10回目のピザを言いたくて

シンシア

「繰」

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。ある友人に公園へ呼び出されて、くだらない問いに答えさせられる夢だ。問題の出題者があいつだと夢特有の曖昧さの中で断定できるのは、うんざりするほどの鬱陶しさからだろうか。


 なぜか、あの公園のベンチに二人並んで腰を掛ける俺と友人。肌に風のせせらぎを感じることはないが、とても心地がよい気がする。一言も交わすことはなく、ただ道行く通行人を二人で観察するだけの時間。


「ねぇ、ピザって10回言ってみて」

「ねぇ、ピザって10回言ってみて」

「ねぇ、ピザって……」


 ふとした瞬間。いや、もう9回目なのであの赤い車が通り過ぎた後。決まって鬼のような10回クイズ攻めが始まる。「ねぇ」を皮切りにして、友人は壊れたテープレコーダーと化す。こうなったら最後。俺がピザと10回言わない限り次の場面へ進行しない。ただ、俺はこの夢の中で10回唱えられたことがないので、10回ピザと連呼した所で目覚めがよくなる保証はどこにもない。ただ、俺はすでにこの夢が悪夢確定であることが分かっていた。それでも口を開くしかなかった。


「ねぇ、ピザって10回言ってみて」

「……ピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」


 9個目のピザを注文し終えた所で店は閉まる。いや、喉が閉まった。


「ねぇ、ピザって10回言ってみて」

「ピザピザピザピザピザピザピザピザピザ」

「ねぇ、ピザって……」


 俺も一度「ピザ」の火蓋を切ると壊れたテープレコーダーだ。ただ、何度繰り返しても9発しか弾倉に弾を込めることができないので、9発までしかピザの言霊を連発できない。これではあいつからの10回クイズの準備段階をクリアすることはできない。


だが、これでもひとしおの嬉しさがある。前回までは8回しかピザを繰り返せなかった。あいつがこの夢の中で「ねぇ、ピザって10回言ってみて」のイントネーションのウザさに磨きをかけるように。俺のピザの発音限界も回を経るごとに増えていくのだ。


「うわあああああああああ」


 俺は悲鳴と共に起きあがる。頭と顎に残る疲労感からまたあの夢を見たのだということを自覚する。すぐさま枕元のノートにカウントを記録する。


 「ヒザあったまってきたわ」







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10回目のピザを言いたくて シンシア @syndy_ataru

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