あの夢を10回みると死ぬらしい。【KAC20254参加作品】

猫鰯

10回目の噂。

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 10回見ると死ぬ。とネットで噂され、すでに何十人何百人と亡くなったと言われている。


 最初は『くだらないデマ』と一蹴していたけど、噂の夢を3回4回と観続けているうちに不安になり、一昨日、とうとう9回目の夢が訪れてしまった。


「それで、昨日は寝てないのか?」

「ああ、怖くて眠れないんだ。どうすればいいと思う?」

「ん~……例えばさ、誰かに10分おき位に起こしてもらえば夢を見る前に目が覚めるんじゃね?」

「誰かって……」

「おい、こっち見んな。爆睡派なんだよ、俺は」


 ……マジか、死ぬか生きるかって話なんだぞ。最低だな、コイツは。


「大体さ、それってデマじゃないのか? 俺だって似た夢を何度も見るけど生きてるぜ?」

「普通の夢じゃないんだよ、同じ動画を何度もくり返し観るくらい同じ内容なんだ」


 夢なんて、普通は起きた時にすっかり忘れる事の方が多い。しかし噂の夢は細部にいたるまで明確に記憶している。


 それは現実に起こっているんじゃないかって錯覚するくらい、色やにおいのディテールまでがハッキリとしていた。


「そっか。じゃ、やっぱり内容はネットに書かれているとおりの?」

「うん。どうしよう……?」

「脳に電気信号かなんか送って、夢の内容を変えるとかは?」

「え、そんな事できるの?」

「いや、しらんけど」

「オマエな……」


 一瞬、殺意が湧いた。


 睡眠不足が続くと狂暴になるって話がある。

 昔、ラジオのDJが不眠放送を続けて2日目辺りからイライラし始めて暴言が増えたってどこかで読んだな。


「ところで、なんだが……」

「なんだよ」

「そのネットの話だけど、おかしな点があるって気がつかねえか?」

「はあ?」


 噂の夢を10回見たら死ぬ。そして現実に死んでいる人が大勢いる。この事実の何がおかしいのだろうか?


「だって、10回見たら死ぬんだろ?」

「さっきからそう言ってんじゃん!」


「死ぬ直前に見た夢が10回目って誰が証明できるんだ?」


「……あ」


 そうだよ、その通りだ。9回見たって人がそのあと死んでも、10回目を見た証明にはならないじゃないか!


「人間誰だっていつかは死ぬだろ。寿命や病気で死んだ人を10回目の夢のせいにしているだけじゃね?」

「そうか、そうだよな!」

「そもそもこの噂って、スマホをレンチンしたら充電できるってレベルの与太話なんだからさ。気にする事ないと思うぜ」


 ……なんて理路整然で的確な回答をする奴なんだ。最高だな、コイツは!


 俺は帰るとすぐ、ベッドにもぐりこんだ。眠くてフラフラだけど、ものすごく清々しい気分だった。


 こんなに安心して眠れるのは久しぶり。考え方ひとつ、気の持ち方ひとつで人生は全然変わるんだ。


 諭してくれたアイツには感謝しなきゃ。……今夜はいい夢が見られそうだ。



「ZZZZ……」



「zzzz……」



「……」



 ——夢をみた。例の、噂の夢。



 目が覚めると、そこには俺の体が在った。


 そして、部屋の天井から見下ろす霊体の俺。




 最後の最後に、俺は悟った。




 死んだ人間が、10回目の夢を見た証明はできない。


 でも、それには別の一面もある。


 これだけ騒がれている噂なのに、『10回目を見た』って証言をする人がいないのは……



 ……もれなく全員死んでいるからなのだと。





            完

――――――――――――――――――――――――――――





 あ、そうそう。そのあとすぐに死神が迎えにきました。





「……オマエだったのかよ。最低だな」






          本当に完。

――――――――――――――――――――――――――――


あとがき


ご覧いただきありがとうございます。書き出しのお題から”おぼろげに”浮かんできた数字……じゃなくて物語です。

ちょっとオチがわかりやすかったなーと思いつつ、二段落ちに仕上げました。楽しんでいただけたら幸いです。


他にも長編や短編を書いています。よろしければ是非お立ち寄りください(´艸`*)

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