おひなさまクエスト4。大統領登場！

私はシーマ。（おひなさまクエスト３。『お雛様』の罠の続きです）

　あの夢を見たのは、これで9回目だった。

　首都リヤクがゴウ砂漠から押し寄せる黒と茶色の大海嘯（かいしょう）に飲み込まれて灰燼と化す悪夢だ。狐獣人でリヤク共和国大統領のシーマは過去８回の夢の中で、祖国の滅亡と愛する者たちの喪失をなす術もなく体験させられた。

「もうこんな思いはうんざりだ！　神よ！　これは避けがたい運命なのか！　我が祖国はあの悍（おぞ）ましい大海嘯（かいしょう）に飲み込まれて滅ぶしかないのか！　私が愛する者たちも誰一人生き残ることは叶わないのか！」

　９回目の夢の中でシーマは泣きながら叫んだ！

「神よ！　何故私に何度もこんな悪夢を見せるのですか⁈　祖国を滅亡から救うために、私にできることは本当に何もないのですか⁈」

　この世界の女神が現れてシーマに答えた。

「一つだけあります。シーマ。私はあなたが覚悟を決めるのを待っていたのです」

「おお、神よ！　感謝いたします！　わが祖国リヤクが滅亡をまぬがれることができるなら、私はなんでもいたしましょう。この命をも捧げましょう！」

「その覚悟、たしかに受け取りました。ですがこれから起きることは、あなたにとって死ぬよりも辛いことかもしれません。あなたは愛する者たちとも別れなけれななりません」

「おお、なんと！　それはこの上なく辛いことです。でも、それで愛する者たちがみな救われるのなら私はかまいません。たとえこの身が愛するアレクサンドラ、ボニー、チェウォン、ドーリー、エヴァ、フィオーナ、グレイス、ヘレン、イメルダ、ジョゼフィーヌ、ケイト、ローラ、メイリン、ニコル、オルガ、パッタラー、クイン、レベッカ、ソフィア、テレサ、ウルスラ、ヴィヴィアン、ウェンディ―、クセニア、ヨーコ、ザジと引き裂かれることになろうとも！」

「下半身に節操がなさ過ぎるわ！　このたわけもんが！」

パシーン

　女神はハリセンで思いっきりシーマの頭をはたいた。

「オーマイガーッ！」

　シーマは頭を抱えてうずくまった。

「そんなことだからあなたは寿命を縮めてしまうのです！　あなたの寿命はもう残りわずかです！」

「なんですと！」

「これから、あなたには新しい命と新しい肉体を与えます。あなたは生まれ変わって、新しい命、新しい肉体で、このリヤクを救うのです」

「でも、どうやって⁈」

「今、リヤクには大きな力が集結しています。彼らの力を借りれば、リヤクは守られ、災い転じて福と成す事すら可能でしょう」

「神よ！　私は勇者に生まれ変わるのでしょうか⁈」

「え？　ちがいますよ！」

「なんだって！」

「スタンピードはもうすぐそこにまで来ているのです。赤ん坊に生まれ変わってなんて悠長な時間はありません！　即戦力になってもらいます！」

「じゃあ私はいったい？」

「もう時間です。では、行（ゆ）くがいい、シーマよ！」

「私はいったいなににー⁈」

「ちょっと！　シーマ！　ねえシーマったら！　どうしたのよ、急に動かなくなって。ねえ、大統領閣下ったら！」

　その夜、リヤク共和国は、現大統領シーマ・コザックを失った。腹上死であった。

（おーい、みんな起きてくれ！）

　ヨーイドンが土魔法で作った砂漠の大神殿、もとい鳥小屋に付随する宿泊施設でぐっすり眠っていたＡ級冒険者グループQPsのヨーイドン、コマチ・ネネ、モッコの３人は、頭の中で突如響き渡る大声でたたき起こされた。

「だればい！　おいをこんな夜中におこしたバカチンは！　モッコお前やと？」

「ほんに無粋な。妾（わらわ）はまだ眠り足りぬそよ。いとさうざうし」

「違（ちげ）えよ！　俺じゃねえ！　俺も起こされたクチだ。どこのどいつだぁ、おれたちの安眠を妨げたヤツは！」

　不機嫌に起きてくる３人。

（すまない。呼んだのは、私だ）

「私だ、じゃわかんねえよ。誰だ！　どこにいやがる！」

「ちぃとも姿が見えんとよ！」

「待ちやれ！　これは念話ぞ。その魔力はトリ小屋の奥から来ておるぞよ」

「まさか、あそこには『お雛様』しかおらんと」

「気配は感じねえが、誰か忍び込んできやがったか？」

「どうやら、それも違うのう。この声は『お雛様』のものじゃ」

「「『お雛様』ぁ？」」

（そうか。私は『お雛様』に転生したのか。たしかに即戦力ではあるな）

　３人は体高10メートルの『お雛様』を見上げた。

（ほう、ドワーフにアラクネにリザードマンの３人組となるとあの有名なQPsか。これは頼もしいな）

「おい、俺はドラゴニュートだ。リザードマンと一緒にするんじゃねえ！」

　ドラゴニュートの王子のモッコが訂正する。

（そうなのか。それはすまなかった）

「『お雛様』、あんた喋れたと？」

　ドワーフ王子のヨーイドンが尋ねる。

（どうなんだろうな。以前は分からぬが、私が中に入ってからは念話で意思疎通が可能だ）

「じゃあ『お雛様』に憑依しているってことか？　あんたは幽霊なのか？」

　今度はモッコが質問する。

（女神さまは、私を転生させるとおっしゃっていたから、元の私は死んだのだろう。だが私は幽霊などではない。この私が『お雛様』本人だ。）

「では、卒爾（そつじ）ながら、妾（わらわ）たちに御名（みな）を聞かせてもらえまいか」

　アラクネ女王のコマチ・ネネが訊（き）いた。

（おお、これは失礼した。私はシーマ・コザック。ここリヤク共和国の大統領だ。正確には前大統領だがな）

「「「大統領！！！」」」

（そうだ。この後リヤクが大海嘯（かいしょう）に襲われる。私はそれを止めるために生まれ変わったんだ！）

「なんたることぞ！」

「えらいことばい！」

「おい、大海嘯（かいしょう）ってなんのことだ？」

（魔蟲（まちゅう）のスタンピードのことだ。何千もの巨大な魔蟲の群れが大地を埋め尽くしこのリヤクに向かってきている。このままではスタンピードに呑み込まれてリヤクの人々も街も全てが灰燼と化して滅亡してしまう。リヤクを救うため、QPsの皆にも手伝って欲しい！　頼む！　この通りだ！）

　体高10メートルの巨大な黄色いヒヨコが、ない首をさらに縮めて精一杯に頭を下げた。

『おひなさまクエスト５。魔蟲からリヤクを守れ、QPs！』第１話「魔蟲」に続く

https://kakuyomu.jp/works/16818622171242102223/episodes/16818622171242592943

注・本作は『おひなさまクエスト３。『お雛様』の罠』のつづきです。

https://kakuyomu.jp/works/16818622170762840820/episodes/16818622170762998211

おまけ

ヨーイドンのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170455557686

モッコのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170518015585

コマチ・ネネのイラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170664038837

お雛様とQPsの三人と恐竜の大きさの比較イラストはコチラ

https://kakuyomu.jp/users/TokiYorinori/news/16818622170893699439