爆破装置が作動し、護送車の外で爆発してしまった。


 ぎりぎり逃げ込んだセイロンガー、オウガ、マリンの3人はしばらくの間、表へ出ることができないでいた。特撮ヒーロー物のドラマでは怪人が爆発することは珍しい話ではない。しかし、これは現実であり、表には怪人の無惨な死体が転がっているはずだ。

 

「どうしよう、私、死体なんか見たことない。半殺しまでしかしたことないから……バラバラ死体なんて無理」

 ホワイトピーチ・マリン、数々の実績をあげてきた彼女だが、まだ怪人を死なせたことはない。

「オウガさんはもう殺してるから大丈夫ですよね?」

 マリンは殺人経験者の鬼島に話を振った。


「殺してるからって……馬鹿言うな嬢ちゃん、俺は相手を締め殺したんだ。遺体は綺麗なもんだった。バラバラ死体なんて、見たことねぇ。セイロンはアメリカ育ちの外人みたいなもんだから大丈夫だろ?」

 鬼島の外国人に対する謎の信頼感が飛び出した。偽セイロンガーの前歯を数本折ったときも「外人だから大丈夫だろう」と謎理論を展開した。


「あるわけないだろう。俺はヒーローだが、現役の投資家兼マンション経営者でもあるんだぞ? 明日の清掃業務の心配さえしているんだ。バラバラの死体なんて戦場でしか見ないもので、平和な日本で見るべきものじゃない」

 セイロンガーは物騒な2人に比べれば、怪人を懲らしめこそすれ、殺しとは全くの無縁である。しかし、今回の戦闘は一歩間違えれば、こちらは命を落としていた可能性がある。戦いのステージが変わったと実感せざるを得ない。


「あのぅ……」

 3人の後ろから声がかかる。見ると怪人に拘束されていた護送担当の警察官が2名、起き上がり敬礼していた。

「ヒーローの皆さん、救出いただいてありがとうございます。私ら、外に出て遺体の回収を手伝ってきますので、皆さんはこちらでお待ちください」


「いいんですか!? 助かりますぅ」

 マリンが手を合わせて感謝する。


「いえ、私ら、鉄道事故があれば駆り出されるので……」


「あぁ……」

 3人は、ほぼ同時に納得の呟きを洩らした。


「それじゃあ、開けますので……」

 プシューーッ

 警察官が油圧レバーを捻り、ランプドアが開き始めた瞬間、3人のヒーローは一斉に顔を背けた。


「あらぁ……これは酷い、うわぁ……」

 警察官が言うくらいなのだから、よほどのあり様なのだろう。

「ちょっと、早く、早く閉めて下さい!」

 マリンが言うと、すぐにランプドアが閉まった。


「それにしても、銃に爆破。やつらは日本で戦争でも始めるつもりなのか」

 セイロンガーが呟く。


「そのうちロケット砲でも飛んでくるんじゃねぇか? セイロン」


「可能性はある」


「マジか?」

 鬼島は冗談で言ったつもりが、セイロンガーの反応は違った。


「あぁ、ピンポイントで狙ってくる可能性はあるという話だ。まぁ正面からの攻撃なら俺も鬼島もなんとかなるだろうが、心配なのは一般市民の被害だ。これだけは何とか防がなければならない」


「ちょっと待て、俺も狙われるのか?」


「俺が狙われているのは、血筋もあるのだろうが、それよりもこのヒーロースーツだと考えている」


「くそ、大曲のやつ、紛らわしいヒーロースーツに改造しやがって」

 鬼島が吐き捨てるように言う。


「紛らわしいんじゃない、ほぼ一緒だ」


「そう見えるか? 嬢ちゃん」


「はい、色違いですよ。見た目、型番一緒です! あと何色あるのかな?」

 マリンはまるで洋服の話をするように言った。

 

「……」


「あの怪人らが爆破されたのも、身柄をこちらに渡さないためだろう。技術の流出によほど神経質になっている」


「ちっ、俺ぁ、普通のおじさんに戻りたいぜ……」

 古い話だが、キャンディーズの気持ちが痛いほどわかった鬼島であった。


「まずは五百旗頭邸に戻り、壽翁さんと話をしよう。少し政治も絡んできそうだからな」

 そう言うと、立ち上がって護送車から出ようとするが、マリンに止められた。

「あの、外、まだ片付け終わっていませんよ?」

 

 そう言われて、セイロンガーは再び静かに座った。

 

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