10回目を見たらどうなる
辺理可付加
オーバーフロー
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
「病気じゃん?」
午前の部活が終わったあとのマ◯ドナルドにて。
目の前で親友のエツ子がそんなことを宣うので、私は反射的にそう答えた。
もちろん彼女は反発する。
「違うよ!」
テーブルを叩くので、Lサイズポテトが容器からトレーに吐き出される。
私は倒れないよう手に取ったコーラのストローをそのまま口へ。
「根拠は?」
「根拠て。私は至って健康だよ! どこも痛くないし苦しくもダルくもない! 毎日よく眠れるしご飯も美味しい!」
「ふーん」
まぁ脳に機能障害を起こしているとか、精神病んでるとかではないらしい。
となると、
「じゃあどういう夢見るの?」
「へ?」
「いや、あるじゃん。『好きな男子がよく夢に出てきちゃう』とか。『小さいころはよく同じ怖い夢を見た』とか」
「あーね」
まぁ十中八九前者でしょ。
我々女子高生という生き物は、友人とたくさんの話をする。
しかしそのほとんどは大別すると恋バナか物欲かアニメ・アイドル。
ただ入り口や前振りが多岐に渡るだけだ。
だから今回も
『実はサッカー部の中島くんで〜』
とかから始まる、両思いでもないのに繰り広げられるノロケ話だろう。
私は弓道部の西原先輩で迎え討とう。
ストローをガジガジ噛みながら先読みしていると、案の定彼女は上目遣い。
「じゃ、じゃあ話すけどさ? 絶対笑ったりしない?」
「しないしない」
おうおう早く言っちまえ。
おまえは夢で中島くんとナニしてるんだ?
特殊性癖なプレイじゃなけりゃ、涼しい顔して聞いてやるぜ
と構えていたら、
「9人の九州男児と九十九里浜で99時間踊り続けるの」
あまりのインパクトに、コーラを一気に飲み干してしまった。
ストローのジュッ! という音が私の『はぁ!?』代わり。
「……おまえ、欲求不満なんか?」
「あーっ! ヒドい! そのリアクションヒドい!」
「『笑わない』とは言ったけど『引かない』とは言ってない」
逆に今のをノーリアクションで流せってのか!?
中島くんとの【ピー】超えて大勢の男と【プー】するメタファーじゃねぇか!
そんなんフロイトしか喜ばねぇわ!
「よくその話、人にできたな」
「だって怖くない!?」
「あ、一応恐怖として受け取ってはいるんだ。安心したよ」
「当たりまえじゃん!
ここまで『9』が揃ってるんだよ!? 10回目見たらどうなるの!?」
「そこかい!」
エツ子はポテトを10本手に取ってアピールする。
実は結構余裕だろオメー。
「オーバーフロー起こしてバグったりしない!? ガンジーが核撃ってきたりしない!?」
「おまえはゲーム世界にでも住んでんのか!」
「どうなるの!? 男が10人に増えるの!? フィリピンあたりが合併されて十州男児になるの!?」
「国際問題!」
「どうなるのどうなるの!?」
「知らねーよ! 性犯罪起こすまえにカレシ作ってなんとかしろ!」
「欲求不満じゃないもん!」
気付けば周囲の視線がこちらへチラチラ集まっている。
これ以上はマ◯ドナルドでしていい話じゃない。
「分かった分かった! カラオケ行こう! そこで続き話そう!」
とりあえず個室を確保して悲惨さを減退させることに。
このままでは私も公然猥褻に巻き込まれてしまう。
というわけで店をあとにした私たちだが。
カラオケに着くころには、お互い夢の話なんてどうでもよくなっていた。
そのまま喉が枯れるまで歌いまくって、何事もなかったように解散した。
え?
『結局夢の話はなんだったんだ』って?
『そこは10回目を見てホラーになる展開だろう!』って?
そこ気になる?
うん、じゃあ、まぁ、話すけど。
結論から言って、
アイツが10回目を見ることはなかった。
ただ、あれから数日後の朝、登校すると
「お、今日はアイツ休みか」
「あ、ミーちゃんおはよう」
「うぃーすモッチー」
「ねぇ聞いた? エッちゃんの話」
「今日休みっぽいけど、どうかしたんか?」
「昨日夜中に九十九里浜で9人の知らない男と踊ってて補導されたらしいよ?」
「……あちゃー」
どうやら怪談でありがちな、現実化するパターンだったらしい。
ま、性犯罪起こすよりマシか。
ちなみにエツ子が不在のあいだに、中島くんには彼女ができた。
10回目を見たらどうなる 辺理可付加 @chitose1129
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