涅槃で見る夏の夢
@cfilorvyadgjmptw
尾花の群れをかぎ分けて
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
誰かの幸せな人生を見る事ほど、苦痛な事は無いだろう。
赤子、幼児、少年、青年、社会人、成長、壮年、老成、老人。
その全てが、上手くいっていた。
妬ましい。妬ましい。妬ましい。
然れども。彼から見たら、私の方が妬ましいだろう。
彼の人生は全てが万全だった。
これからの将来に全てを備え。
人生のレールに、ドクターイエローを走らせていた。
ただ、幸せなだけだった。歪みもなく、歪もなく
トラブルも無く。
ただ毎日、無事に一歩歩けるように。
整然とした公式の様に、そこには、人の生の象徴があった。美しいとすら、言えるだろう。
幼少期から少年期の間にかけて、
老人以外の、八つの夢を見た私は、その模範的と言える人生に嫌気がさしていた。
なんとつまらない。
その人生を反面教師とするが如く。
私の人生は波乱にまた満ち満ちていた。
動乱と混乱と戦乱と氾乱と狂乱と
トラブルに突っ込み、トラブルの中で暴れ、
トラブルに降り注がれた。
万丈とは言えないだろう。
しかし、伝記を書けるほどには、
私の人生は良かっただろう。
任侠と遊び、闘争に明け暮れ、
アフリカに行き、義勇兵として
戦い、戦い、戦い。戦場を練り歩いた。
左腕を無くし、PTSDに陥り、
アメリカ自由社会において最下層でありながら、
楽しく生きた。
麻薬店の店番をしながら、老後を生きる。
日本人として、よくは無いかもしれないが。
それが良いのだ、
思えば、私の人生はあいつの人生を軸に生きていたのだろう。
そしてきっと、あいつは、私の人生を軸に。
いや、基底と呼ぶ方が正しいのかもしれない。
日本語は難しい。
今でこそ、こう思えるが
当時の私は苦痛とストレスと共に生きていた、
何故こうしているのか、私自身でもわからなくなっていた。
人は、苦痛に弱い。
逃げる為に思考回路をも捻じ曲げる。
歪なその枯れ果てに私は解答を見出した。
九回目の夢を見ていないたからだ。
あぁ、笑える。
なんて喜劇だ!
アフリカの砂漠化の影響はよっぽど酷いらしい。
私の脳みそまで茹っていた様だ。
まさか、未だ夏だと思い込んでいたなんて。
あぁ、確かに、滴るアイスクリームがどうも頭によぎるわけだ。
熱せられた黒いアスファルトの上で、少年達が
自転車に跨り、駆け抜けていった。
その様な気がした。
いや、今もそうだ。
店先の道路で遊び声が聞こえる。
バスケットボールだろうか?
黒色の声と白色の声。
ダムダムと弾む音と共に、未だ幼い掛け声が聞こえてくる。
涅槃より、あんたへ、そっちはどうだい。
閉じた瞼の隙間から、反射した白色の光が差し込んだ。
涅槃で見る夏の夢 @cfilorvyadgjmptw
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