外伝2 勇者が49歳で社会福祉士に転職して、再び世界を○○する。
犬飼ココア
第1話 ひまわりの夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
毎年、ひまわりが咲き誇るこの季節になると、アレンは決まってあの夢を見る。ひまわりの海の中、あたたかな太陽の光を浴びて笑う両親。そして、小さな手を広げ、ひたすらにその笑顔に向かって走る幼い自分。しかし、あと少しでその手に触れそうになるたび、夢は決まって暗闇に変わる。燃え広がる火、崩れ落ちる家、絶望に満ちた叫び声――アレンの心に深く刻まれた記憶。
朝の光が差し込む部屋でアレンは目を覚ます。夢はいつも鮮明で、目覚めた後もしばらく心に余韻を残していく。ふと頬を伝う涙が一粒、静かに床へ落ちた。
「また、あの夢だ……」アレンはそっと目をこすり、窓の外を眺めた。そこには一面に広がるひまわり畑が広がっている。村人たちが手を取り合い、荒廃した土地に再び命を吹き込むために植えたひまわりたちは、力強く咲き誇り、どこか夢の中の風景と重なって見える。
階下からトーマスおじいさんの快活な声が響いた。「アレン!おはよう!パンが焼けたぞ!」 その声に引かれるように、アレンは布団から抜け出す。トーマスおじいさんの家は、戦争孤児となったアレンにとって唯一の居場所だった。彼が拾ってくれなければ、自分は今ここにいなかっただろう。階段を降りながら、夢の中で両親が笑いかけていた光景が再び脳裏によみがえる。
台所では、焼きたてのパンの香ばしい香りが部屋中を包んでいる。トーマスおじいさんはすでに朝食の準備を整えながら、楽しげに語りかけてきた。「今日はアルティメーラ一のパン屋で買ってきたんだ。」と満足げに言いながら、彼はパンを誇らしげに持ち上げた。「ここのパン屋はな、看板娘の笑顔が最高なんだよ。ここのパンを食べると、まるで世界が一瞬幸せに包まれるんだぞ。」そう言ってパンを掲げるおじいさんの笑顔に、アレンは自然と微笑みを返した。
「ありがとう、おじいさん。」アレンは椅子に座り、温かいスープとパンを口に運ぶ。ひまわりが咲くこの季節、夢は必ず彼のもとを訪れる。そして、それが終わるたび、アレンは自分の中に静かな決意を感じる。「両親が残した優しさと愛情を、この世界にもう一度取り戻すために、自分はどうすればいいのか。」
食事を終えたアレンは、窓の外を見つめながら立ち上がった。「行ってくるよ、おじいさん。」 「気をつけてな。そして、帰ってきたらまたおいしいパンを焼いてやる。」
外に出たアレンを包んだのは、ひまわりの間を吹き抜ける優しい風だった。夢の中の温かさを思い出しながら、アレンは再び歩き出す。この傷ついた世界に、あのひまわりのような光と平和を取り戻す日を夢見て。
外伝2 勇者が49歳で社会福祉士に転職して、再び世界を○○する。 犬飼ココア @inukaicocoa
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