あの日見た夢の話

天蝶

第0話

あの夢を見たのは、これで9回目だった。

夢の中で、私はいつも見知らぬ街道を一人で歩いていた。

そこには、色とりどりの花が咲き乱れ、青空が広がっている。

しかし、どんなに美しい景色の中にいても、心には深い孤独が宿っていた。


夢の中で、私は街道の突き当たりにある小さな家に向かう。

ドアを開けると、懐かしい香りが広がってきた。

それは、私の亡き祖母がいつも作ってくれたお菓子の香りだった。

祖母は、私が幼いころから多くのことを教えてくれた。

彼女がいなくなったのは、私が大学に入学してしばらく経った頃だった。

あの日、悲しみが胸に押し寄せてきて、なかなか立ち直れなかったのを覚えている。


この夢の中で、祖母の姿は見えない。

しかし、彼女の声が聞こえてくる。

「お帰りなさい」と、優しい声で呼んでいる。

この言葉を聞くと、涙があふれてくる。

そして、目が覚めるといつも切ない気持ちに包まれる。

夢を見続けることが、どれだけ私にとって大切なことかを思い知らされる。


9回目の夢では、少しだけ違うことがあった。

いつもは家の中に入った後、ぼんやりと過去の思い出に浸るだけだった。

しかし、今回は不意に夢の中の時間が止まったように感じた。

そこに現れたのは、若き日の祖母だった。

彼女は私の目をじっと見つめて言った。

「あなたが幸せになるためには、前に進むことが大切よ」と。


その瞬間、私の心の奥底に眠っていた「未練」がふっと顔を出した。

自分の夢や目標を追いかけることを、ずっと恐れていた。

祖母はいつも、挑戦することの大切さを教えてくれたのに、私はその教えを忘れていた。


「どうして進もうとしないの?」と彼女は言う。

私は言葉を詰まらせた。

しかし、心の中で感じていた不安や迷いが、少しずつ溶けていくのを感じる。


目が覚めたとき、私は涙を流していたが、その涙は悲しみだけではなかった。

祖母の言葉が心に響き、自分自身を見つめ直すきっかけとなった。

彼女が残してくれた大切な教えを、今度こそ実践しなければならないと心に決めた。


翌日、私は大学の講義が終わってから、久しぶりに自分の描きたいものを表現するための絵を描き始めた。

祖母が教えてくれたお菓子の香りを思い出しながら、心を込めて色を塗った。

心の底から湧き上がる感情をキャンバスにぶつけると、思わず笑顔がこぼれた。


その絵が完成したとき、一つの確信が心に芽生えた。

「前に進むこと」を恐れる必要はない。祖母はいつも私の心の中で生きていて、私を支えてくれたのだ。


私は彼女の教えを胸に、これからも自分の人生を歩んでいこうと思った。

夢の中での出会いは、私にとって大切な「再出発」の合図だったのだ。

これからも、彼女とともに歩んでいけると思うと、心が温かくなった。人生はまだ続いている。

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