第8話 おっさんの休日~酒とメシ~



 今日は休みだ。

 

 アッシュ・グランダークは王都にある噴水公園のベンチでボーッとしていた。

 

 何もしなくていい。それは幸せだ。街の空気が違う。

 

 道行く人の笑い声、目的がありどこかへ行く人。俺のようにただ流れる時間に身を委ねる人。

 

 朝は何食べようか? お昼は何食べようか? 晩ごはんを決めるのはまだ早い。

 

 そんなことを考えていた。

 

 「幸せだなぁ」

 冒険者時代にはこんなことは想像もできなかったよ。


 そうだ、今日は行ってみたいお店があるんだよな。

 

 定食屋――どんぶり亭。

 

 この王都に新しくできたお店だ。

 

 安くて美味しいとすぐに評判になり、今や人気店の仲間入りだ。

 

 ベンチから立ち上がるとアッシュは軽やかな足取りで店に向かう。


 おっさんのご飯の時間だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ!」

 

 店内に入ると、威勢のいい店主の声が響き渡る。

 

 これは期待できそうだ。

 

 何にしようか?どんぶりがメインの店だが、メニューが多い。

 

 どれにしようか迷っていると「今日のオススメはコカトリスの親子丼だよ!」と店主が教えてくれた。

 

 なら、それを頂こう。あとは、何にしようか。エールは欠かせない。

 

 朝から酒。これはキク。背徳感。たまらない。

 

 俺はコカトリスの親子丼とエール。それにおつまみで串焼きを頼む。

 

 ハズレはないはずだ。串焼きはどこでも同じ。タレがかかっていれば美味しい。

 

 待っている時間。最高だ。ジュゥゥゥっと焼いている音。涎が出る。


 「先にエールお待ち!」


 きた!待っていたよ。エールちゃん。息を飲む。

 

 まずは一口……ゴク、ゴク、ゴク、ゴク。

 

 プハァァァァ。しゃっくりが一度出る。ふぅぅ、一口で満足できるはずがない。

 

 グラスが凍っていて最高だ。氷の魔法を使っているのだろう。これは喉が喜ぶ。

 

 続けて。ゴク、ゴク、ゴク、ゴク。

 

 はぁぁぁ。もうどうでもいい。ただこの時間に身を委ねていたい。

 

 「串焼きおまち!」

 

 エールをもう一杯頼む。

 

 串焼きを見るとこれは。

 

 ――タレじゃない。塩だ。

 

 串焼きは基本的に安い肉を使う、だからタレで味をごまかす。これは味に自信がある。そういうことだ。

 

 ゴクリッ。ならば俺がすることは一つ。エールが来るのを待つ。早く。早く。

 

 「エールおまち!」

 

 串焼きという主役には、エールというヒロインがよく似合う。

 

 いただきます。

 

 !?こ、これは。肉をワインで漬け込み、臭みをなくしている。噛みごたえも抜群だ。

 

 溢れ出る肉汁。最後の一滴までが俺を潤す。

 

 ここですかさず。エール。

 

 はぁぁぁ。幸せだ。これ以上、言葉はいらないだろう。

 

 「親子丼おまち!」


 キタキタ。卵は半熟。肉はゴロッと。むせ返るような味の濃さ。これだよ、これ。

 

 素材の味を活かすのもいいが、やっぱりタレもいい。

 

 一口……。カッカッカッカッカッカッカッカッカッカッ。

 

 一口で耐えられるはずがない。すかさずエール。

 

 プハァァァァ。おっさんを殺すにはこれが一番だ。

 

 残りを平らげると、お腹いっぱいだ。最後のエールもしっかりと飲み干す。

 

 ごちそうさまでした。

 

 店主にお礼を言い、お代を払う。

 

 扉をあけると外の風が気持ちいい。空を見ると青い空が広がっていた。

 

 明日は仕事だ。


 ズル休みしようかな。と大賢者は悩んでいた。








◇ 下の応援を押していただけたら嬉しいです◇

       ◇フォローや応援コメントもしてお待ちいただけると嬉しいです!◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おっさん魔法使いの生徒たちが卒業したら賢者になっていた。でも、俺が大賢者になるのはおかしくないか!? ラッキーストライク @raqisuto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ