……9回目に登場したのは、旧号!

大創 淳

第四回 お題は「書き出し指定」


 ――あの夢を見たのは、これで9回目だった。



 同じ屋根の下、いつの日か、君が僕を見つける夢……


 そう。大きなのっぽの古時計の陰から僕は見ていた。君の成長過程。君が赤ちゃんの頃から、ずっと傍にいた。9回の3分の1でもある3回目の引っ越ししたにも拘らず……


 この古時計に飾られている写真は僕の写真。


 そして、坊ちゃんカットの学生服に身を包んでいる少年こそが、僕の最後の姿で……


 永遠の十五歳となった。こんなに近くにいても、誰も僕に気付かなかった。それが罰なんだと思う。自ら命を絶った者の孤独という名の罰……三十八年の間。これからも……


 すると、


「あの……もれそうだから、あとでちゃんと聞いてあげるからね?」


 と、言った。それは紛れもなく君の声。ボブの可愛い女の子。そして今は真夜中で、彼女はトイレに行こうとしているところだった。そう。……ここには誰もいなかった。


「待ってる。この古時計の前で」


「う、うん、あとで、ゆっくりお話ししましょうね、おじちゃん」


 僕のことを『おじちゃん』と言った。見た目は君と変わらない歳の筈だけど……と、いうことは、君は僕のことが見えるだけではなく、僕が誰なのかも知っていた。


 ――旧号きゅうごう


 某特撮ヒーローみたいなニックネームで、彼女はそう呼んでいたけど、僕が見えるようになってからは『旧一もとかずおじちゃん』と呼ぶようになっていた。決して9回目だから旧号ということはなく……ただ、僕の誕生日が九月五日なわけだから、もしかしたら……


 そして、ここは僕の妹、千尋ちひろの家。


 僕は何故か、ずっと妹の家にいる。そして今目の前にいる女の子が、妹の娘……つまり僕の姪に当たる子だ。名前は『千佳ちか』と言った。この時、彼女は十三歳だった。


「……僕を、助けてくれたんだね」


 と、唐突に千佳は言う。目に涙を溜めて。


 そして千佳もまた一人称が『僕』……つまりボクッ娘。


 あれは去年のことだった。夏休みの最終日、彼女は浴槽で手首を切った。僕は呼び掛けた。何度も彼女の名を。確かに感じた。手首を切った彼女が本気で生きたいという叫び。


 だから、本当に奇跡的に……


「まあ、まあね、

 もう三十八年、僕はまだ幽霊のようで、そのお陰かな? 千尋や千佳を見守ってやれるんだ。……でも、僕には力がないし、見守る事しかできないけど、……でもな、そんなのは僕だけで充分。千佳は僕にとっては可愛い娘みたいなものだし、何より千尋を、もうこれ以上、悲しませたくなかった。……僕の時と同じ思いをさせたくなかったから」


 千佳は涙を零した。


「……何だか、ごめんね」


「こらこら、そんなこと言うな。子供はそんなこと考えるな。……千佳には、僕と同じ思いをしてほしくないんだ。今はもう、わからないだろうけど、きっと『もっと生きたかった』とか『もっとこうしたかった』とか……思うようになったら、ホント辛いから」


 と、やっと言えた。


 あの夢で見たこと。9回目にしてやっと。


 千佳には、もっともっと広がる世界を見て欲しいから。ほら、先程までの雨が嘘のように。夜も明けて朝陽。綺麗な虹が掛かる瞬間を。この四角い窓から確かに見たから。

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……9回目に登場したのは、旧号! 大創 淳 @jun-0824

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