あきほとトリの大冒険 ~夢の中の迷宮~
にゃべ♪
夢の中のダンジョン攻略
あの夢を見たのは、これで9回目だった。全て同じ、迷宮で彷徨う夢。この状況に対して、あきほは呪いみたいなものなのだろうと推測する。つまりは、敵の魔法攻撃。毎回迷うだけ迷って出られずに夢から覚める。モヤモヤ感が半端ない。
流石に同じ事が9回も続けば、それなりの対策だって思いつく。彼女はすぐにトリを呼んだ。
「呼ばれてやったホ。一体どうしたホ?」
「今私は夢の中にいると思うんだけど、ここから出たいんだよ」
あきほはトリを両手で掴むとじっと見つめる。その真剣な眼差しは彼をビビらせるほど。
トリはゴクリとツバを飲み込んで、たらりと冷や汗を流す。
「ボクに何をさせる気ホ?」
あきほはまず魔法少女に変身。黒い魔法少女衣装になったところで、腕を振り回したりストレッチをしたり、その場でジャンプしたりする。夢の中でも能力が発揮出来るか確認したのだ。
夢の中でも問題なくパワーが出せると確信した彼女は、傍観していた契約精霊を右手でむんずと掴む。
「い、嫌な予感がするホ……」
「私のお願い聞いてくれる?」
「これ、精霊に物を聞く態度じゃないホ……」
あきほはトリのささやかな抵抗をまるっとスルーして、そのまま魔法少女バフのかかった腕力でトリを遥か上空に放り投げた。
「飛んでけー!」
「やっぱりホー!」
夢の中のダンジョンは上に壁がない。つまり、上空から見下ろせばその全体図が見渡せる。飛行魔法を取得していないあきほは、自分の代わりにトリにマッピングをさせようと考えたのだ。
トリは高く飛ばされながらその意図を理解すると、必死でダンジョンの全体図をその目に焼き付ける。そうして、落下こそは自分の羽を羽ばたかせてゆっくりと降下した。
「どう? 出口分かった?」
「ダメホ。迷路は次々に形を変えていて攻略は無理ホ」
どうやら迷宮はリアルタムで形を変えているらしい。道理で出られない訳だ。あきほはダンジョンの理不尽さを実感したと同時に、絶対に外に出さないと言う強い意思を感じて、このダンジョンが敵の攻撃だと言う事を確信する。
「夢の中だからそう言う事が出来るんだろうけど、私の夢で勝手にされるのは気分が悪いな」
脱出不可能と言う事実が確定して憤ってる所に、見覚えのある人影が近付いてきた。
「あきほ! あなたも捕らわれてたの?」
「マミ? なんで?」
「トリの降臨が見えたから、もしかしてって思ったの」
マミはトリが上空からゆっくり降りてくるところを目撃して、それを目指してやってきたらしい。夢の中で知り合いが現れる事は珍しくないものの、言動がリアルだった事もあって、あきほは首をひねった。
「ここ、私の夢だよね?」
「そっか、あきほは初めてか」
「え? 何?」
「これは伊予媛派の魔法少女、谷尾もももの魔法だよ。私達は彼女の夢の世界に閉じ込められたんだ」
マミの話によると、もももは夢を操る夢魔法の使い手なのだとか。対象者が夢を見ている時に自分の夢の世界に引きずり込んで、悪夢を見せるのだそうだ。
如何にも魔法らしい魔法と言えるけれど、あきほはまずその魔法少女の名前に引っかかった。
「ももも?」
「本名は桃乃だけど、周りにはもももって呼ばせてる」
「で、その夢魔法ってどう言う効果があんの?」
「10回同じ夢を見たら死ぬ……。て言うか自力で起きられなくなる」
夢魔法は暗示魔法であり、かかるには条件がある。そのひとつが、同じ夢を10回見せる事。脱出出来ない夢を10回見てしまうと、起きようと思っても起きられなくなる。そうなった場合、起きるにはもももの許可が必要になり、彼女に絶対逆らえなくなってしまうのだ。
その事実を知ったあきほは、サーッと顔を青ざめさせた。
「ヤバいじゃん! 私9回目だよ!」
「私もだよ!」
どうやら、マミも同じ時期にもももからの攻撃を受けていたようだ。だからシンクロして出会う事も出来たのだろう。真相が分かったところで、2人はこの夢の脱出方法について話し合う。
手始めに、あきほはさっきトリから得た情報を提供した。
「このダンジョンは壁が出来たり消えたりして攻略は無理っぽいんだけど、マミはこの攻撃を受けた事なかったの?」
「形を変えるなんて初めて聞いたよ。きっとレベルを上げたんだ」
どうやら、少し前までは一度作った迷路をいじる事は出来なかったらしい。なので、期限内に脱出する事で暗示にかかる事はなかったのだとか。
迷路をいつでも好き勝手に弄れるなら、もう攻略は不可能だ。この結論が出たところで、それでもあきほはあきらめなかった。
「じゃあ、出口に辿り着く以外に解く方法はないの?」
「分かんない。魔導書にも書いてないし……」
マミは明確には否定しない。そこから何らかの方法があるとにらんだあきほは、必死で攻略法を考える。腕を組んでうんうんと唸った後、目の前の壁の材質を確かめた。
鉄のような冷たさは感じられず、木のような優しさを感じる。まるで生きているみたいな――。
「この壁って魔法で作ってんだよね?」
「そうだよ。夢の中だから何でもありだよね」
「夢の中……。常に私達を妨害している……。そうか!」
攻略法を見つけたあきほは、事の経緯を見守っていたトリをまた右手で掴んだ。
「な、何するホ!」
「もっと高く上げるから、今度は迷路の全体をしっかり見て」
「それが攻略の手がかりになるホ?」
「そうだよ。だからお願い……ねッ!」
「ホホホーッ!」
あきほは自分の出せるフルパワーでトリを上空にぶん投げる。地上からは見えないほどに高く上がり、あきほもマミもナーロンも放り投げられた契約精霊を目で追った。
「あきほは精霊扱いがヒドいニョロ……」
「まぁまぁ、あきほにも考えがあるんだろうし」
「そうだよ。それにトリは羽があるから自力で降りてこれるし」
数分後、ダンジョンの全体図をしっかり目に焼き付けたトリが小さな羽を懸命にバタつかせながらゆっくりと降りてくる。
それを、あきほは両手を伸ばして優しく受け止めた。
「見てきたけど、常に形が変わるから無駄ホ」
「変わらない部分はなかった?」
「迷路の中央は動いてなかったホね」
「そこだ!」
あきほの狙いは迷路の出口ではなく、迷路を動かすからくりの正体についてだった。自身の推測の正しさを確信した彼女は、勢いよくマミの顔を見る。
この行動の意味が理解出来ていなかったマミは、目を大きくした。
「な、何?」
「マミ、変身して。それで私にバフをかけて」
「あ、あ、うん。分かった……」
普段着で現れていた彼女は、指示に従って魔法少女に変身。すぐにステッキを生成すると、あきほに魔力を注入する。
「マジカルバフ!」
「くぅ~! これだよこれェ……」
恍惚の表情で能力強化を受け入れたあきほは、改めてトリに向き合った。
「で、その中央部分ってここからどの方角?」
「それは、あっちホ!」
トリは小さな羽で場所を指し示す。向かうべき場所が分かったところで、あきほは足に力を込め、中央に向かって蹴り出した。
「マジカルキィーック!」
魔力バフがかかったパワーおばけの魔法キックは、ダンジョンの壁を軽々と壊していく。そのまま中央エリアまで一気に破壊してしまった。
その強引な力技を目にしたマミ達は、全員が言葉を失う。
「嘘でしょ……」
「やりやがったニョロ」
「流石はあきほホ!」
ダンジョンの中央部分の壁に囲まれたエリアの壁をぶち抜いたあきほは、そこにいた魔法少女と出会っていた。ピンクの魔法少女衣装を来て、ピンク色のふわふわなヘアスタイル。背はあきほより高くナイスバディで、不思議ちゃん的な雰囲気を醸し出している。見た目からも夢魔法の使い手らしい雰囲気が漂っていた。そう、夢魔法の行使者は中央部でダンジョンをコントロールしていたのだ。
突然の乱入者の登場にもももはビビり、制御していた水晶から手を離す。
「だ、誰ですの?」
「あんたがハメようとしてた魔法少女だよ!」
「あ、あきほさん? 本当にデタラメですのね」
「言いたい事はそれだけ? じゃあ観念してもらおうか」
あきほはポキポキと指を鳴らしながら、桃色魔法少女にゆっくりと近付いていく。この手の搦手魔法使用者の多くでそうであるように、もももも格闘能力はからっきしだった。
「や、やめ……。暴力はんたーい!」
「聞く耳持たーん!」
「きゃあああ――っ!」
あきほの怒りのアッパーによってもももは空高く飛んでいき、魔法使用者が気絶した事でダンジョンはボロボロと崩壊していく。こうして、あきほのパワーがまたしても勝利をもたらしたのだった。
ダンジョンが綺麗サッパリ消えた後、マミがあきほのもとに駆け寄る。
「やったね!」
「種が分かれば楽勝だったよ」
あきほとマミはハイタッチ。お互いに勝利を喜び合う。周囲の景色が崩れていく様を見て、2人はこの場所での別れを予感する。
あきほはキョロキョロと周りを見渡して状況を確認した後、改めてマミの顔を見た。
「ここはもももの夢の中だから、倒した事でお互いの夢に戻るんだね」
「そうだね、また学校でね」
「またね」
2人は手を振りあって世界が分離してくのを待つ。本来ならすぐにフェードアウトするはずなのに、一向にその気配がなかった。やがて突然周りの景色が闇に染まり、あきほの意識が遠のいていく。
夢から覚めるにしてもいきなりだなと、彼女はその流れに身を委ねた。
「……起きて! 大変な事になった!」
身体を揺らされたあきほの目に最初に飛び込んできたのはマミの姿だった。異常事態だと察知した彼女が起き上がり顔を左右に動かすと、周りは自室ではなく知らない景色。
「どう言う事?」
「知らない世界に飛ばされたみたい」
「また夢の中なの?」
「分かんない。知らない魔法だよ」
どうやら、あきほの平穏はまだ戻ってこないようだ。
あきほとトリの大冒険 ~夢の中の迷宮~ にゃべ♪ @nyabech2016
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